表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/32

「狂犬の目」

Z高校3学年合同の秋の遠足へ。

とんでもない人数だ。

1200、1300人くらいやろか。

ちらほら紅葉が始まっている

のどかな山道のハイキング。

長い長い生徒の列。

教員は適当な間隔で生徒達の間を

歩いて引率する。

俺は一番後ろの方で自分が保健の授業を

受け持っている1年生のクラスの生徒らと歩く。


保健の授業の時は50分という枠の中で

進行具合を調節しながら教科書を読んだり、

黒板に要点を書いたり、生徒に質問したり、

雰囲気が固くなり過ぎないように

テキトーにムダ話をしたりで

いつも気を張っている。

時間が余って間が持たなくならないかな?

地味でつまらない内容で退屈しないかな?

授業をする前日から上手くこなせるかどうか

気がかりだ。

なんて神経を使う仕事なんやろう。


他の学校では体育も教えているけど

保健に比べたらはるかに気が楽だ。

たとえばバレーボールなら

レシーブのやり方をバレーボール部の

生徒にお手本を見せてもらって、

コツや注意点を全員に伝える。

グループごとに10分練習させる。

笛を吹いて生徒をまた集合させて

次はトスを同じ要領で説明して

またグループごとに10分練習させる

というように時間の配分がしやすいし、

自分の緊張感を和らげる時間も持てるからだ。


今日は保健の授業の時とはまっったく違って、

ただ生徒たちとリラックスして話しながら、

難しいことを考えずに自然の空気を

ゆっくり味わえる。

サイコーだあ。

元々よくしゃべる俺がチョーシに乗って

いろんなバカ話をしていると

生徒たちが集まってきて大笑いする。

普段教室で見せる態度とは違う俺を見て、

この先生こんなに冗談とか言うんやなあ!

と驚いている感じだ。

ああ、楽しい1日やなあ、、、

で今日が過ぎると思っていたら!!



他の先生に伝える用事ができて、

軽くかけ足で列の前の方へと進んでいく。

クラスごとに固まって歩いていた生徒の列は

もはやちりぢりになっている。

しばらく行ったところで3人の男子がいて

白い煙が立ち昇るのが見えた。

えっ!

、、、タバコかあ。

ややこしい場面に出くわしたぞ。

教員という立場上見ぬフリはできない。


(俺は中2からタバコを吸い始めた。

毎日15本から多い日は30本ほど、

高校の時は昼休みやクラブ活動

(器械体操部)の後に一服。

停学や補導されたりすることはなく、

この遠足から2年後、25歳で禁煙した。)


自分が同じことをしてきたのに

エラそうにとがめるのか?

この俺にそんな権利があるのか?

でも今ここでは俺は先生なのだ。

、、、腹をくくった。


「おい。」

後ろから声をかけると驚いたことに

彼はまったく慌てることなく、

フウウウーッと長く煙を吐き出すと

ポイっとタバコを溝に投げ捨てて

ゆっくりと振り返った。

あとの2人も立ち止まる。

「H崎、、、。」

俺が保健を教えている生徒だ。

彼はたまにしか登校せず、2回も留年していた。

彼と仲のいい女子から

「H崎君は他の先生には態度が悪くて

評判悪いんやけどレオ先生のことは

話しやすい先生やな、って言うてたよ。」

と、この前聞いて嬉しく思っていた。


「今タバコ吸ってたよな。」

「なんや?

おお? 何を見たって言うんやあ。」

彼は普段の爽やかな笑顔とは別人のような

狂犬の目で俺にぐうっと顔を近づけてきた。

あとの2人はH崎と元同じクラスの3年生だ。

K戸という生徒が

「先生か? おまえ知ってるんか?」

とH崎に訊いて、俺を睨む。

「保健の先生や。」

「H崎、、、おまえもやっぱり、、、

結局はそういうヤツなんか。」

ショックだった。

不良と言われていても

こっちが心を開けばきっと、、、。

俺はただの世間知らずのアマちゃんなのか。

「なんや! どうした?」

後ろから追いついてきた3年生の

男子3、4人が俺を囲んだ。

「あ〜あ、これで俺はもう退学やなあ。」

H崎が言うとK戸が

「おまえ、覚えとけよ。」

と俺に言った。

トシも体格もそんなに変わらない不良っぽい

生徒に囲まれて緊迫した場面のはずなのに

フシギと怖いという感覚はない。

H崎が自分に見せた態度の豹変への

気持ちの対応が追いつかず、

「ああそうか、もしかして俺は

ここでこいつらにシバカレるのか?」

とまるで他人事のようにぼんやりしていた。


ー次回「葛藤の中で」に続くー

ドキドキ、、、。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ