「真っ直ぐな気持ち」
Z高校では弱小水泳部の顧問代理を
任されている。
3年男子2人と1年男子1人はたまにしか
練習に顔を出さず、
2年女子5人だけでの練習になることが多い。
女子はバタフライは誰もできず、
他の3泳法のレベルもとても水泳部と呼べる
レベルではなかったけど、
もちろん少しずつ上達はしてきた。
夏のシーズンは過ぎてゆき、
いよいよプールの使用が終了。
年中変わらず活動する他の部と違い、
これから半年以上は筋トレなどしか
できなくなる。
2年女子5人と学校を出て海まで15分ほどの
ランニング。
閉ざされた海の家が並ぶ浜辺はなんだか寂しい。
波打ち際に並んで
「来年の春までトレーニングばっかりかあ。」
と、T上がつぶやく。
しばらくするとキャプテンのS田が
「そうやっ!」
と俺の方に向き直った。
「レオ先生、器械体操が専門でしょ?
冬の間、私らに教えてくださいよ。
バク転とか。」
「ええーーっ!スゴいスゴおーい!
やってみたあーい!」
そうやな、、、
前向きになれるかも。
さっそく学校まで戻って体育館で
器械体操用のロングマットを拡げる。
「先生、なんかやって見せてよ〜。」
「そうやなあ。」
アキレス腱を伸ばしながら体をほぐす。
軽く助走をつけて両腕を振り上げて
そのまま手を床に着いて前に1回転。
転回。
「おおーっ!」
続いて、助走から側転1/4ひねり
(ロンダート)から後方抱え込み宙返り。
「うわーっ! カッコいいーーっ!」
初めて目の前で見る宙返りに
みんなコーフンしている。
「これから半年練習したらもしかしたら
バク転とかできるようになるかもなっ。」
こうして前転、後転、開脚前転、開脚後転、
倒立、とイチからの指導を始めた。
単調な筋トレ、ランニングだけより
役に立ちそうだ。
みんな楽しそうに一生懸命練習している。
次の週ー。
体育館に行くと
「先生、ちょっと、、、。」
とS田に促され、外へ出る。
女子全員がT上を囲むように立つ。
「ほら、しっかりしいや。
ちゃんと言わんとアカンで。」
S田がT上を一歩前へ押し出す。
「う、うん、、、。」
?? なんなんやろ??
いつもリンゴのように赤いほっぺたをして
頭のてっぺんにリボンを着けているT上は
とても素直で純朴そのものだ。
彼女は周りに励まされて顔を上げると
俺を真っ直ぐに見る。
「レオ先生、、、あの、、、
私、、、先生が好きですっ!!!」
え?? ええーーーーっ!!!
「だからどうしたいとかじゃなくて
この気持ちだけどうしても伝えて
おきたかったんです。
それだけ。
これからも今まで通り
いろいろ指導してください!」
感極まって泣き出すT上を
みんなが抱えて称える。
「偉いなあ! ちゃんと言えたね!」
一番の仲良しのS田も泣いている。
いつもおっちょこちょいで
トボケたキャラクターのちT上は
実はこんなに強い内面を持っていたなんて。
すごくビックリした。
しばらくして顔を上げたT上は
幸せそうな表情で笑った。
「エヘっ♥」




