「覆面男の憂鬱」
ー前回からの続きー
スキー講習会2日目の朝。
うう〜〜ん、、、。
ここは?
そうや、長野に来てたんやった。
酔いつぶれてそのまま寝てしまったのか。
ふとんの中で横を向くとちょうど
目覚めたばかりの元オリンピック器械体操
日本代表補欠のF田先生と目が合った。
「うわあーーっ!!
な、な、なんやなんや!!
こっちを向くなあーーっ!!」
F田先生が叫んでふとんから飛び出していく。
ええっ?
なんや? どうしたんや?
「あはははは!
F田先生は昨日早くに寝たから
レオ先生のあの顔を今初めて見たんやな。
寝起きでそりゃビックリするわな〜。」
体育科主任のK山先生が大笑いする。
「俺の、顔??
ああーーっ! ラクガキかっ!」
洗面所へ走っていって鏡を見る。
「ななななんじゃこりゃあーー!!」
赤の油性マジックペンで顔全面に
まるでアフリカ奥地に潜む恐怖の食人族
みたいな模様がびっしりと描かれている。
自分の顔やのにコ、コワすぎる!!
もしかして??
トイレの個室で恐る恐る確認。
「チ、チンチンの裏にまで
描いてあるう〜〜〜!!!」
信じられへん。
誰のシワザや?
冬の信州のめちゃ冷たい水に耐えながら
顔を洗うけどさすが油性、
セッケンを使ってもほとんど落ちない。
寝ぼけまなこで歯を磨きにきた
男子生徒が叫んで後ずさる。
「エゲツないやろ、ほんまに。
昨日宴会でK山先生らに
ラクガキされたんやわ。」
「うわあ〜〜。
先生もタイヘンやなあ。
もしかしてニベア塗ったら
落ちやすくなるかも?
これ使ってみてください。」
「ああ、ありがとうな。」
ああ、水が冷たいいい〜〜!!
やっと半分くらい色が落ちた時、
旅館の館内放送が。
「お食事の用意ができました。
食堂にお集まりください。」
ええーっ!
こんな顔で行かれへん。
I民先生がニタニタしながら銀行強盗が
被るような赤い毛糸の目出し帽を持ってきた。
頭のてっぺんには黄色い丸い玉が着いている。
これがスキー用?
「いやいやいやいやレオ先生。
めちゃオモロイ顔ですねえ。
これ被ります?」
アンタらが描いたんやろがっ!!
仕方なく怪しすぎる目出し帽を被って食堂へ。
とにかく声を出さないようにしよう。
席に着くと周りの30人ほどの
男女生徒が一斉にこっちを見て
「な、何あれ? 覆面被ってるわ。」
「誰や? 先生か?」
とヒソヒソ話し出す。
うわあーっ。
俺のことはソッとしておいてくれ〜。
だ、大丈夫や。
黙ってたら誰かわかれへん。
その時I民先生が後ろから
俺の頭に腕を伸ばしてきた。
「レオ先生!
なあ〜にを被ってるんですかあ!」
スッポオーーン。
「ああっ!」
目出し帽を取られた俺が取り返そうと
思わず立ち上がると食堂は大騒ぎになった。
「うわあーーっ! なんやアレ!」
「きゃあーーっ!」
「キモチわるうーーっ!」
向かいの席のF田先生が立って移動していく。
「食欲がなくなる、、、。」
ち、ちくしょー。
ザワつくまわりを無視してシャケを頬張る。
2日目のスキー講習会を終えると
風呂に入る時間はなく、
着替えて荷物を片付けて
すぐバスで大阪への帰路へ向かう。
翌朝早くにZ高校に到着。
副校長が出迎えに来ていた。
バスから次々と降りる日焼けした顔の
生徒らににこやかな笑顔で
「おかえりなさい〜。」
と声をかけていく副校長は
俺が降りると目を見開いて叫ぶ。
「レ、レオ先生!
首! 首があーっ!」
「え? ああ、この赤いのは
マジックでラクガキされたんです。」
「はあ、はあ。血かと思った。
大ケガしたのかと。
あービックリした。」
帰宅。
スイミングコーチの後輩に電話する。
「まいど。
今から銭湯行けへんか?」
「銭湯? えらいまた急ですねー。」
脱衣所で脱ぎ始めると、体中に赤で描かれた
ラクガキを見て後輩が大笑いする。
「な、何コレ! マジック??
これブラジャーやん。
わははははっ!
ここには賀正って書いてあるわ。」
「背中のラクガキ落としてくれ。
自分では洗われへん。」
洗い場で見知らぬオッチャンらが見つめる中、
ピンク色の泡が足元をゆっくり流れていく。
「行く年来る年やて。 わははっ!
教師ってムチャクチャやるんですねえ。」
「いや〜、ほんまタイヘンな学校やねん。」
今年も終わりか。




