「葛藤の中で」
ー前回からの続きー
Z高校の秋の遠足の引率で生徒がタバコを
吸っている現場に出くわしてしまった俺は
ちょっと不良っぽい5、6人に
取り囲まれてしまうという
いきなり経験したことのない状況に
追い込まれたのであった。
背の高いH崎が今まで見せたことのない
狂気の目で俺をじっと見下ろし、
その横でK戸がふてぶてしい態度で
俺につっかかってくる。
「H崎がタバコ吸って退学になるんやったら
俺らもみーんな退学か。」
周りの3、4人はコーフンして
「そうや! そうや!
みんな吸ってるでえ!」
「俺も!」
と大声で叫ぶ。
(なんじゃそりゃ?
ホンマにコイツらはまだガキなんやな。)
今にも集団リンチに遭いそうな
緊迫した空気なのに俺はなぜか
妙に冷静だった。
まだアタマが現実についてこない。
「おい!
おまえら何をやってるんやあ!」
振り返ると40歳くらいの男の先生が
血相を変えて走り寄ってきた。
俺を取り囲んでいた輪が崩れる。
「先生、どうしました?
大丈夫ですか?」
「はい、このH崎がタバコを吸っているのを
発見しまして。」
H崎が吠える。
「何を見たっちゅうんじゃあ!」
「コラやめんか! H崎!
なんや、先生に向かってその口のきき方はっ!
学校に戻ってから話をする。
職員室に来い。
おまえらは解散せえ!
自分のクラスからだいぶ遅れてるやろ。
早く行け!」
歩き去るK戸が振り返って俺を睨みつける。
「覚えとけよ。」
せっかく楽しかった自然の中での1日が
後味の悪いことになってしまい
すごく残念だった。
翌週学校へ行くとH崎と仲のよかった
女子生徒から彼が退学になったと聞かされた。
「やっぱりそうなんや。」
俺がつぶやくと
「レオ先生がタバコ吸ってるとこ
見つけたんでしょ?
でもH崎君は出席日数全然足らんし、
もう2回も留年してるし、
どっちにしろもう退学でしたよ。
先生、気にしたらアカンでえ〜。」
と彼女は言う。
とはいえ、やっぱりなんかトドメを
刺してしまったようで気が重い。
それに俺を睨みつけるK戸の目が忘れられない。
H崎と仲がよかったというあいつは
学校で俺と出くわしたら殴ってやろうとでも
考えてるんやろか?
今まで殴り合いの激しいケンカなんて
したことのない俺には暴力に対する
怯えもあるけど、
それよりももっと重要なことが気がかりだった。
まだ今年大学を出たばかりで23歳の俺は
ジャージ上下を着て学校で過ごしている
せいもあってか、とにかく先生からも生徒からも
しょっちゅう生徒やOBだと勘違いされていた。
もし、K戸と出くわして殴り合いになんて
なってしまったら
「生徒と殴り合うなんてやっぱり
まだ全然学生気分が抜けていない
教員の資質などない半人前」
と学校、教育委員会から判断されて
教育現場から排除されてしまうんじゃないか?
なんのために必死になんとか体育大学に入って、
卒業して講師になって今までやってきたんや?
でももしあいつが殴りかかってきたら
どうしたらいいんやろう?
無抵抗で大ケガするまでじっとやられてるのか?
一番仲のいい4つ年上のI民先生に
相談してみよう。
「K戸? ああ、あいつめちゃナマイキでしょ?
もしかかってきたら思い切り
シバいたってくださいよお〜。
バシいーっ!と。
教育委員会?
いやいやいや、
そんなもん気にせんでいいですよ。」
アカン、、、。
相談する相手を間違えた。
明るく面白い先生やけど、
5年連続で元剣道全国日本一のこの人は
考え方が闘争的なんやろか?
結局このことが気がかりで
しばらくはかなり憂鬱だったけど
それから学校でK戸の顔を見ることはなく
平和に時は過ぎていったのだった。
ーここでタイムスリップー
1年半近く経った春。
卒業式の日に廊下を歩いていると向こうから
なんと退学になったH崎がやってきた。
マジメそうな可愛らしいカノジョ?と一緒だ。
あの遠足以来会うのは初めて。
(俺のことを憎んでるんかなあ?
でもなあ。 どうやろ?)
少し緊張しながら近づいていくと
H崎が俺に気付いた。
「あああーーっ!
先生、久しぶりい〜〜っ!
ゲンキい? 俺? ゲンキですよ〜。
ウチ和菓子屋をやってて、
あとを継ぐことにしたんスよ。」
カノジョ?の方を向くと
「この先生に保健を教えてもらっててんで。
めっちゃ若いやろお?」
とニッコリ笑った。




