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「バ、バカ殿!?」

非常勤講師として曜日によって

いくつかの学校で数時間ずつ勤務していた。

大阪の南部に位置するZ高校では

体育の担当はなく、週1日木曜だけ1年生の

3クラスの保健の授業を受け持っていた。

泉州の方言や、地域性、祭りにかける情熱

などを目の当たりにするたび、

自分が23年過ごしてきた同じ大阪だとは

とても思えないようなオドロキを感じた。

生徒から

「昨日自転車でコケちゃあってよおー。」

などと最初に聞いた時は、

こいつは見た目は普通やけど

ガラが悪い不良なんやろか?と思ったし、

「お母さんと買い物に行ったんやしいー。」

などと聞いた時には、自分の家から

20数キロしか離れていないというのに

遠くの田舎へ旅行にでも来たような

錯覚に陥るのであった。

真面目で成績もいい女子でも同じような

しゃべり方をする子がけっこういるんで、

これは地域性というものなんだとわかった。

生徒らの話によると地域に深く根付いた

祭り行事の影響からなのか、

驚いたことに親は子どもが未成年のうちから

酒を飲むことだけでなく、

喫煙についてもまったく問題にしない家庭が

多いということだった。

おとなも子どもも大阪という都会の

イメージから離れたのんびりした空気の中で

暮らしているように思えた。


保健の授業開始。

ひとりの男子生徒が10分ほど

授業に遅れて教室に入ってきた。

コイツ。 またか、、、、。

べつにツッパってるというわけではなく、

ただ単におっとりしてだらあーーっとしてる

彼は俺に一言もなく、堂々と俺の目の前を

ゆっくり通過して自分の席に着いた。

「おい、先週も遅刻してきたやないか。 

どうしたんや?」

「ああ、先生ごめんごめん。 

寝坊しちゃあってよおー。」

そのヘラヘラした態度にムカついた俺は

思わず黒板消しを手にすると

彼の前までずんずん寄っていって

「小学生とちゃうんやからなあ。

遅れてすみません、やろおーっ!!」

と叫んで彼の横っ面をバーンとはたいた。

生徒らは緊迫してシ――ン、、、と

静まり返った。

「うわあ! 先生なにすんねえーーん!」

と言う彼の顔をさらにバンバンはたくと

顔と頭の左半分が見事に真っ白になった。

バ、バカ殿!?

それを見るとたまらなくおかしくなって

俺は半分笑いながら

「じゅ、授業が終わるまでそのままでおれ!」

と言った。

「ええーーーっ! カンベンしてやあー。」

教室中が笑いに包まれる。

授業を再開して黒板に文章を書きながら

チラッと見ると半分白塗りになった男が

真面目にノートに書き写している姿が

もうおかしくておかしくてたまらず、

必死に笑いをこらえた。

「よっしゃ、もうえーわ。 顔を洗ってこい。」

「ホンマに? ええの? 

もおーまいったわあー。」

「来週は遅刻するなよ、バカ殿。」

「はあ〜い。」

彼が頭から白い煙をたなびかせながら

バタバタと教室を出ていこうとすると

みんなまたゲラゲラ笑った。

現在ならパワハラだ!とたたかれるのかなあ。



俺は小6の時の担任と、中学の時の

体育の先生にそんなにたいして悪いことを

したわけでもないのに何回もビンタをされた。

古典の先生に教室のカギについている

10センチほどの角張った木の棒で頭を

コーン!と叩かれるともうめちゃくちゃ痛くて

タンコブができたりもした。

厳しいというかやや暴力的すぎる教師が

ある程度存在して当たり前の時代だった。

昔は多少やりすぎだったとは思うけど、

おとなをナメている思春期の悪ガキを

指導していくにはことばだけでなんて

到底無理があるのでは?とも思う。

もちろん暴力を肯定するわけじゃないけど。


当時超難関の教員採用試験に

結局パスできないまま教諭にはなれずに

非常勤講師として3年勤めて教職を離れた。

風潮が変わり、教師がちょっとしたことでも

保護者やマスコミから激しく責められるように

なってくると、結果的には教諭になれなくて

よかったなあとつくづく思うのであった。

先生はほんとにタイヘンだあ。


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