「幻惑アイシャドウ」
1月の末、タケシ君の高校受験まで
あと1週間と迫ってきていた。
「よし、これでおしまいや。」
「先生、ありがとうございました。
英語だいぶ自信ついたわー。」
「短期間でかなりレベルアップできたなあ。
凡ミスだけ気をつけたらいけるよ。
他の教科も大丈夫?」
「はい、ちゃんと勉強してます。」
最後のレッスンが終わった。
体育と保健の講師をしてるのに
初めて英語の家庭教師を
任されることになって、
なぜか同姓同名のタケシ君の
高校受験を突破するという
人生がかかったプレッシャーを
共に感じる1ヶ月半。
俺自身にとっても貴重な経験であった。
「先生! 合格しました!!!」
タケシ君からの電話で
俺も舞い上がった。
、、、やった!
やったぞお!!!
「ホントにお世話になりまして。
先生、今日はどんどん食べて
飲んでくださいね〜。」
タケシ君のお母さんは
北新地の高級クラブのママのような
妖艶な物腰ですき焼きの具を
器に取り分けてくれる。
自宅での夕食だというのに
アイシャドウは相変わらずドギツい!
脳裏に焼き付くこのキャラクター。
もしかしてこのひとはこの化粧のまま
寝てるんちゃうやろか??
「はい、いただきます!
言われた通り今日はバイクじゃなく
電車で来ました。」
美味しい上等な肉やなあ。
勉強を教えに来てるのにいつもゴチソーと
小休止にはショートケーキを
出してもらって恐縮だ。
でもすごいお金持ちやろうけど
この豪華なシャンデリアが吊るされた
リビングでのお母さんの振る舞いは
いつも自然でイヤミな感じはまったくない。
タケシ君と弟もすごく素直で
ノビノビと過ごしている。
ステキな家族やな、、、。
「タケシ君、バレーボール部やろ。
運動はなんでも得意なの?」
「だいたいなんでもできますよー。」
「先生、この前運動会のリレーも
優勝しましてんよ〜。
3番やったけどこの子がビューン!て抜いて
1番になって。
スゴかったねえ〜。」
「お母さんが腕をブンブン振り回して
めちゃ大きな声でタケシー!って
応援するから走っててもう恥ずかしくて。
あとで校長先生に
『ゲンキなお母さんやねえ。』
って言われて。
しっかり覚えられてるやん!
クラスのみんなもお母さんのこと
知ってるんやでー。」
「先生、日本酒飲みましょ。
カンしますね〜。」
「もおーお母さん、ひとの話を
全然聴いてないしー。」
「そーんなことないわよ〜。
ねえ、先生。
ホラ、小さいタケシはちゃんと
ネギも食べんと大きくなれへんのよ〜。」
「だからクラスで1番身長高いんやって。」
「おっきいタケシはイッパイお肉食べて〜。」
「あ、ハイ。
めっちゃ美味しいですね。」
「よかったあ、気に入ってもらえて。
今日はお祝いやし、
あとでまたカラオケ大会しましょ〜。
先生、安全地帯歌えます?」
ー夏ー。
お母さんから電話がかかってきた。
「先生、お久しぶりですう。
お元気にしてはりましたあ?
ほら、ヘリコプターの免許に600万円以上
かかるって言うてたでしょお。
ビューン!て飛んでみたいんやけど
やっぱりちょっと高いから諦めまして〜ん。
でもその代わりにねえ、先生。」
「は、はあ、代わり?」
「喫茶店始めることにしまして〜。
今度の日曜にオープンするから
コーヒー飲みに来てくださあ〜い。」
、、、ひたすらマイペースな
アダムスファミリーママである。
ーそして翌年の冬ー
連絡があり、次男の高校受験のために
再び英語を教えに行くことに。
お母さんは相変わらず美しく、
超絶ドギツいアイシャドウが俺を惑わせる。
そして無事、兄弟揃って合格。
メデタシメデタシ。




