「妖怪教師達との狂乱の夜」
「よっしゃー、木曜やな。
飲みに行こかあ。 行く人っ?」
6時間目の授業が終わって体育教官室に
全員が揃うと体育科主任のK山先生
(当時34才)が声を上げる。
呑み助の妖怪どもはうれしそうに
「おおー、いいっスねえ。」
と相好を崩した。
「ハイ!」
俺(22才)が手を挙げると、
去年の体育科主任のT田先生(35才)が
「レオ先生、懲りないですネ〜。
先週もエライ目に遭ってたのに
まあ〜た行くんですかあ?」
とぬりかべのような体を揺すりながら
体格に似つかないトボケた声を出す。
俺は覚悟を決めていた。
この体育科で講師は俺1人、
あとは全員が教諭だ。
この春に入って来たばかりの新参者でもある
俺にできることはとにかくセンパイ方に
打ち解けてこの生きた教職の場で
何かを学ばせてもらうことだ。
このZ高校では週に1日木曜だけ、
1年生の3クラスに保健の授業を
教えに来ていた。
たまたま体育科では「木曜会」という
ほぼ毎週行われる飲み会があって、
できるだけ毎回参加することにしたのだ。
たとえこの連中の酒癖が
めっぽう悪くても、、、悪くても、、、、。
先週はたまたま体育科だけでなく、
社会科の先生数人も参加していた。
ガンガン飲んでみんなベロンベロン状態。
1軒目の店を出て次の店へと歩く途中、
道の真ん中でなぜか
K山先生と社会科の1人とが服を掴んで
お互いをぐるぐる振り回すケンカになり、
今度はそれを止めに入った別の社会科の
先生と剣道で元5年連続全国一の
学校一番のモテ男I丹先生(26才)が
大声を出してぶつかり合った。
またそれを相撲で元2年連続全国一の
こなきジジイO谷先生(24才)と俺とで
なんとかなだめて止めたのであった。
おいおい、学校を離れた先生って
こんなにハゲシイものなのか?
2軒目の後にふらっと寄った
ケンタッキーフライドチキンでは
K山先生が店の玄関横に置かれた
カーネルサンダースおじさんの銀縁メガネを
ふざけて触っているうちに
フレームを曲げてしまった。
気付いた俺が慌てて元に戻す。
ケーサツを呼ばれたらナンギだと思って、
「今日はもう帰りましょうよ〜。」
と後ろからつい羽交い絞めのようにすると
「おまえはさっきからなあー、、、
うるさいんじゃあー!」
と振りほどかれて10段ほどの
コンクリートの階段を後ろ向きに
ダダダダダダ―ン!!!とまるで
ドラマのように見事に一番下まで
落っこちる。
背中の皮が擦りむけた。
「なあ〜にやってるんですかあ、
レオ先生?」
「階段は気を付けないと。ぎゃはははっ!」
I丹、O谷悪ノリコンビが大笑いしている。
うう〜、ちくしょお〜っ、、、。
今日こそはフツーに楽しく
飲めますように、、、。
まずは寿司屋でスタート。
しばらくして酒が進んでくると
K山先生が隣の先生に
「ボクねえ、このきずしっていうやつが
どうも苦手なんですわー。」
と言いながら口に入れて黙ると、
5秒後、そのまま下を向いていきなり
ゲロロロロロ!と床に吐いた。
おしぼりで静かに口元を拭うと
何事もなかったようにまたそのまま
話し続けている。
「い、今のはなんなんや??」
2軒目でスナックへ。
このメンバーではスナックは初めてだ。
カウンターのイスに座ると
I丹、O谷の悪ノリコンビが俺の横に来て
「まあまあまあまあ。」
と言いながらなぜか俺の服を脱がし始める。
「な、なに???」
この夜から俺にとって悪夢の曲となる
「ダンシングオールナイト」のカラオケを
オーダーする。
「ママ―、油性マジックペン貸してー。」
I丹先生がハダカの胸に落書きをしてくる。
「ちょっとちょっとおーっ!
何するんですかっ???」
俺が抵抗すると岩のような体の
O谷こなきジジイ先生が
とんでもないチカラで押さえつけて来た。
ぐうっ! こ、これが相撲日本一かあ!
動かれへんっ!
真っ赤な顔のI丹先生がうれしそうに
「ダンシンオールナイっ♪
こおーとばにすればあ〜〜♪」
と歌いながら下のジャージとパンツまで
強引に取っ払う。
「な、なにすんねえええーーーん!!!
アンタらそれでも教師かあああああ!!!」
「まあまあまあまあ♪」
「いやいやいやいや♪」
他の先生たちはゴキゲンで大笑いしている。
「きゃああああーーーっ!!!」
店の若い女の子が驚いて叫ぶ。
ママに
「アンタらここをなんやと思ってんの!
出て行って!!!」
と追い出されてしまう。
俺は靴下片方だけ履いたスッポンポン
のままで服を抱えて夜の通りに出た。
ハ、ハズカシイ、、、。
あかん。
今日も平和に飲まれへんかった、、、。
しかし、これで終わりと思ったら、
駅に着いてからもまた
とんでもない騒動が続くのであった!
(「電車は正しく乗りましょう」に続く)