「電車は正しく乗りましょう」
ー前回からの続きー
夜の路地で靴下片方だけ残して
脱がされた服を抱えたスッポンポンの俺。
なあ〜にが「ダンシンオールナイっ♪」
やねんっ、まったくう〜〜。
ブツブツ言いながらパンツを履く。
ハダカの胸を見ると「いやいやいやいや」
と油性マジックペンで落書きされている。
スナックを追い出されて帰ることにした
ヨッパライ妖怪軍団が駅に着いた。
「トイレに行ってきまーす。」
用を足していると、他に電車を待っている
人がいないしーんとしていた空間が
突然騒がしくなってきた。
「あひょおおおーーーーっ!」
ザッ!ザッ!ザッ!ザッ!
「わはははは!」
な、何をやってるんや??
ホームに戻ると悪ノリコンビO谷先生と
I丹先生が線路に降りて砂利の上を
奇声を上げて走り回っていた。
おいおいおいーっ。
乗務員室から出てきた駅員が
手にしたライトをこちらへ向けて叫ぶ。
「アンタらそこで何やってるんやあーっ!!」
二人はまったく聞く耳を持たない。
「あひょおおおーーーーっ!」
ザッ!ザッ!ザッ!ザッ!
む、無茶苦茶や、、、。
しばらくすると電車が来た。
ああ、やっと今日の乱痴気騒ぎも終わりだ。
5人で通路を挟んで向かい合わせに座る。
するといきなり体育科主任K山先生が
前体育科主任T田先生のスニーカーを強引に
脱がせて向かいのO谷先生に放り投げる。
「ほれっ。」
「ちょっとおおおおお。
なあーにをするんですかあ。」
T田先生が片足ケンケンで立ち上がって
向かいの席へ行くと
「ほれっ。」
とO谷先生がまたK山先生に投げ返す。
「わはははは!」
赤白のボーダーシャツを着た巨体の
ぬりかべT田先生が
「ちょっとお。返してくださいよー。」
と車内を飛び交うスニーカーを取り返そうと
右に左に手を伸ばす。
まるでラグビーのようだ。
「ほれっ。」
「ほれっ。」
「まあまあまあまあ。」
「いやいやいやいや。」
「わはははは!」
「返してっちゅうのにいーっ!」
夜遅くの静かな電車に突如乱入してきた
常識外れな酔っ払いバカ騒ぎ集団を
周りに数人いる乗客らは呆れて
黙って見つめている。
あ〜もうハズカシイなあ。
T田先生が窓の外を見て
「ああもう次の駅で降りなあかんわ。」
とこちらを振り返った。
「あれ? ボクのくつは?」
「ないなあ。 どこいったんやろ?」
「おかしいですねえ。」
「ちょっとちょっとお。」
停車。
「もおー、しゃあないなあ。
探して見つけたら明日ちゃんと学校まで
持ってきてくださいよー。」
ケンケンでドアを出ていく。
まさか家までケンケンちゃうよな?
発車すると隣に座っているK山先生が
俺の脇を肘でつついてきた。
にやっと笑って座席の隙間に無理やり
突っ込んで隠してあるスニーカーを見せる。
しょ、小学生かっ!
この人ら全員ほんまに公立高校の
教師なんやろか???
次の停車駅で窓の外を見ると、
ホームを歩いてる人の陰に表示板の駅名の
最初の「は」だけがチラッと見えた。
「ああっ!! はごろも(羽衣)や!!
乗り換えないと!!」
俺は慌てて飛び降りた。
あぶなかったなあ。
ふと目の前の表示板をもう一度見ると、、、
はるき(春木)だった!!!
うわ、違った! 降りたらあかんやん!
ドアの方へ駆け寄ると無情にドアが閉まった。
あっちゃあー。
電車が動き出す。
まいったなあ。
すると1つの窓がガタン!と上に開いて
I丹先生が上半身を乗り出して叫んだ。
「レオ先生! 早く早くう!」
車体の外をバンバン!叩く。
え?
酔っ払ったアタマでよく判断できないままに
俺は走り出していた。
加速していく電車よりなんとか早く
たどり着くと窓の淵に手をかけた。
「おおおりゃああああああああ!!!」
頭から電車内に飛び込む。
ゴロゴロゴローっ。
床から起き上がると周りの乗客みんなが
驚いて俺を見つめていた。
I丹先生が顔を真っ赤にして
大笑いしながら言った。
「いやいやいやー、ダメですよー、
電車はちゃんとドアから乗らないと。」