「ダーティーヒーロー」
Z高校があるこの地方ではだんじり祭りが
全国的に有名だ。
2階建ての家ほどの高さのあるだんじりを
酒と祭りの空気でアツくなった
数十人の男らが太いロープを走って引っ張って
町中を引き廻す。
昔から変わらない古い町並みは狭い道も多い。
家が建て込む十字路を速度を落とさずに
直角に曲がる豪快な光景が見ものだが、
もちろんコントロール不能になって
角の家や電柱にぶち当たることもよくある。
今まで何回も壁や門を破壊されている
住人らもこればかりは文句を言わず
割り切っているようだ。
家を壊した場合は町内会でかけている
だんじり保険で修理費を弁償する。
2、3年に1人くらいだんじりと壁や電柱に
挟まれたりして死者が出るけど、
それでも彼らは決してこの伝統行事を
やめることはしない。
とにかくこの地域に根付く意識の中心は
だんじりであり、教師も町内会の相談や
準備のために仕事を休んで
参加したりするという。
教室に入ると50人近い生徒のうち、
3分の1ほどがいない。
ええーーー???
今日はえらい欠席してる生徒が多いなあ!
ああ、もうすぐ祭りか。
そうかー、生徒まで休みが増えるのか
と思って保健の授業をしていると、
遠くの方から
「わっしょいわっしょい!」
という掛け声と
チッキ!チッキ!チッキ!
ドン!ドドン!ドドン!という
太鼓と笛の音が聞こえてきた。
ん? なんだ??
生徒らがそれに反応して席を立って
窓にどどどおおーーっ!と走り寄る。
「試験曳きや!!」
あ、あのおー、、もしもし、、、
授業中なんですけどお、、、。
音がだんだん近づいてきて、
賑やかな群衆がグラウンドの向こうの
壁に沿って練り歩いていく。
壁の上からだんじりの屋根の部分が
上下に揺れるのが見える。
「やっぱり学校休んで試験曳きに
参加したかったなあ!」
「ちくしょー! 俺も行きたかったのにい!」
窓に鈴なりになった生徒らが口々に叫ぶ。
窓から顔を出して隣の教室の方を見てみると
やはりコーフンした生徒らが叫んでいる
光景がそこにあった。
「ああーーっ! 3組の山本や!!」
「ホンマや!!」
見るとだんじりの屋根の上で
なんとも誇らしげに満面の笑顔で
両手を挙げたハッピ姿の少年が踊っている。
「あいつうー! 休みやがったなあー!!」
「こいつら絶対わざと学校の前を通るように
してるよなあ!」
学校をズル休みした生徒が悪びれることなく
意気揚々と授業中の全校生徒の前を
だんじりに乗って通り過ぎていく、
というシュールな世界がそこにあった。




