3.エルフの森
『気球1日目』
ヒュゥゥゥ ギシギシ
気球の球皮から吊り下げられた籠の部分は風に揺られてギシギシ音が出る
4人乗りの籠で広くはないが、足を延ばせるから意外と快適に飛べる
騎士「地図によると下にある森は南北にずっと繋がってるらしい」
僧侶「ん~森しか見えな~い」
騎士「この森に分断されて東の始まりの国と西側とが国境になってるんだね」
魔女「エルフは古来よりこの森を支配しているが…人間には友好的ではないぞ」
騎士「国境付近ではいざこざが絶えないらしいね」
僧侶「エルフって見たことないな~」
魔女「耳が長くて容姿は端麗じゃ…人間は一方的にエルフに恋をするのじゃが…」
魔女「寿命の差が大抵切ない結果になるのでエルフは人間を遠ざけて居るのじゃ」
僧侶「へぇ~美人さんなんだ~」
騎士「今日は暖かいから少し高度を上げよう…」
ビリビリ パラパラパラ…僧侶は何かの紙をちぎりばら撒いた
騎士「僧侶?何してるんだい?」
僧侶「え?うん…隊長の指令書を破って捨てたの」
騎士「どうして?」
僧侶「うん…もういいの」
騎士「まだ2つ指令が残ってたんじゃなかったっけ?」
僧侶「ほら…もう帰れないしさ」
騎士「良いのかい?」
僧侶「うん」 ニッコリ笑った
騎士「でも何が書いてあったのかは気になるな」
僧侶「教えてほしい?」
騎士「ちょっと知りたい」
僧侶「……」
騎士「嫌なら良いよ」
僧侶「あの指令にはね…勇者の事が書いてあったの」
騎士「勇者?僕の事かな?」
僧侶「ううん」 フリフリ
騎士「どういう事だろう?」
僧侶「選ばれた勇者と…本物の勇者の事」
騎士「んん???」
僧侶「本物の勇者を探せっていうのが指令6」
騎士「本物の勇者?どういう事かな?」
僧侶「王国で選ばれた勇者の本当の目的は…本物の勇者を魔王の所に導く役目なんだって」
騎士「やっぱりそうだったんだね…師匠も同じ様な事を言ってたよ」
魔女「その本物の勇者がわらわの愛しの人に違いない」
騎士「そうかもしれないね」
魔女「あぁ…愛しきわらわの勇者よ…今助けにゆくぞ」
僧侶「それからね?」
騎士「うん」
僧侶「選ばれた勇者が真実を知った時…指令7…暗殺」
騎士「え?真実?」
僧侶「それは魔王の城に行ったとき分かるって…」
僧侶「でもね?わたし暗殺なんてできない…」
騎士「暗殺…でもどうして暗殺なんか」
僧侶「わかんない…指令が完了したら帰還しろって書いてあった」
騎士「僧侶…ありがとう…全部話してくれて」
僧侶「ううん…ごめんね隠してて」
騎士「とにかく前に進んで見よう…もう帰れないんだし…ね?」
魔女「5年経てば帰れると言っておろうが」
僧侶「だっこ」 僧侶は騎士に抱き着いた
魔女「また始まったかの…ヤレヤレ」
囚人の事が少し分かってきた
彼は選ばれた勇者だった
何かを知って暗殺されそうになった
でも生き残り囚人として過ごした
指輪を持ってたという事は
これから必ず会う筈だ
『気球3日目』
僧侶「ねぇ!騎士!何かおかしいの!来て!」
騎士「どうした?」
僧侶「なんかね?気球の高さが低くなってるみた~い」
騎士「あれ?本当だ…どうしたんだろう?」 異常が無いか見回る
魔女「何の騒ぎじゃ?もうすぐ日が暮れるぞよ?」
騎士「ああああ!?あれは…球皮に小さい穴が開いてる…まずいな」
僧侶「えーーこのまま落ちちゃうの?」
騎士「ちょっと魔石の出力を上げて見る!」
ボボボボボボ…
炎の魔石は最大出力で火炎を出した
僧侶「やっぱり少しづつ下がっていくみた~い」キョロ
騎士「少しだけ降りて修理しよう!ここからじゃ直せない」
魔女「森の夕暮れは早いぞよ?」
騎士「丁度気球を下ろせそうな広い場所がある…あそこに降ろす」
騎士「僧侶と魔女は周囲を警戒してて…魔物が襲ってくるかも知れないから」
僧侶「うんわかった~」
魔女「僧侶や…離れるでないぞ?」
騎士「着地するよ!!」
フワフワ ドッスン
騎士「ちょっと球皮の状態を見て来る」 騎士は籠から降りた
球皮を手繰り寄せて穴の状態を見る
騎士「だめだ…いくつも穴が開いてて糸が足りない…補修したパッチが剥がれて何処か行っちゃったんだ」
僧侶「わたしたちエルフに食べられちゃうかな?」
魔女「エルフは人を食ったりはせぬ」
騎士「仕方ない…今日はここで野営して明日の朝糸に代わる物を探そう」
僧侶「もう真っ暗だよ~ぅこわいよ~う」
辺りはすでに暗く、森の中に入る夜の冷気が肌を刺すようだ
魔女「照明魔法!」 魔女の手のひらに明るい光が現れた
騎士「おぉ…魔女…ちゃんと魔法使えるんだ」
魔女「忘れてしもうた魔法を少しずつ思い出しておる」
騎士「よし!気球の周りで炎の円陣を作ろう…夜行動物が襲ってこないように」
僧侶「わかった~」
騎士「僕は焚き木を集めてくる…僧侶と魔女は火を起こして」
魔女「火魔法!」 ゴゴゴゴ…大きな火炎が周囲を焼く
僧侶「私もぉ!!火魔法」 プスプス…一瞬で火が消えた
魔女「そなたは魔法使いではあるまい…無理はせんで良い」
僧侶「ピーンと来たぞぉ!!茨の植物なら上手に使える!罠魔法!」…茨が寄せ集まり壁の様になった
魔女「うむ…それで良い」
僧侶「ウフフーわたしも役にたってるぅ~♪」
ガウルルル…
僧侶「あわわわ!!ななな…なんか来たぁ!!」
魔女「ウルフかの?」
僧侶「か、囲まれてるよぅ」
魔女「これ!罠魔法を休むでない…周囲を囲めば簡単には近づけんじゃろう」
僧侶「罠魔法!罠魔法!罠魔法!」ザワザワ シュルリ!!
僧侶の操る茨はウルフの群れを捕らえ身動きを封じた
魔女「一気に焼くぞよ?火炎魔法!」 ゴゴゴゴゴ
ギャワン!キャンキャン!
僧侶「す、すごーい」
ウルフの群れは逃げ出した
僧侶「よーし追い払ったね」
魔女「ううむ…」キョロ…魔女は何かに感づいた様だ
僧侶「騎士遅いなーーどこに行ったんだろ?」キョロ
魔女「僧侶…離れるでない囲まれておる」
僧侶「え?」
シュン! ストン!
一本の矢が籠に突き刺さった
エルフ「動くな!」
僧侶「あ!!騎士が捕まえられてる…」
シュン! ストン!
エルフ「動くなと言っている!人間がこの森に何をしに来た!」
僧侶「え?あ…」
魔女(エルフ20人は居りそうじゃな…)ヒソ
僧侶「あの…その…気球が落ちてしまって…」
エルフ「動物達が怯えている!なぜ火を付けた!?」
魔女「すまんのぅ…悪気は無かったんじゃ」
僧侶「騎士は?騎士は大丈夫?」 ソワソワ
エルフ「寝てもらっただけだ!死んではいない!」
魔女「わらわ達をどうするつもりかいのぅ?」
エルフ「全員出て来い!」
木の陰…木の上…土の中から一斉にエルフ達が飛び出して来た
僧侶「あわわわわわ…」
エルフ「連れて行く!人間達を捕らえろ!」
魔女(ここは従った方がよい…おとなしくしておれ)
僧侶「いや!いた!いたーい」 僧侶はエルフ達に捕まえられた
魔女「手柔らかにたのむぞよ」
エルフ「暴れるな人間!いくぞ!」
僧侶「ふぇーん…」
『牢屋』
…といってもただの木の籠だった
格子の隙間から出ようと思えばいつでも出られるし…そもそも鍵も掛っていない
騎士「う、ううん…ハッ!?ここは?」 ガバッ!!騎士は眼を覚まし飛び起きた
魔女「起きたかの?…えらく強い睡眠薬だったようじゃの」
僧侶「ふぇーん…捕まっちゃったよぅ」
騎士「みんなエルフに捕まったか…つつつ頭がクラクラする」 膝に力が入らない
魔女「薬が切れるまでおとなしくしておれ…怪我をするでな」
騎士「二人とも大丈夫かい?怪我はないかい?」
魔女「僧侶のおかげで怪我はしておらん…しかし…」
騎士「うん?」
魔女「僧侶の詠唱の速さは感心するのぅ…すべての魔法が無詠唱で発動しておる…」
僧侶「シクシク…ウフフ?」 顔がにやけた…人に褒められると顔に出る様だ
騎士「あぁ…才能かな」
僧侶「わたし達どうなるかなぁ?」
魔女「どうもなりゃーせん…エルフは殺生を好まんでの」
騎士「そうだと良いけれど…」
魔女「人間よりも賢く気高い生き物じゃからのぅ…こちらが手を出さぬと分かれば話は通じる筈じゃ」
僧侶「騎士はどうして捕まったの?」
騎士「僕は不意に矢を受けて…振り返ったらエルフが居た…何か言われたけど気が遠くなって覚えてない」
僧侶「武器持って行ってなかったもんね」
騎士「うん…迂闊だった」
魔女「それが良かったのかも知れん…武器を抜いたら蜂の巣じゃったろう」
僧侶「20人くらいのエルフに囲まれてたの」
騎士「そうだったのか…全然気が付けなかった」
僧侶「エルフさんに理由を説明したら許してくれるかなー?」
魔女「さぁそれはどうじゃろう…しばらくは閉じ込められるかもわからんな」
騎士「この牢は閉じ込めておくにしては造りがしっかりしてないような…」
魔女「逃げてもすぐつかまるじゃろうて…ここはエルフの森のど真ん中じゃ」
騎士「走って逃げても出るのに何週間もかかる…か」
魔女「殺す気はないじゃろうからここに居たほうが良いと思うがな」
僧侶「魔女はエルフの事をよく知ってるんだね?どうしてかな~?」
魔女「エルフはかつて魔王を共に滅ぼした仲間じゃよ…人間の仲間であるかは別として…」
騎士「そんな歴史があったんだ」
魔女「エルフの寿命は200年程かのぅ…400年じゃったか…まだ生きて居るやもしれん」
僧侶「魔女も200歳以上だよね?でも見えな~いウフフ」
魔女「わらわは219歳じゃ…長生きじゃのぅ」
騎士「話し方だけ直せば今の若い子と全然変わらないかな」
魔女「話し方がおかしいのはそなたらの方じゃろう?わらわは普通にしゃべっておる」
騎士「自分の事を『わらわ』とは言わないよ?」
魔女「わらわは王族の生まれじゃ…今はもう無いがの」
騎士「王族…」
ヒタヒタと足音を殺すように誰かが近づいて来る
長い金色の髪…透き通るような白い肌…控えめに尖った耳
それはまるで思い描いていた女神の様なエルフだった
エルフの娘「起きたようね…長老が呼んでいる」
僧侶「あ…さっきのエルフ…綺麗」
エルフの娘「人間から見ればそういう風に見えるのよ…言われて嫌な気はしないけれど…」
振り返ってなびくその美しい髪の毛はサラサラとゆっくり宙を舞う
魔女「ここから出ても良いのじゃろうか?」…魔女はノソリと立ち上がった
エルフの娘「さぁ早く出て…変なマネはしないように」
騎士「あぁ…ありがとう」
エルフの娘「しっかり狙ってて!」…彼女は後方で待機する他のエルフにそう言った
僧侶「よいしょっと」…僧侶も魔女の後を続く
エルフの娘「あなた達が変な事を起こさないように弓が狙っているのを忘れないで…」
騎士「あぁ何もしないよ」
エルフの娘「では後ろを付いてきて」
エルフを間近に見るのは初めてだった
その仕草や雰囲気から敵意が無いのが伝わって来る…なんだこの感覚…
『エルフの里』
そこは樹木に覆い囲まれた別の世界の様だった
見る物すべてが初めて見る建物、明かり、空気…すべてが夢の世界の様に美しかった
騎士「ここがエルフの里…」
僧侶「夜の筈なのに明る~いウフフ」
魔女「草木を少しづつ光らせておるんじゃ…エルフは火を嫌うでのぅ」
僧侶「すごく幻想的…この風景を見ると私たち人間が住む町は…」
エルフの娘「汚れている…」
魔女「草木や花は心を持っておる…そして命を運ぶ…われら人間はそれを少し軽んじておるな」
エルフの娘「……」
何も言わないがエルフはちゃんと話を聞いているのが分かった
雰囲気で分かる…その仕草で魔女の言った言葉を肯定している…
先に進むエルフの後を追いながら辺りを見回した
空気は清らかで、花の香りが漂い、どこか神聖な雰囲気がある
僧侶はその美しさに見とれ、騎士はその静けさに心を打たれた
『長老の家』
何の飾り気も無い小屋と表現するべきか
長老と聞いてどんなすごいエルフなのかと思ったが
エルフの文化では自然と調和してこそ長老と名乗れる…そんな気がした
エルフの娘「長老様…森の奥深くに入った人間3名を連れて参りました」
長老「おぉ、その声はエルフの娘だな?早く入れ」
長老「旅人の方…手荒なまねをして済まなかった…気球が落ちてしまったのだろう?」
騎士「はい…騒がせてしまってすいません」
長老「森の浅いところでは人間達がエルフ狩りをやっていてな…小競り合いが絶えんのだ」
騎士「はぁ…僕たちはそんなつもりでは…」
長老「分かってはいるが…他の者に示しが付かんのも理解してくれ」
騎士「それで…僕たちはこれからどういう処遇に?」
僧侶「ふぇーん」
魔女「これ泣くでない…黙っておれ」
長老「んん!!?」
その長老は魔女の発した言葉に反応したのか、突然ベッドから体を持ち上げた
長老「エルフの娘や…手を貸しておくれ」
エルフの娘「はい…しかし長老様…起き上がるとお体に…」
長老「かまわん…もう目も見えん…鼻も利かんが…人間を少し触ってみたい」
エルフの娘「では私がお手伝いを…」
エルフの娘の補助を得ながら、長老は魔女をその手で触り始めた
魔女「くすぐったいのぅ…やめて欲しいんじゃが…」
長老「これは驚いた…わしの古い友の様だ…魔女…わしを覚えては居らぬか?」
魔女「やはり…共に闘った仲間であったようじゃな…老いたのぅ」
長老「久しぶりだな魔女よ…あの時のままだな」サワサワ
魔女「何故じゃろうか…再会して心が切ないわい」
長老「まだアヤツを待ち続けているのか?」
魔女「うむ…愛しき人を待ち続けておる」
長老「悲しき定め…これエルフの娘!早よう縄を解け!」
エルフの娘「は…はい!」 エルフの娘は手早く縄を解き始めた
騎士「ありがとう」
僧侶「良かったー」ホッ
魔女「ふぅ…自由になったわい」
長老「わしは既に目が見えん…魔女よ…もう少し触らせておくれ」
魔女「気持ち悪いのじゃが…」
長老「本当にあの時のままだ…時の番人となって愛しき人を待つのはどうか?つらいか?」
魔女「愛しい限りじゃ…かつての廃墟も今では花畑へと変わったぞよ?…毎日わらわが植えたでのぅ」
長老「その深い愛は…人間の成せる所か…そして今どうしてエルフの森へ?」
魔女「わらわの愛しき勇者は今この時代に生まれておる」
長老「詳しく話しを聞かせてもらえんか?」
そう言って魔女と長老の2人は互いのことについてそれぞれ話し始めた
人間達の歴史…エルフが持つ葛藤
寿命の差が生む愛のすれ違い…受け入れがたい別れ…
そんな話を聞きながら、どうしてエルフと人間が結ばれないのか理解できた気がする
長老「ふむ…」
長老「愛を求め彷徨う…人間の真理…またしかし魔王の呪いに囚われたのも人間」
騎士「魔王の呪い?」
長老「200年前…魔王が滅ぶ間際に呪いをかけていった」
魔女「そうじゃ…わらわの愛はその呪いに阻まれておるのじゃ」
長老「そなたが愛しき人に会うことこそ呪いを振り払う術であると信じておるか?」
魔女「わらわはただひたすらに愛しい人に会いたい」
長老「切ない願い…ふむ…」
魔女「そなたは若さは要らぬのか?」
長老「わしはエルフの定命をまっとうする…それが定め」
魔女「わらわ達人間は愛を知る定め…わらわは未だ愛の結末を知らぬ」
長老「ふむ…それを阻む魔王の呪いを払いに行くと言うのだな?」
長老「人間の旅人よ…難しい話は分からんと思うが…これから起こる真実を確かめ愛を取り戻せ…」
魔女と長老の会話は良く理解できなかった
でも魔女の過ごした200年の重みは理解できた
人間は愛を知る定め…この言葉の意味する所はどこにあるのか
僕にはまだ想像できない
長老「人間よ…」
騎士「は、はい」
長老「勇者を探す旅の最中足を止めて済まなかった」
騎士「いえ…そんな」
長老「勇者の定めは魔王と戦う定め…魔女と共に勇者を探し呪いを払うのだ」
騎士「はい」
長老「定めからは逃れられん…勇者が居る以上必ず魔王も居る」
騎士「え??」(魔王は居る?)
長老「魔女を勇者へ導いておくれ…そして再びここに来るが良い」
長老「これエルフの娘よ…」
エルフの娘「はい長老様」
長老「旅人を森から出るまで見送りに行って来なさい」
エルフの娘「はい」
長老「それから人間よ…このエルフのオーブを持って行かれよ」
長老「そのオーブにはエルフの心が記されている」
長老「これから未来に他のエルフに会うことがあれば聴かせてやると良い」
長老「きっと心が通うであろう」
騎士「あ、ありがとうございます」
長老「今晩はここで休んでおゆき」
騎士「お世話になります」
長老「最後に魔女や…あの歌を聴かせてはくれんか」
魔女「そういえば主が作った歌じゃったな?」
長老「うむ…愛の歌…その歌には深い意味がある」
魔女「仕方ないのぅ…改めて歌うのは恥ずかしいのじゃが…」シブシブ
魔女「♪ラ--ララ--♪ラー」
その歌はエルフと人間の切ない愛の歌だった
もしかすると長老の心を歌にしたのかもしれないと思った…儚く…切ない歌
長老の家を後にしたのちにエルフの里を少し案内してもらった
騎士「すごいな…こんなに壮麗なエルフの里があったなんて」キョロ
僧侶「お空の上から全然見えなかったのにね?」
魔女「エルフの里は外からは見えん様に特殊な結界に守られておるんじゃよ」
騎士「耳を澄ませてみて?…木が擦れる音…水の音…色んな音に囲まれてる」
エルフの娘「森の声よ…」…エルフの娘が少し心を開き始めたように感じた
騎士「穏やかだね」
エルフの娘「人間のくせに森の声に耳を傾けるなんて…」ジロ
魔女「我ら人間も元はエルフの様に森の声を聞いておったんじゃが…忘れてしまった様じゃのう」
僧侶「お腹の音しか聞こえなーい!」…僧侶のお腹からグゥという虫が鳴った
魔女「今日は我慢するんじゃ…エルフの里にご馳走は無いのでな」
騎士「シーーーーッ…」
僧侶「……」
魔女「……」
エルフの娘「……」
騎士「音で近くに何があるか分かるんだね…近くに水が湧いてる」
エルフの娘「そうよ…」 ニコリとエルフの娘が少し微笑んだ
騎士「そこは水浴びしても良い場所なのかな?」
エルフの娘「案内するわ…あなた達の臭いにウンザリしてた所」
僧侶「えええ?そんなに臭うかなぁ?」 僧侶は自分の匂いを嗅いだ…クンクン
エルフの娘「人間は汚れていてとても臭い」
騎士「食事が出来ないならせめて汗を流そう」
『森の水場』
サラサラと綺麗な水が湧き、里の外へ流れ出て行ってる
夜なのに薄っすら光る木々のお陰で暗いということはない
騎士「じゃぁ僧侶と魔女はこっちで…僕は向こうで水浴びするよ」
僧侶「ハーイ♪」
魔女「これ僧侶!騒ぐでない」
騎士「終わったら先に戻って良いよ」
そう言って僕は少し陰になる場所で水浴びを始めた
ジャブジャブと体の汚れを落としている時に、遠くでエルフの娘が見張っていることに気付いた
(あんな遠くで見張ってるのか…)
(耳を済ませば何か聞こえるかな?)
(うーん…聞こえるわけないか)
(でも何か気付いた感じはあるな…)
(あれ?なんだこれ…)
水面に草の小船が浮かんでいるのを見つけた
(草の小船??)
(そうか、エルフの娘だな…エルフは言葉以外にこうやって意思疎通するのか)
草の小船には小さな花が乗せられていて、まるでメッセージを送っているようだった
(よし…)
水面を叩いて軽くパチャパチャと音を立ててみた
(パチャパチャ)…遠くで水面を叩く音が返ってくる
(フフ、返してきた…これはどうだ?)
次に水中に沈む石をゴツンと蹴とばしてみた
(ゴツン)…遠くで返事する音が聞こえる
(フフ…気高くて賢く…そして奥ゆかしい…か)
(わかるよ…ちゃんと見てくれているんだね)
(あんなに遠くからじゃないと自己表現しないんだね)
(これが…エルフの会話)
(僕はどうやって答えれば良いのかな…)
少し考えた後、僕は水辺の小さな石を拾い、それを手のひらで温めるように握りしめた
そして、その石を丁寧に水面に置いた。静かに波紋が広がる
(これで伝わるかな…)
遠くで見守っているエルフの娘に伝われば良いなと思いながらその場を去った
『エルフの娘が住む家』
そこは長老の家のように質素で、樹木と同化した綺麗な部屋だった
騎士「ふぅ…戻って来たよ…スッキリした…あれ?僧侶は?」
魔女「先に寝たぞよ…主は帰ってくるのが遅かったのぅ」
騎士「フフ…ちょっとね」 チラリとエルフの娘を見た
エルフの娘「……」 エルフの娘は反応なし
魔女「わらわもそろそろ横になる」
騎士「僕はもう少し森の声を聞いてから横になるよ」
魔女「何か聞こえるんか?」
騎士「色々とね…会話ができるんだ」
魔女「ほぅ?森と会話とな?」
騎士「そうだよね?エルフの娘?」
エルフの娘「……」 エルフの娘は反応なし…これは肯定しているという事だ
魔女「それは良い事じゃ…沢山会話すると良い」
騎士「じゃぁ行ってくる」
魔女「あまり遅くならん様にな?」
騎士「わかってるよ…遠くには行かないよ」
エルフの娘「迷わないように私が見張っておく」
騎士「あぁ…なにもかも…ありがとう」
そう言って僕はその家を出て散策することにした
夜風が心地よく、森の中を歩くと、足元の葉がカサカサと音を立てる
ずっと後ろの方で僕の行動を見てる
それが君たちエルフのやり方
人間との距離の置き方
大丈夫…僕も分かっているから
エルフとは仲良くやって行ける気がした
『翌朝_気球』
エルフから貰った絹糸で穴の開いた球皮を修理した
騎士「よし!球皮を膨らませる!」
魔石の力でどんどん球皮が膨らんで行く
僧侶「良かったぁ…直ったっぽいね~ウフフ」
騎士「さて?…エルフの娘は途中まで同行してくれるんだね?」
エルフの娘「長老からそう言い遣っているわ…森の切れ目まで行ったら降ろして貰えれば良い」
騎士「そこからは歩いて戻るのかい?」
エルフの娘「森は庭のようなものだから」
騎士「そっか…何から何までありがとう」
エルフの娘「気にしないで…私もこの乗り物に乗って見たかった」
僧侶「お空から下を見たらスゴイんだよ~ウフフ」
騎士「よーし!!じゃぁ行こうか!」
魔女「うむ…愛しき人を探しに行くぞよ」
騎士「はい乗った乗ったぁ!!」
エルフの娘「じゃぁ私も…」
僧侶「しゅっぱーつ!!」
エルフの娘「西へ!!」
騎士「乗ったね?魔石の出力上げるよ?落ちないように気をつけて」
シュゴーーー フワフワ
どんどん高度が上がって来た…
4人乗りの籠は少し狭いけれど…
4人揃っているとまるで心の隙間が埋まったような充実した気分になった
『気球4日目』
騎士「森を上から見るのは初めてかい?」
エルフの娘「何もかもが小さくて驚いた…これが私たちの森…」
僧侶「私も初めは同じこと思ったよ~ウフフ」
騎士「君はエルフの中でも若い方なのかな?」
エルフの娘「そう…里の中ではまだ若くて経験が少ない…だから長老にこんな機会をもらった」
僧侶「気になる気になる~何歳なのぉ?」
エルフの娘「まだ22年だ…あなた達とほとんど変わらない」
騎士「まだ若いエルフをよくエルフ狩りがある危険な所へ行かせたもんだね…」
エルフの娘「馬鹿にするな…これでも弓の腕は仲間の中で上手な方なんだ」
僧侶「へぇ~~すご~い」
騎士「4連撃ちとか?」
エルフの娘「それはエルフの弓使いなら誰でもできる」
騎士「そうなんだ」
エルフの娘「私の場合はロングボウを使ったピンホールショットを4連で撃つ」
騎士「なるほど…それで昨日は毒の回りの速い内腿に撃たれたわけだ」
エルフの娘「フフ…」
僧侶「ねぇねぇあの雲を見て?」ユビサシ
騎士「ん?」
僧侶「なんか天気が悪くなりそう?」
エルフの娘「ここから西に行く場合は天気が変わりやすいから少し高度を上げた方が良いと思う」
騎士「わかった」
魔石の出力を上げて高度を上げた
気球は静かに上昇して雲の上に出た…ふむ空は澄み渡り、遠くの地平線まで広がる景色が広がる
『上空の高い所』
僧侶「なんかさぁ…騎士とエルフの娘が急に仲良くなった気がする…」
魔女「そうかの?昨日と変わらんが?」
僧侶「視線がね…」
魔女「それは良い事じゃぞ?エルフは言葉以外に目や仕草で会話をするんじゃ」
僧侶「そうなんだ~私も入りたいな~」
魔女「あまり気にせんで良いと思うがのう」
僧侶「ねぇねぇ私も目でお話するのまーぜーてー」
騎士「ん?…よし、怒った目やってみて」
僧侶「こう?」 ぐぬぬ
騎士「そうそう…じゃぁ次…悲しい目は?」
僧侶「はう…」 うるる
騎士「よし次は難しいよ…こんにちはの目」
僧侶「え?え?…こうかな?」 にまー
騎士「ハハ、まぁ良いじゃないかな…その目でエルフの娘に挨拶してごらん」
僧侶「…」 にまー
エルフの娘「クスッ」…エルフの娘は少し微笑んだ
僧侶「ねぇねぇなんか笑ってるんだけどーー」
騎士「でも通じてるよ?」
僧侶「じゃぁこれは?」 へろー
エルフの娘「お腹が空いているようね」
僧侶「すごーーーーい!!あたりーー!!」
騎士「よし!食事にしよう!」
僧侶「はーい!!」
『気球5日目』
雨を避けて雲海の上にいる
高度が高いから気温は寒いが、びしょ濡れになるよりはかなりマシだ
エルフの娘「……」 エルフの娘は雲海を眺めていた
魔女「何を黄昏ておるのじゃ?」
エルフの娘「魔女様…私はこの雲の海を初めて見ました…」
魔女「うむ…われら地上に住まう生き物は皆…この雲の海の下に営みを設けておる」
エルフの娘「同じ地上で住まうもの同士、なぜ争うのでしょう?」
魔女「わらわが生まれた200年前の世界では、そのもっと昔の話があっての」
エルフの娘「はい」
魔女「魔王が居なかった時代では地上で住まう物同士の争いは無かったそうじゃ」
エルフの娘「そうですか…」
魔女「今では魔王は滅びておるのに、地上では争いが絶えぬ…」
エルフの娘「その理由を考えていました…やはり魔王は復活しているのではないかと…」
魔女「長老は定めの話をしておったな…」
エルフの娘「はい」
魔女「この時代に勇者がいる以上…魔王は滅びたとは言い切れんのかもしれんな…真実はわからん」
エルフの娘「……」
魔女「しかし…人のなんたる小さなことか」
エルフの娘「はい…いくら弓の名手になったとしても…それは小さい事のように感じます」
魔女「その小さき力が定めを導く力になる事がある事を忘れるでないぞ」
エルフの娘「定めを導く力…」
『気球6日目』
僧侶「なんだか暖かくなってきた~ウフフ」
エルフの娘「もうすぐ森の端に着く…」
騎士「うん、高度をもう下げ始めてる」
魔女「良い風に乗れたのかわからんが、意外と早く到着しそうじゃな」
騎士「そろそろエルフの娘を安全に降ろせる場所を探そうか…エルフの娘?案内して」
エルフの娘「わかった…あそこの狭間に降りられるか?」ユビサシ
僧侶「エルフの娘ってさぁ、魔女と話しするときは良い子なんだよね?」
エルフの娘「う、うるさい!」
騎士「ハハ、そういえばそうだね…話し方が全然違う」
魔女「エルフはそう言う物じゃからのぅ…仕方がなかろう」
騎士「エルフの娘を降ろしたらすぐ気球を上昇させるから、今のうちにお礼を言っておかないと…」
僧侶「うん」
騎士「森の案内ありがとう」
僧侶「ありがとーう!!いろんなお話聞けてよかった~ウフフ」
エルフの娘「いや…こ、こちらこそ…良い経験させてもらった」
魔女「ほれ、何と言うんじゃ?」
エルフの娘「ありが…とう…」 エルフの娘は少し目を背けた…照れているのがわかる
魔女「そうじゃ!!それが争いを無くす一歩目じゃ」
騎士「ハハ」
僧侶「ウフフ」
エルフの娘「フフ…」
なんだろう…人間とエルフの間に…小さな笑顔があって…何か通じてる…
エルフの娘「よし!高度を下げるのはここまでで良い…飛び降りられるから」
騎士「そうかい?」
エルフの娘「あとはここから半日も西へ行けば砂漠の町だからみんな気を付けて」
騎士「うん…エルフの娘も気をつけて」
僧侶「また会おうね~」
騎士「じゃあ高度上げ始めるよ」
エルフの娘「縁があったらまた会おう!!」…と言ってエルフの娘は籠を飛び降りた
僧侶「あーあ行っちゃった…折角お友達になれたと思ったのに…」
騎士「きっとまた会えるよ…」
と言ったその時…心の中で誰かが僕を呼んだ
!!!!!!!!!
!! 危ない !!
!!!!!!!!!
『数分前』
「おい、アレをみろよ」
「気球が下りてくるぜ」
「町に辿り着く前に燃料切れか?」
「物資ごっそり頂いちまおう」
「チッ、なかなか降りてこねぇな」
「降りる場所探してるんじゃねぇか?」
「おい!見つかるなよ!」
「気球が降りたら囲め…弓の準備しておけ」
ピョン!! シュタッ!!
(シッ)
(静かにしろ!)
(おぉすげぇ、エルフが飛び降りて来たぜ?)
(うほーーありゃ高く売れるぞ)
(おい、気球飛んでっちまうんだが)
(まぁ良い…エルフだけ捕まえちまおう)
(みんな居るか?)
(行くぞ!!)
ガサガサ ガサガサ
『上昇する気球』
騎士「まずい!!エルフの娘!!危ない!!逃げろおお」
エルフの娘「え!!?」 エルフの娘は辺りを見回した
山賊「おっと逃がさねぇぞ!」 山賊はエルフの娘を掴まえた
エルフの娘「は、離せえぇ」バタバタ
山賊「お前等ぁ!!俺と一緒に網かけろ!!」
エルフの娘「くぅぅ」 エルフの娘は必死に抵抗している
山賊「ひゅひゅー大成功かぁ?」
山賊「縄もってこい縄ぁ!」
山賊「おい!気球に乗ってる奴なんか騒いでんぞ?」
山賊「放っとけ!」
エルフの娘「お前ら!触るな!」ジタバタ
山賊「おいおい暴れんなよ…もうお前は捕まってんだ、大人しくしろ!」
山賊「ウヒヒヒ、薬打っちまうぞ?」
山賊「おぅ、早く打て暴れてしょうがねぇ」チクリ
エルフの娘「や、やめろお!」
山賊「おい!見ろよ、気球から1人落ちたぞ!」
ドサーーー!!
山賊「あの高さから落ちちゃ只じゃ済まんだろう…馬鹿だな」
エルフの娘「ハァハァ…くぅ」 エルフの娘は力が出せない
山賊「わっぱ掛けろわっぱ!」
山賊「おい!こいつは上玉だぜ?」
エルフの娘「んーーーんーー」 エルフの娘は口を縄で塞がれた
山賊「おい担ぐぞ!手を貸せ」
エルフの娘「ンフッンフッ」 エルフの娘は必死に抵抗しているが、もう力が出ない
山賊「すげぇ、こりゃかなり若いエルフだ」
山賊「お前、傷つけんなよ?」
山賊「お、おい!落ちてきた奴動いてんぞ」
山賊「ずらかるぞ!!早く来い」
山賊達はこの手の拉致に手慣れていた
あっという間にエルフの娘を動けなくして連れ去った
『上空では…』
騎士「エルフの娘!!危ない!!逃げろおお」
僧侶「え!?ど、どうしたの?」
騎士「僧侶!気球の高度を下げてくれ!」
僧侶「う、うん」
僧侶は慌てて球皮の熱を抜いた…徐々に高度が下がる
騎士「くそ!間に合わない!」
僧侶「そんなに早く動かないよー」アタフタ
騎士「飛び降りる!砂漠の町の宿屋で待っててくれ!」
僧侶「え?あ…だめ!!まだ高いよぅー」
騎士「飛ぶ!!」ピョン
後の事は考えなかった…何故なら僕の体は少々の事があっても大丈夫なことを知っていたから
僧侶「あああ!待ってー…」
魔女「言われた通りにするのじゃ…ここは危ない」
僧侶「騎士ぃぃぃぃぃ」
無情にも気球は風に乗ってどんどん西へ流れて行く
『落下…』
大丈夫!!イケる!!しっかり踏ん張れ!!
ドサーーーー
騎士「がはぁ」ボキッ!…落下の衝撃でどこかの骨が折れる音がした
騎士(ぐぅ…間に合うか…)ヨロ
山賊「お、おい!落ちてきた奴動いてんぞ」
騎士(足が思うように動かない!!折れたか?)ヒョコヒョコ
山賊「ずらかるぞ!!早く来い」
騎士「待て!!」…くそう!!右足が変な方向に曲がってる…
騎士は足を引きずりながらエルフの娘を追った
山賊「おい!あいつ追いかけてくるぞ」
エルフの娘「……」 エルフの娘は既に意識を失っている
山賊「アレを使え!」
山賊「アレっすか!」 山賊の一人は煙玉を使った
モクモクモクモク
騎士「なんだ?くそう!前が…見えない…」
山賊「よし!こっちに来い!」
騎士「待てええぇぇ!!」ヒョコヒョコ
山賊「撒いたか?」
山賊「ウヒヒヒあさっての方向に走っていったぜ?」
騎士「どこ行った!?」キョロ
騎士「くそう!!エルフの娘…」
騎士「うおおおおおぉぉぉ…どこだぁぁぁぁ!!?」
騎士は右足の痛みに耐えながら、煙に包まれた森の中を必死に見回した
煙が視界を遮り、周囲の木々がぼんやりとしか見えない
耳を澄ませても、山賊たちの足音は遠ざかって行くだけだった