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「魔王は一体どこにいる」  作者: ジョンG
2/28

2.森の町

『林道』


始まりの国から北へ伸びる道を避けて、勇者と僧侶の二人は林道を進んでいた


林道を選んだのは、人目に付きにくいからだ


食料をほとんど持っていない二人にとって、森の中を進む方が飢えずに済む


今はまだ日があって明るいが、少しずつ暗くなり始めていた



勇者(馬が疲れてきたようだ…少し速度を落とすか)


勇者(陽が暮れる前に寝床を探さないとなあ…野宿になるかな…どうしよう…)


僧侶「ぐう…すぴーーー」zzz


勇者(よほど疲れていたのかな…)


ぐぅぅぅ…空腹で腹の虫が鳴いた


勇者(朝から何も食べてないな…)カバンの中を手で探った


勇者(乾し肉とパンだけか…二人だと今日の分しかない)


僧侶「うぅぅん…たいちょー…むにゃ」


勇者(紐で縛られてると下手に動けない…う~ん…)


サラサラと流れる川の音が聞こえてくる


勇者(川が近い…よし、魚が取れる…今晩の寝床はそこにしよう)


川の音を頼りに進み、小さな清流が流れる場所にたどり着いた


木々が生い茂る中、川のほとりに小さな開けたスペースを見つけた


勇者「ここだ、今晩の寝床はここにしよう」





『川辺』


やわらかい土の上に僧侶を横にし、勇者は川で魚を獲っていた


川のせせらぎが心地よく、周囲の木々が夕日を浴びて赤く染まっている



僧侶「ふぁあ~~あ~んんんんあれ~?ここどこだろ~」キョロ


勇者「お!起きたかい…よっし!!捕れた」


僧侶「なんかちょっと暗いかも~ここはどこ~?」


勇者「あぁもうすぐ日が落ちる…今日はここで野宿だよ」


僧侶「ふ~ん今何してる感じ~?」


勇者「魚捕ってる」


僧侶「なんか楽しそ~う私もやろっかな~ウフフ」


勇者「日が暮れる前に火を起こそう…手伝って」


僧侶「何すればいいの?」


勇者「火魔法とか使えないかな?」


僧侶「オッケーやってみる」


勇者「そこの枯葉に火を付けてみて」


僧侶「できるかな~?火魔法!」…とても小さな炎が一瞬光った


勇者「お!十分!フーーーフーーーー」…少しずつ炎が大きくなっていく


僧侶「私天才かも~ウフフ」


勇者「僕は魔法が使えないから火を起こすのにいつも苦労するんだ」


僧侶「火魔法はじめて使った~ウフフ」


勇者「これでよしっと…ちょっと木を集めてくるから暖まってて」


僧侶「オッケー」


勇者は付近に落ちている倒木を帯剣で細かくして薪を作っていた


勇者「こんなもんかな…これだけあれば一晩持つはず…」ガサゴソ


勇者「あれ?僧侶どこ行ったかな…お~い」


パチャパチャと水しぶきの音


勇者「お~い僧侶~…あ!」


僧侶「あ!だめええええ!来ないで~~~見ないで~~」アタフタ


勇者「ごめん…あっちで待ってる」


勇者(そうか…暗くなる前に水浴びしておかないと入れなくなるもんな)


勇者(大人しく魚でも焼いておこう…)





『数分後…』


僧侶「戻ったよ~あ~サッパリした~」


勇者「おかえり」


僧侶「さっきは見たでしょ~?へんた~い」


勇者「いやそんなつもりは無かったんだ…ここに居なかったから心配でさ…」


僧侶「あれ~?これって寝床になるの~?それとも馬の餌?」ガサガサ


勇者「やわらかい草でベッドの代わりだよ…明日の朝には馬の餌にもなる」


僧侶「すご~いウフフ~なんか頭良いね~」


勇者「そろそろ焼けたかな?」焼き魚の香ばしい匂いがしてきた


僧侶「良い匂い~お腹空いてきたかも~ウフフ」


勇者「焼き魚と乾し肉とパンだ…木の実もある」


僧侶「ごちそうだぁ~いただきま~す」ガブリ モグ


勇者「今日はたくさん食べて明日に備えよう」


僧侶「なんか…すごく楽しい~ウフフ」


勇者「じゃあ僕も頂きます」




『夜』


川の近くは意外とシカなどの動物が水を飲みに来る


焚火の明かりがあると近付いては来ないが、そういう動物が落ち着いているのは安全な証拠だ


勇者は焚き火の火が小さくならないように薪を追加しながら僧侶に話しかけた



勇者「この薪は全部使って良いから気付いた時に入れてね」


僧侶「寝てたら気付けないよ?」


勇者「まぁ気付いた時で良いさ」


僧侶「ねぇ勇者ってさ~…あ!!思い出した~指令に続きがあったんだ~」


勇者「ん?」


僧侶「指令はねぇ~全部で7つあるんだ~ウフフ」


勇者「へぇ…聞かせてくれるかな?」


僧侶「だめぇ~~それは秘密なの~私が順番に指示する~」


勇者「分かったよ…」


僧侶は少し興奮気味に続けた


僧侶「指令5…身分を詐称する事…ってどういう事かなぁ…」


勇者「あぁ隊長が勇者である事を隠せって言ってたな」


僧侶「なんでかなぁ?勇者って名乗るとやっぱり面倒が起きる?」


勇者は焚き火を見つめながら答えた


勇者「ん~どうかな…でもわざわざ名乗る必要もないかな」


僧侶「じゃぁ名乗る必要がある時は何て名乗るの~?」


勇者「それは適当に…」


僧侶「よし!!私が決めてあげる~そうだなぁ…」


その時、馬が鼻を鳴らして話に加わりたさそうにしていた


ヒヒ~ン ブルル


僧侶「そうだ!馬に乗ってるから騎士にしよう!かっこい~~どう?気に入った?」


勇者は笑って答えた


騎士「あ、あぁ…まぁそれで良いよ」


僧侶「私は姫で良いかな~?ねぇ」


騎士「いや…君は僧侶で良いよ」


僧侶は少し不満げだ


僧侶「なんかズル~い面白くない~~…あれ?ポケットに何か入ってる~なんだろ~」


騎士「んん?」


僧侶「あ!!忘れてた~これ騎士の持ち物…指輪と豆かな?はい…」


騎士「これは…囚人の指輪と…なんだこれ?」クンクン 匂いを嗅いでみた


僧侶「うわ~犬みた~い」


騎士「豆では無さそうだ…でもありがとう僕が持っておくよ」


僧侶は指輪に興味を持った


僧侶「その指輪ってどうしたの?大事そうに握り締めてたよ?」


騎士は指輪を見つめながら答えた


騎士「あの囚人が僕によこした物だよ…僕にもどうして渡されたかよく分からない」


僧侶「へ~そうなんだ~でもさぁ~なんかその話退屈~他の話にしよ~よぅ」


騎士「…」(話が噛み合わないけれど…この子のペースは嫌いじゃないかな)


僧侶「例えばさ~明日何食べるとかさ~夢のある話をね…」


騎士(なんだか僕も楽しい…ずっと一人だったから)




『林道』


騎士と僧侶は林道をひたすら北に進んでいた


馬に乗ったり、歩いたり、狩りをしたり、そんな旅を続けながら五日程経過した


馬に揺られながら僧侶はダダをこねていた


僧侶「もう飽きた飽きた飽きた飽きた飽きた飽きた飽きたあああああ」


騎士「……」疲れた表情で馬を進める


僧侶「あとどれくらい?」


騎士「さっきから三分くらいしか経ってないよ」


僧侶「また野宿かなぁ…暗くなってきたよぅ」僧侶は空を見上げ、空が薄暗くなっていくのを見つめた


騎士「もうすぐ着くよ」


僧侶「もうちょっとさー元気が出る気の利いた言葉が欲しいな~」


騎士「よし…今日はごちそうをお腹いっぱい食べよう!」


僧侶「たべるううううううううううううう」僧侶の目が輝いた


騎士「あったかいベッドで一緒に寝よう」


僧侶「ねるううううううううううううう…う???一緒に?」僧侶は一瞬戸惑った


騎士「ははは、掛かったな…だんだん君の扱い方が分かってきたぞ」


僧侶「ギッタギタのボッコボコにするよ?…ウフフ」


騎士「あのね…あ!!林の隙間に光が見えた」騎士が指差した方向に、木々の間からちらりと光が見えた


僧侶「え!!わーい!どこどこ~?見えな~い」僧侶は興奮して体を動かした


騎士「ちょちょ…縄で縛ってるんだからあんまり騒がないで…」


僧侶「きたああああああああ!!みえたあああああああ!!」




『森の町』


ここはかつて光の国と呼ばれていた場所らしい


隕石が飛来して一夜にして滅んだという伝説が伝えられている


残された遺跡の傍らで営みを続けた人々が集まり、後に森の町と呼ばれるようになった


木材が豊富で肥沃な土地であることもあり、この地へ定住を望む者も少なくない



騎士「まず宿屋を探そう…ってお~い!待って」


僧侶は走り出した…


騎士「まいったなぁ…どこ行っちゃったんだろう」


僧侶「こっちこっち~!!」


騎士「ちょっと待ってよ!はぐれちゃうだろ~」


町は賑やかで木造の家々が並び、村人たちが忙しそうに行き交っている


騎士は馬を引きながら僧侶の後を追い、ようやく広場で彼女を見つけた


僧侶「見て見て~ここ素敵な広場だよ~」


騎士「本当だね。ここが森の町か…いい場所だ」


広場には市場が開かれており、野菜や果物、手作りの工芸品が並んでいる


村人たちは笑顔で商品を売り買いしており、平和な雰囲気が漂っていた


僧侶「見て~あっちに可愛いお店がある~」


騎士「そうだね…でもまずは宿屋を探そう…荷物を置いてから町を見て回ろう」


僧侶「うん、わかった~」


二人は広場を抜けて町の中心部へ向かい宿屋を探し始めた


町の一角に見つけた宿屋は木の温もりが感じられる素朴な建物だった




『宿屋』


騎士は馬宿に馬を預けた後、宿屋へ入った


宿屋の女将「いらっしゃいませ森の町の宿屋へようこそ」


僧侶「ねぇねぇ…今人違いされちゃった~ウフフわたし何処にでも居る顔かな~?」


僧侶は興奮気味に騎士に話しかけた


騎士「部屋は取れたかい?」


僧侶「オッケーお勘定は騎士が担当ね~ウフフ」


騎士「分かったよ」


宿屋の女将「あら騎士さん?お久しぶりのご来店ですね」


騎士「え?…人違いじゃ?…」ハテ?


僧侶「アレレ~?騎士はここに来たことあるの~?」


騎士「いや…」


宿屋の女将「お二人のことはよく憶えていますよ…その節は色々とお世話になりました」


騎士「あの…」


宿屋の女将「今ではあの娘も大きくなりまして隣の酒場で働いています」


騎士(ややこしくなりそうだからここは話を合わせよう)僧侶の耳元でささやく


僧侶オッケー


宿屋の女将「お二人はあの時からお変わりは無いようですね」


騎士「あ…はい…ハハハ」(何の勘違いだろう?)


宿屋の女将「4~5年ぶりになりますかねぇ…あの後大規模な魔女狩りがありましてね」


騎士「魔女…」


宿屋の女将「2年ほど前でしたかねぇ…例の塔を王国が跡形も無く破壊して行かれました」


騎士「あ…あ~そうですか」


宿屋の女将「また明日にでも見に行ってみるのも良いですねぇ」


僧侶(ねぇ早く~)モジモジ


宿屋の女将「あら失礼しました。話が長くなってしまいましたね。お部屋までご案内します」


そう言って宿屋の女将は奥の部屋へと案内を始めた


僧侶あのおばちゃんボケてるのかなぁヒソ


騎士…そうかもね


宿屋の女将「こちらへどうぞ」…ガチャリと扉を開いた


宿屋の女将「こちらのお部屋になります。お食事はどうされますか?」


僧侶「ごちそうが食べた~いウフフ」


宿屋の女将「分かりました。のちほど沢山ごちそうをお持ちしますね」


僧侶「わ~い。ひさしぶり~ぃ」


宿屋の女将「ではごゆっくりおくつろぎ下さい」


騎士「じゃ少し休もうか」


宿屋の女将は部屋を後にした…


ガチャリ…バタン


騎士「ええと…」アセ


僧侶「な~に~?」ボヨンボヨンとベッドの上で跳ねる僧侶


騎士「これってどういう風に寝るの?」


僧侶「私がベッドで~…アレ?」


騎士「ちゃんとベッド二つ用意してって言った?」


僧侶「ちゃんと言ったよ~ベッドをダブルでお願いしますって~」


騎士「いや…あのねダブルの意味分かってる?」


僧侶「ふたつ?」


騎士「ん~~~こうしよう…今から部屋を変えてもらおう」


僧侶「ん~なんか…めんどくさ~い!もうくつろいでる~」ボヨーン ボヨン


騎士「わ、わかったよ…くつろごう」


騎士(この子の頭はどうなっているんだろう…本当に一緒に寝るつもりなんだろうか?)




『夕食』


僧侶「ぷは~お腹いっぱ~い!美味しかった~ウフフ」ゲフー


夕食を終えた二人は、温かな照明が灯る宿屋の食堂でくつろいでいた


テーブルの上には空になった皿やコップが並び、食事の満足感が漂っている


騎士「この後ちょっと隣の酒場に行こうかと」


僧侶「お酒飲むの~?」


騎士「町に来たらまず情報収集するのは基本だよ」


僧侶「なんか堅苦しい~面白くないな~…お酒飲むなら行こっかな~」僧侶は目を輝かせて答えた


騎士「ま、まぁ…お酒を飲んでも良いよ」


僧侶「わーい!行こ行こー」


騎士「っとその前に…一応護身用でナイフだけ持っていこう…はい」騎士はナイフを差し出した


僧侶「どうして?」


騎士「酒場では酔っ払いに絡まれることもあるんだ」


僧侶「へー」


騎士「かわいい娘を連れてると特に注意が必要なんだ」


僧侶「あれ~~?私のこと遠まわしにかわいいって言ってるのかな~?ウフフ」


騎士「まぁ君の場合は別の意味で注意が必要なんだけれど…」


僧侶「別の意味ってな~に?」


騎士「まぁ良いじゃないか…ハハ…早く行こう」


僧侶「ハ~イ」


二人は宿屋を出て静かな夜の町を歩き出した


酒場からは笑い声や音楽が漏れ聞こえ、賑やかな雰囲気が漂っていた




『酒場』


若い娘「いらっしゃいませー」


酒場の主人「お二人様ですか?こちらのカウンター席が空いています…どうぞ」


騎士「ありがとう」


若い娘「お飲み物はいかがされますか?」


騎士「ハチミツ酒あるかな?」


若い娘「はい…お連れ様は?」


僧侶「わわわたくしもおおおなじ物を…」ドキドキ


僧侶は緊張しながら答えた


騎士(硬くならなくて良いよ)ヒソ


僧侶なんかキンチョーするもん


若い娘「かしこまりました」


隣で酔いつぶれていた酔っ払いが急に叫び出した


酔っ払い「てやんで~いムニャんだとべらんめい…ムニャ」グター


酒場の主人「あわわ失礼しました…酔っ払い!そろそろ帰ってくれ」


そこへ若い娘がハチミツ酒を持って来た


若い娘「お待たせしました…どうぞ」


騎士「じゃぁ乾杯しようか」


僧侶「かんぱ~い」


騎士「乾杯!」グラス同士がチンと音を立てて響く


僧侶「おいしい!!ウフフ」


騎士「おぉ美味しいね」


騎士「酒場のマスター…で良いのかな?…このハチミツ酒はここで造ってるのかな?」


酒場の主人「はいそうです…すこし北にある遺跡の森に沢山花が咲くのでハチミツが良く取れるんですよ」


騎士「へぇ…花が沢山ね…」


僧侶「わたしお花畑で生まれたの~ウフフ~おかわり~」


僧侶は嬉しそうに笑いながらおかわりを注文した


酒場の主人「何でもその遺跡は200年前に異世界から勇者が光臨したという伝説があるんです」


酒場の主人「だから尋ねに来た旅人達が花を添えて行ったのが由縁と言われてるんです」


騎士「へぇ~知らなかった」


酒場の主人「その後その遺跡には魔女が住み着いて…」…とその時お店の若い娘が話を遮った


若い娘「マスター!!その話は聞きたくないです」


酒場の主人「あぁスマンスマン」


僧侶「ねぇ騎士も一緒に飲もうよ~うぃぃぃ」


騎士「わかったわかったほら!かんぱ~い」


僧侶「かんぱ~ひっく」


座っているカウンター席の背後にごろつきの様な男が立った


ごろつき「よう…にーちゃん!かわいいねーちゃん連れてるじゃねぇか」ジロジロ


騎士「……」(毎度の事だけどやっぱりこうなるか…)


ごろつき「俺にもちょっと…ん!?」


騎士「なんだ?」ジロリ


ごろつき「お前…どこかで…あれ!?そのねーちゃんも…」


騎士「僕はお前を知らないぞ」


僧侶「ねぇわたしかわいい?ひっく」


ごろつき「いや!間違いねぇ何年か前に世話になってる」


騎士またか…


ごろつき「ほらこの町で神隠しの事件があった頃だ…あれは…」


僧侶「ハチミツ酒お~か~わ~り~」ヨタヨタ


ごろつき「お、おぃこのねーちゃん大丈夫か?」


僧侶「ねぇわたしかわいい?うふふふふふ~」


騎士「ちょっと飲みすぎだよ僧侶…」


僧侶「い~の~今日の出会ひにかんぱいしよ~ひっく…かんぱ~~~ひっく」


ごろつき「お…おぅ…こりゃ荒れてんのか?」


騎士「ヤレヤレ」


僧侶「ハチミチュちゅおいひ~」グビグビと一気に飲み干す僧侶…


騎士「マスターお勘定ここに置いて行くよ…彼の分もこれで足りると思う」ジャラリと金貨


酒場の主人「分かりました…又のお越しをお待ちしております」


ごろつき「おい!もう帰っちまうのかよ…あの時は世話になったよ…ありがとな?」


騎士「僧侶そろそろ帰ろう」


僧侶「うぃぃぃぃメッタメタのポッコポコにすんぞヒック…」フラフラ


騎士「わかったわかった…」


僧侶「かわいいのかかわいくねぇのかはっきり…ヒック」


騎士「お騒がせしてすいませんでした…」


酒場の主人「ありがとうございました~」


僧侶「だっこー…ひっく」


騎士「はいはい…おんぶで良いかい?」僧侶を背負った…軽いな…


僧侶「うぇ~ん…」


騎士「どうした?大丈夫かい?」


僧侶「ひっく…うぇ~ん…ひっく」


騎士「今度は泣き上戸か…」(まいったなこりゃ)


僧侶「わたしやっていけるかなぁ…え~ん」


騎士「うん大丈夫だよ…すごく助かってるよ」


僧侶「もう帰れないのかなぁ?…シクシク」


騎士「大丈夫だよ僕が付いてるよ…ほら今日はもう休もう」


僧侶「もっとだっこして…」


騎士「はいはい…」(世話の焼けると言うか…)


今日は何も考えないで帰って休むか…


明日の事は明日考えよう…




『数日前…』


始まりの国の衛兵隊宿舎では、逃亡した偽勇者の捜索で手掛かりを発見していた


宿舎内は緊張感に包まれており、兵士たちは忙しそうに動き回っていた


ドンドンと慌ただしく宿舎の扉を叩く音が響く


精鋭兵「どうした?何か見つけたか?」


衛兵「休憩中申し訳ありません…伝書鳩が戻って来ました」


精鋭兵「そうか!なんて書いてある」


衛兵「北の林道に野営の跡を見つけた様です」


精鋭兵「よし!読み通りだ…馬車を2つ用意しておいてくれ」


衛兵「わかりました」


精鋭兵「俺は隊長に許可をもらってくる…人駆も集められるか?」


衛兵「やってみます」


宿舎の中では、兵士たちが急いで装備を整え始めた


外では馬のいななきが聞こえ、準備が進められている


精鋭兵は隊長の部屋へ向かい、許可を得るために足早に歩き出した


精鋭兵「この手掛かりを逃すわけにはいかない…全力で追跡するぞ」


偽勇者の行方を追うために、兵士たちは一丸となって動き始めた




『隊長の部屋』


ドンドン


精鋭兵「隊長!居ますでしょうか?」


隊長「誰だ?」


精鋭兵「精鋭兵です」


隊長「少し待て…着替えている最中だ」


室内でゴソゴソと着替える音がする…


隊長「よし!入れ」


ガチャリ ギー


精鋭兵「……」精鋭兵は唾をのみ込んだ


隊長は普段の恰好とは違いドレスを身に付けて居たからだ


髪を整えながら優雅に振り返る


隊長「どうした?」


精鋭兵「た、隊長…その格好は…」


隊長「私も女だ…礼席ではこういう格好をする事もある…おかしいか?」


精鋭兵「いえ…お美しいです…髪を短くしているのが勿体無い…」


隊長は微笑みながら鏡を見て髪を整えた


隊長「フフ…ところで用は何だ?」


精鋭兵「ハッ…偽勇者捜索の外出許可を頂きに来ました」


隊長「ふむ…進展はあったのか?」


精鋭兵「北の林道にて野営跡を発見しました…偽勇者の可能性が高いと判断します」


隊長は少し考えながら地図を見つめた


隊長「ふむ…」


精鋭兵「人目に付かず国を出るには北に向かうのが良い方法かとも思います」


隊長「…分かった」(なかなかやる)


精鋭兵「捜索を自分に直接指揮させて下さい」


隊長「よし…やってみろ」(試してみるか)


精鋭兵「では早速出発します…失礼しました」


隊長(さてお前に捕まえられるか?僧侶は意外に優秀なのだぞ?フフフ…)





『森の街宿屋』


チュンチュンと鳥が夜明けの歌を歌う


窓から差し込む朝日が部屋を優しく照らしていく


僧侶「ふぁあ~~あ~んんんん!!!!!!!あれ?」ノビー


僧侶は自らの異変に気が付いた


(モシカシテ)


(ドウシヨウ)


(モウイッカイネテミヨウ)


僧侶は目を閉じ再び眠ろうとしたがすぐに目が覚めた


(スヤスヤ…パチクリ)


僧侶「ふぁあ~~あ~んんんん」背筋を伸ばす…ノビーーー


(ヤッパリ)


(ハダカ)


騎士は隣でまだ夢の中


騎士「むにゃむにゃ…」zzz


(コレハ)


(ヤッテシマッタ)


隣で寝ている騎士に気付かれない様に、静かに衣服を身に着けた…


(ドウシテハダカナノカ…)


(キオクガ…ナイ…)


僧侶は騎士の眼を指で開いてみた


騎士「んんん…」


騎士「……」


騎士「強制的に目を開けるの…やめてくれないか…」


僧侶「お、ぉはょぅ」


騎士「早いね…大丈夫かい?君…昨日はすごかったよ」


僧侶「ええ!?そ、そう?」


騎士「だっこ好きなんだね」


僧侶「え?」(オワッタ)


騎士「さて起きようかな」ムクリと起き上がる


僧侶「ちょちょ…ちょっと散歩に行ってくる~」


騎士「いいよ…すぐ帰ってきてね」




『宿屋の周り』


僧侶は部屋を飛び出し、宿屋の周りを散歩した


朝の光が柔らかく辺りを包み込み、露に濡れた草花がキラキラと輝いていた


森の町の静けさが心地よく、鳥のさえずりが僧侶の耳に優しく響いた


(どういう顔すれば良いかな)


(いつも通りで良いのかな)


(なんて話しかけよう)


(嫌われてないかな)


(なんか帰りにくいな)


(どうしよう)


そんな事を考えながら、僧侶は宿屋の周りを30分ほどうろついた


小さな花壇の花々や、朝日を浴びる木々に目を向けながら、気持ちを落ち着けさせる


(よし…ちょっと落ち着いてきたかも…)


僧侶は自分にそう言い聞かせながら、宿屋に戻る決意を固めた





『宿屋の部屋』


ガチャリ バタン!


僧侶が戻ってくるとテーブルの上には、焼きたてのパン、香ばしいベーコン、フルーツが並べられていた


美味しそうな匂いが部屋に漂っている


騎士「おかえり~朝食が来てるよ、一緒に食べよう」


僧侶「うん」


騎士はテーブルに座り、パンを手に取った


騎士「ほら…おいしそう」モグ


僧侶「うん」


騎士「早く食べなよ」…騎士は美味しそうに食べている


僧侶は少し不安げにパンを手に取り口に運んだ


騎士「どうしたの?体大丈夫かい?」


僧侶「うん」


騎士「やっぱり初めて飲んだの?」


僧侶「うん…ううん!?」


騎士「これからは程々にしようね」


僧侶「ねぇ!わたしどうだったの?」


騎士「どうだったって…」


僧侶「ほら…良かったとか悪かったとか…」


騎士「ん~~まぁ良かったよ…まぁ初めて飲んだなら仕方ないよね」


僧侶「のんだ…」(セーシ…ヤッテシマッタ)


騎士「君の事が良く分かったよハハ」


僧侶「嫌いになってない?」


騎士「そんなこと無いよ…また一緒に行こう」


僧侶「イク?あ…うん…でも良く覚えてないの…」顔が火照る


騎士「今度はゆっくりね」


僧侶「私…早かったの?」


騎士「ちょっとね…」


僧侶「わかった…がんばる…もうちょっと我慢する…」


騎士「まぁ…がんばる物でも無いんだけど…」


騎士「よし…ごちそうさま!早く食べなよ…今日はちょっと北の遺跡を見に行ってみたい」


僧侶「あ、うん分かった~」(でもなんか安心した)


騎士「出かける準備しておくね」


僧侶「は~い」


僧侶は再びパンを口に運びながら、昨夜の事を思い出そうとした


どうしても思い出せなかったけれど何故か心も体も充実して居て


段々とお腹も充実して来てどうでも良くなった




『宿屋のカウンター』


カウンターには笑顔を浮かべた宿屋の女将が立っている


宿屋の女将「昨晩はお楽しみでしたね…もう出発されますか?」


僧侶「あ…あのーー何か聞こえてたのかなぁ?」モジモジ


宿屋の女将「それはもう大きな声で…オホホホ」


僧侶は顔を赤らめ、騎士の方をちらりと見た


騎士「あぁすみません…お騒がせしまして…」


宿屋の女将「いえいえお気になさらず…それで今日はどちらへ?」


騎士「はい…今日は北の遺跡に行ってみようかと…」


宿屋の女将「それは良いですね…歩いて30分程で行けますよ…あらご存知でしたわね…オホホホ」


騎士は首を傾げながら金貨を取り出しカウンターに置いた


騎士「今日の分のお勘定と…馬を少し預かってて下さい」ジャラリ


宿屋の女将「お預かりいたします…お気をつけて行ってらっしゃいませ」


女将はにっこりと微笑み二人を送り出した




『遺跡の森』


崩れた石造りの遺跡を覆い隠す様に木が生い茂る


観光名所になっているのか、奥へ続く道は平坦で歩きやすい


僧侶「ねぇ…手をつないでも良い~?」


騎士「あ、あぁ良いよ…どうしたんだい?」


僧侶「なんとなく手を繋ぎたい感じ~ウフフ」


二人は手を繋ぎ、ゆっくりと歩き始めた


木漏れ日が二人を温かく包み、柔らかな風が花の香りを運んできた


騎士「見たことの無い石造が沢山あるね…」キョロ


僧侶「そうだね~ココって何だったんだろーね~」


道の両側には崩れた石像や彫刻が並び、かつての栄華を思わせる


騎士「良い香りがして来た…近そうだな」


僧侶「あ!向こうにお花畑がある~早くいこ~」…と言って手を引っ張る


騎士「うわ!?スゴイ…一面の花だ」


僧侶「わ~いウフフ~」僧侶は掛けだした


騎士「あんまり遠くには行かないで」


僧侶「すご~~い!ど~ん」大の字で寝転んだ


騎士「花を荒らしたらダメだよ?」


僧侶「騎士もおいでよ~大の字になって横になってみよ~よ~ウフフ」


騎士「よっこら」騎士も並んで大の字になった


青空の下鳥が鳴く声…羽ばたく音…蝶がひらめき次の花へと…また次へ


それはまるでこの世界のことわりの様に思えた


---なんだか時間を忘れるね---


---そうだね~ウフフ~---


---手を繋いでも良い?---


---良いよ---


---なんかすごく幸せな感じ---


---心が満たされる感じ---


騎士「あれ?泣いてるのかい?泣き虫だなぁ」


僧侶「どうして涙が出るんだろ?悲しくないのに」


僧侶は頬を拭いながら微笑んだ


騎士「さてと…」


僧侶「私ずっとココに居た~い」


騎士「ダメだよ…僕達は行かなきゃ…おいで」


僧侶「ねぇねぇ…あそこの瓦礫は何だろ~う」


騎士「あれが元々は魔女の塔だったのかな?」


僧侶「んん?シィィィィ…何か聞こえる」キョロ


遠くから誰かの歌声が聞こえて来た


♪ラ--ララ--♪ラー


騎士「誰か歌ってるね…誰だろう?」


瓦礫のある方からノソノソと三角帽子を被った老婆が近づいて来た


老婆「旅人の方かね?」


騎士「あ、はい」


老婆「花を踏まんで貰えぬか?…花も生きて居るでのぅ…」


騎士「あ!!すいません」


老婆「わらわは目が見えにくくなってのぅ…もっと近くに来てくれんか?」


騎士「僧侶?花を踏まない様においで…」


僧侶「うん…」


二人は老婆の元へゆっくりと近づいた


老婆の顔には深い皺が刻まれ、怪しげに覗かせた瞳は紅色で不思議な力を感じさせた


老婆「おおおおおおおおおおおぅ」


騎士「え?何?」


老婆「やっと返しに来寄ったか…早くアレをわらわに返しておくれ」


騎士「え?アレって…」


老婆「わらわはあの指輪が無いと生きて行けぬ…約束通り返しておくれや」


騎士「ゆ、指輪?」(約束?)


老婆「そうじゃ…わらわは主らを待っておったのじゃ」


騎士「まさか…コレ…かな?」


そうだあの時言われた言葉…


---「マジョ…ニ…カエセ」---


---「モリ…ヘ…ユケ」---


思い返せば繋がる…


老婆「そう!それじゃ…それは愛しの人に会う為の物…早く返しておくれ」


騎士「あなたは…魔女?」


老婆「いかにも…その指輪が無いとわらわは若さを保てぬ…」


騎士「わかったよ…ハイ」


老婆「付いて来るのじゃ…ここは危ない」


騎士「危ないって…何が?」


老婆「こっちじゃ…」


魔女は更に森の奥へ進んだ


二人はその後を追い、深い森の中へと足を踏み入れた


鳥のさえずりが遠のき、木々のざわめきに変わっていた



『追憶の森』


老婆「ここなら安心じゃ…さて始めるぞよ」


老婆はその紅い瞳を閉じ両手を広げた


騎士「始めるって何の話?」


老婆「そなたらから少しだけ若さを貰う約束じゃ…忘れたのか?」


騎士「約束って何のことだか…」


老婆「なに…心配せんでも良い…少しだけ若さを貰うだけじゃ」


僧侶「わたしお婆ちゃんになっちゃうの~?」


騎士「いや…それは…」


老婆「心配せんでも良いと言っておろう…早よう手を繋げ…はぐれてしまうぞえ?」


騎士は僧侶の手を掴んだ


僧侶「ウフフ」


老婆「目を閉じるのじゃ…」


騎士「ちょっと…説明を…」


老婆「すぐ終わるで…早よう目を閉じろ」



静寂…



騎士は目を閉じながら心臓の鼓動が高鳴るのを感じた


一体何が始まるのか?


騎士「ええと…もう目を開けても良いのかな?」


僧侶「……」


僧侶「私も開けて良い?」


騎士「あれ?…」ゆっくり目を開く…


僧侶「あれ~~~~~?お婆ちゃん?」


騎士「…どこに行った?」キョロ


僧侶「消えちゃった~なんでだろーーウフフ」


騎士「何だったんだ?」


僧侶「わたしお婆ちゃんになってない?」


騎士「いや…変わって無い」


僧侶「魔女のまぼろしかな~タヌキに化かされた?なんてね~」


騎士「ま、まぁ…そろそろ戻ろうか」


僧侶「うん…又来ようね」


騎士「ええと…森の町はあっちの方角かな?」


僧侶「何処から来たのか分からなくなっちゃったね」


騎士「大丈夫…方角はわかる…手を放さないでね」


二人は方角だけをアテに帰路についた


森の中は変わらず静かで、木漏れ日の差し込む道を戻って行く




『森の町』


バカラッ バカラッ パカパカ ブルル


慌ただしく始まりの国の衛兵達を乗せた馬車が森の町を訪れた


馬の蹄の音が響き渡り、町の住人たちは驚きと不安の表情を浮かべていた


衛兵「どうどう…」ヒヒ~ン ブルル 軍馬が荒ぶって居る


精鋭兵「衛兵!どうだ?見つけたか?」


衛兵「ハッ!宿屋に若い男女が昨夜宿泊したとの事です…あの馬を見てください」


精鋭兵「ウム、軍馬だな…偽勇者に間違いない」


衛兵「来た甲斐がありました!」


精鋭兵「よし!でかした!!今は何処にいる?」


衛兵「今朝がた北にある遺跡の森に向かったようです…まだ戻って来ていません」


精鋭兵「そこに何があるか聞き込みはしたか?」


衛兵「昔は塔があったようですが2年前に崩されています…今は何もありません」


精鋭兵「噂に聞く魔女の塔か…」


衛兵「はい…最近老婆が付近をうろついているとの事です」


精鋭兵「ふむ…よし!2名は遺跡の森へ向かってくれ」


衛兵「ハッ」


精鋭兵「見付けても手を出すな!必ず町に戻ってくる」


精鋭兵「残りの者は宿屋周辺で潜伏して待機!馬に接触するのに合わせて捕える」


衛兵「分かりました!」


精鋭兵「よし作戦開始!」(必ず捕らえてやる)



その後、何時まで経っても若い男女は戻る事無く


遺跡の森の大規模調査を行った物の2人は忽然と姿を消した


唯一の手掛かりは三角帽子を被った婦人


その婦人は愛しき人を待つと言うだけで、頑としてその場を離れる事は無く、ただ歌うのみであった




一方…騎士と僧侶は何の苦労も無く森の町へ帰って来る…




『宿屋の前…閉店』


僧侶「ルンルン…あれれ~?何かおかしいなぁ…」辺りを見回す…


宿屋の前は静まり返り、普段の賑わいが感じられない


閉ざされた扉に「閉店」の札が掛かっている


騎士「馬が居ない…どこか移動したのかな…」キョロ


僧侶「綱を繋ぎ忘れた~なんてね~ウフフ」


騎士「宿屋も閉まってるし…まいったなぁ…」


僧侶「じゃぁ買い物にでも行こうよぉ~」


騎士「あぁそうだね…少し時間を潰そう」


僧侶「わ~い!!何処いく何処いく~?」


騎士「そうだな…まず君の装備品を買いに行こう」


僧侶「行く行くうううううう~ウフフ」


二人は店のある方へ歩き出した


町の商店街は人々が行き交っていて変わった様子は無い




『防具屋』


扉を開けるとカランコロンと鈴が鳴る


店内は明るく、様々な防具や装備が並べられている


店主「いらっしゃいませ」


僧侶「…」(なんかちがう…コレジャナイ)


店主「何をお探しですか?」


騎士「女性用の軽くておしゃれな装備ないかな?」


僧侶「お!?そんなのあるの?」ワクテカ


店主「失礼ですがそちらの方は…」


騎士「あぁ僧侶なので鎧じゃ無い方が良いです」


店主「ではピッタリのおしゃれなローブがございます」


騎士「試着させて下さい…良いよね?」


僧侶「うん!わくわくしてる感じ~ウフフ」


店主「ではこちらで…」


僧侶は試着を始めた


店内には試着室があり、僧侶は楽しげにローブを選びながら中に入った


数分後…


僧侶「これに決めた~ウフフ」


騎士「お?見せて?」


僧侶「ジャーン♪」満足げに新しいローブを見せた


僧侶は嬉しそうにポーズを取り、ローブの裾を広げて見せた


騎士「おぉ良いね…可愛いよ」


僧侶「ウフフ~もっと言って~~♪」


騎士「それフードかぶるとどんな感じ?」


僧侶「ほい!」スッポリフードに収まる


騎士「良いね…偽装の任務完了かな」


僧侶「買い物楽し~い」


騎士「あと店主さん!急所だけカバーするインナーも付けておいて」


店主「分かりました」


僧侶「これ着て行っても良い?」


騎士「もちろん…今まで身に着てたやつはここで引き取って貰う」


店主「インナーの装着も忘れないで下さい」


僧侶「は~い!!着けて来るね」


騎士「代金はここに置くよ」ジャラリ


店主「ところで旅の方…最近この町では神隠しがあるのでお気をつけください」


騎士「え?神隠し?」


店主「お連れ様が神隠しに会わぬ様しっかりと手を握ってあげるとよろしいかと」


騎士「あ、あぁ忠告ありがとう」(神隠しねぇ…)


僧侶「お・ま・た・せ~♪ウフフ」


僧侶は新しいローブを着て、試着室から戻ってきた


騎士「うん。じゃぁ行こう」


二人は店を出て、再び町の通りを歩き出した


新しい装備を身に着けた僧侶は、心なしか自信に満ちた表情を浮かべていた




『武器屋』


カーン カンカン 鉄を打つ音が店内に響き渡る


客の来店に気付いた店主は腕まくりしながら近づいて来た


店主「らっしゃーい」


騎士「この子に杖を買ってあげたいんだけどあるかな?」


僧侶「え~~~?杖?わたしお婆ちゃんじゃないよ~ぅ」


騎士「出来るだけ短いやつで…」


店主「じゃぁこれでどうよ?」


店主は短くて精巧な杖を差し出した


僧侶「お?ちっちゃくてかわゆ~い♪」


僧侶は興味津々で杖を手に取り、くるくると回してみた


騎士「この杖にはどんな効果が?」


店主「それはまどろみの杖と言って眠りを誘う効果がある…買って行くか?」


騎士「僧侶どうする?」


僧侶「うん!コレで良い~」


店主「まいど!!ちなみにそれは突いて使えば護身にもなるぜ?」


騎士「良いね!お代はここに置くよ」ジャラ


僧侶「じゃぁ次にいこ~」


店主「おぉぅちょっと待った!神隠しが流行ってるから手を繋いでやんな!」


騎士「え!?」(またか…)


僧侶「店主さん気が利く~~~う」僧侶は騎士の手を掴んで引っ張った


騎士「ちょちょちょ…」




『中心街』


いくつもの露店で賑わう街道…ここが森の町の中心地だ


店先には果物や手工芸品が並び至って普通だが、どうも腑に落ちない



僧侶「ルンルン♪あ!?人が集まってる~なんだろ~」


騎士「本当だ…行ってみよう」


二人は人だかりを分けて何が有るのか確かめに来た


宿屋の女将「どなたかウチの娘を知りませんか?肌が白くて髪の長い娘です!


どこかで見ませんでしたか?もう2日も家に帰って来てないんです…どなたか…どなたか」


僧侶「あれ?あのおばさん宿屋のおばさんじゃない?」


騎士「本当だ!どういう訳か聞いてくる」


街の住民が寄り集まり噂をしている


「また神隠しか?」


「今回は子供だってさ」


「2人居なくなったらしいよ」


「もう1人の子供は?」


「あの悪がきだってよ」


「もう十分大人じゃねぇか」


騎士は集まる人をかき分け宿屋の女将の所へ向かった


騎士「すいません…ちょっと通して下さい」


宿屋の女将「旅人様!!…肌が白くて髪の長い娘を見ませんでしたか?」


騎士「あ、いや…」(馬の事聞ける雰囲気じゃないな)


宿屋の女将「旅人様…どうかお助け下さい…1人娘なんです…うぅ」


騎士「す、すいません…見て…無いです」


その時一人の青年が声を荒らげ言った


青年「俺が見つけてくる!!あの塔の魔女がさらったに決まってる!!」


「塔の魔女は何か悪い事したことあるか?」


「いや聞いた事が無い」


「花の世話をしている良い魔女だぞ」


「でも魔女なら何か知ってるかも」


「どうせただの家出だろ」


騎士は集まった人々の様子を見て、宿屋の女将にこれ以上話を聞くのは無理だと判断し引き下がった


騎士「僧侶、どうする?」


僧侶「うーん、困ったね~…」


騎士「神隠しか…本当にそんなことがあるのかな?」


僧侶「私も聞いたことが無いけど…なんだか不思議だね」


二人は再び手を繋ぎ、町の中心街を歩き始めたが、宿屋の女将の言葉が引っかかっていた


騎士「でも、どうしてそんな噂が広まるんだろう?」


僧侶「なんでかなぁ?…でも、なんだか気になるね」


騎士「とりあえず、もう少し町を回ってみよう。何か手がかりがあるかもしれない」


僧侶「オッケー!!」





『宿屋前_閉店』


行き場を失った騎士と僧侶の二人は首を傾げていた


騎士「う~ん…もしかして…」


僧侶「どうしたの~?なんか考え事~?」


騎士「なんかありえない話なんだけどさ…」


僧侶「う~ん多分ね~私と同じ考えかも~」


騎士「…言ってみて」


僧侶「ここはね~…多分4~5年前だと思うの~ウフフ」


僧侶は微笑みながら答えた


騎士「僕も同じ考えだ」


騎士は僧侶の言葉に頷き、決意を固めた


騎士「もういっかい遺跡の森に行こう!!」


僧侶「そだね!!いこーう!!」


僧侶は騎士の手をしっかりと握り返し、二人は再び遺跡の森へ向かって歩き出した




『遺跡の森』


二人はもう一度老婆に出会った場所に戻る事にした



騎士「あ!!誰か居る!!」


僧侶「どこ~?あれれ?さっきの青年じゃない?ウフフ」


青年「やべ…誰か来た…」


騎士「君も宿屋の娘を探しに来たのかい?」


青年「か、関係無いだろ!」


青年は少し戸惑った様子で答えた


僧侶「私たちお花畑に行くんだ~一緒に来る?」


僧侶は明るく微笑みながら誘った


騎士「どうせ行く方向は同じだし一緒に行こう」


青年「俺は別に怖かった訳じゃないからな」


騎士「ハハまぁ…行く方向が同じなだけさ…僕達は魔女に用事があってね」


青年「ふん!!まぁ良いや…付いて行ってやる」


青年は不機嫌そうに見えたが、素直に応じた


三人は奥へ進み始めて老婆に出会った場所を探す




『花の咲く広場』


広場には見上げるほどの塔がそびえ立っている


花々が咲き乱れ、色とりどりの花びらが風に舞っていた


騎士「こ、これは…」タジ


僧侶「わお~大きいぃ~~」


騎士「魔女の塔だ…」


僧侶「まだ壊れてないね~おっかしいな~」


騎士「僧侶…これでハッキリした」(過去に戻っている)


僧侶「うん!」


僧侶は騎士の言葉に頷いた


騎士「魔女を探そう!!多分あそこの塔だ!行こう」


青年「おい!待て」


青年が急いで駆け寄ってきた


僧侶「ん?どうして~?」


青年「魔女に…消されるぞ」


騎士「君は何か知ってるな?」


青年「俺と宿屋の娘と悪がきの3人は昔から仲良しでよくここで遊んだんだ」


青年は少し戸惑いながらも話し始めた


ある日兵隊がやってきて魔女に何か頼みごとをしてた


物陰に隠れて見てたら…見たんだ…塔の魔女に消される所を…


ただ姿を消したんじゃない…その後魔女が若返った…命を吸ってるんだよ


だから森の町の神隠しの犯人は魔女に間違いない…若返る為に


でも大人は誰も信じなかった


騎士「そうか分かった…僕達が魔女を止めに行くよ」


僧侶「私たちは魔女の知り合いなの~ウフフ」


僧侶は微笑みながら青年に言った


青年「なんだって!?お前達は塔の魔女の仲間なのか?」


騎士「心配しなくて大丈夫だよ…塔に行くけど君も来るかい?」


青年「信じて良いんだな?」


青年は疑いの目で騎士を見つめたがニコニコ微笑む僧侶を見て信じる事を決めた


僧侶「よし!いこ~」




『魔女の塔』


見た事の無い石で作られた堅牢な塔だった


随所に細工が施されており、恐らくルーン文字が刻まれているのだろう


塔は重厚感と神秘的な雰囲気を放っている


騎士「近くで見るとスゴイ文化財じゃないか…こんな建物見た事が無い」キョロ


僧侶「上の方から声が聞こえるよ?」


騎士「やっぱり行方不明の二人は此処に来ていた様だね」


僧侶「どうするの?」


騎士「盗み聞きするのは気が引けるけど…少し様子を見よう」


僧侶「しぃぃぃぃぃ…」


耳を澄ますと会話が良く聞こえる…



宿屋の娘「魔女さんお願いします!」


悪がき「お願いだ!僕は罪を犯してしまった…ここから逃げ出したい」


魔女「わらわは愛しき人を待って居るだけじゃ…何の魔法も使えんよ」


悪がき「このまま逃げてもきっと捕まってしまう」


魔女「捕まって罪を償えばよかろう…」


悪がき「でも僕達は見たんだ!魔女が人を消す所を!…姿を消すだけで良いんだ」


魔女「何度言ってもムダじゃ…わらわは人を消すことなぞ出来ぬ」


悪がき「消すのがダメなら…他に…何か助かる方法はないのか?」


宿屋の娘「私は彼を愛しているの!このままだと一緒に居られなくなる…」


悪がき「僕達は愛し合っているんだ!二人で逃げる方法を教えてくれ…お願いだ」


魔女「自ら犯した罪からは逃れられんぞ?…償えば未来は来る」


その時青年は一人階段を駆け上がって行った


タッタッタ…


悪がき「お前!!僕を探しに来たのか?」


魔女「ほぅ…これは見ものじゃのぅ」


青年「宿屋の娘!悪がき!…皆心配してるぞ」


悪がき「僕を心配する奴なんか一人も居ない!!」


青年「ど、どんな事があっても…俺は…俺はお前を裏切ったりしない!!俺が心配している!」


宿屋の娘「……」


青年「帰ろう!帰って罪を償おう」


悪がき「だめなんだ…僕は…人を殺してしまった」


青年「ばかやろう!!」ボカッ


宿屋の娘「悪がき!!」


青年「お前は自分のやったことから逃げるのか!?」


悪がき「……」


青年「俺は逃げない!本当は…俺は…宿屋の娘の事が好きだ!」


宿屋の娘「え!!?」


青年「でも宿屋の娘はお前の事を愛している…だから!!」


青年「悪がき…俺はお前の事を絶対守ってやる!!」


魔女「切ない話じゃのぅ…さぁ子供達…お家にお帰り」


魔女「わらわが一つだけおまじないを掛けてやろう…愛を知るおまじないじゃ」


魔女「皆が心配しておるじゃろうから早く帰っておやり」


宿屋の娘「……」


青年「さぁ…帰ろう…お前達は俺が守る!!」



盗み聞きしている下の階では…



騎士(まぁ良かったじゃないか)ヒソ


僧侶(そうだね…でも何か魔女と会いにくくなっちゃったね)


騎士(もう少し待とうか…)


魔女「そこに隠れて居るのは初めからバレて居るぞよ?」


魔女「何用じゃ?顔をみせい」


騎士「あらら…バレてたか…」


僧侶「じゃぁ上に上がろっかぁ」…二人は階段を上がった





『魔女の部屋』


三角帽子を被った女が待ち構えていた


窓から差し込む僅かな光が、魔女の姿を幽玄に照らしていた


魔女「主らは誰じゃ?なぜわらわを尋ねに来た?」


騎士「あれ?…随分若いな…」ハテ?


僧侶「コッソリしててごめんなさ~い…アレ~お婆ちゃんはどこ~?」


僧侶は周りを見回しながら言った


騎士「僧侶違うよ…この人があのお婆さんだよ…」


僧侶「ええええ!!?魔女さん?なの?」


僧侶は驚いて目を丸くした


魔女「わらわは愛しき人を待っておる…用が無いなら帰っておくれ」


騎士「えーとその…僕達二人は未来から来た」


魔女「……」ジロリ…魔女の赤い瞳が怪しく光った


騎士「帰る方法を知りたいんだ…」


魔女「何の事じゃろうか?…わらわは愛しき人を待って居るだけなのじゃが…」ジロジロ


騎士「指輪の秘密を知っていると言ったらどうする?」


魔女「……」魔女の目つきが変わった


僧侶「魔女さん…私たちは未来の魔女さんに会ったの~お婆ちゃんだったけど…」


魔女「質問なのじゃが…未来ではわらわはまだ愛しき人には会っておらんのか?」


騎士「まだ会えていなかった…」


魔女「いつの時代から来たのじゃ?」


騎士「五年ほど未来…かな?」


魔女「こっちへ来て…詳しく話を聞かせい…色々辻褄が合わん点もあるでのぅ…」


騎士「辻褄?」


魔女「主らに言うても分からん話じゃ…次元の話なぞ理解出来ぬじゃろう?」


騎士「何の事だか…」


魔女「ハーブ茶を出すで椅子に掛けて待って居れ…」


お茶を入れる魔女の姿に少し違和感を感じた


ノソノソと動いて分かり難いけど…なんだろう?…残像が見える


存在に連続性が無いと言うか…この世の人じゃ無い様な…これが魔術なのか?


部屋の一角には蒸留器や乾燥中のハーブがあり、錬金術の器具が並んでいる


古い書物や巻物が山積みされており、魔女と呼ばれるだけの雰囲気は伝わって来た


魔女「さて…ゆっくり話が聞けるのぅ…どの次元から来たのか詳しく話すのじゃ…」


騎士は今まで経験してきた事をすべて話した


カクカク シカジカ


魔女は話を聞きながら静かに頷き、時折赤い瞳を細めて考え込む様子を見せた




『30分後…』


魔女「ふむふむ…そなたらの言っている事に偽りは無さそうじゃな…」


騎士「それで…帰る方法は?」


魔女「それは簡単じゃ…5年経てば帰れる…じゃが他に方法は無い」


騎士「いやそれは…」(帰れない…)


騎士は不安そうに顔を曇らせた


魔女「未来のわらわに若さを吸われたのじゃ」


魔女は冷静に話し始めた


魔女「わらわはそうやって時の彼方より命を繋いでおる…愛しき人に会うためにのぅ…」


騎士「……」


僧侶「どのくらい昔なんだろ~?」


魔女「200年ほど待っておる…あぁ待ち遠しい…愛しき人よ」


魔女の瞳には遠い過去への思いが込められていた


騎士「その愛しき人というのは…一体誰?」


魔女「今この世に生まれておる筈じゃ…必ず会えると約束をしたのじゃ」


魔女「じゃがそなたらの話では…この指輪は囚人の手にあったのじゃろう?」


騎士「なぜじゃ?なぜ囚人の手に指輪が渡ったのじゃ?」


魔女「指輪が無ければわらわは生きては行けぬ…」


魔女「5年後そなたらに会った時にもまだ…愛しき人には会って居らぬのじゃろう?」


騎士「さぁ…そこらへんは分からない…ただ」


騎士「未来の魔女は僕が指輪を返しに来ることを待っていた…なぜだと思う?」


魔女「わらわは愛しき人の為以外に指輪は手放さなぬ」


騎士「そうか…多分…愛しき人に会った後なのかも知れない…これから何か起きる」


魔女「うぉぉぉぉおぉぉぉおおっぉ…行かねば…」


魔女は急に立ち上がり焦った様子を見せた


魔女「愛しき人がすぐ近くに…でなければ指輪を預かっている筈がない」


魔女「じゃが何処に行けば良いか分からぬ…主らに付いて行くぞよ」


騎士「え?…それで良いのかな?」


騎士は少し戸惑いながらも魔女に尋ねた


魔女「他に思いつかんのじゃが…」


騎士「僕は今、魔王を倒すために旅をしている…それでも付いてくる?」


魔女「魔王じゃと?…魔王はもう居らんぞよ?」


魔女「わらわの愛しき人が200年前に魔王を滅ぼしたのじゃ」


騎士「ええと…どういう事だろう?」


その時世界は魔王によって滅ぼされようとしておった


ある日異世界より勇者達が舞い降りた


わらわと勇者達は共に戦い魔王を滅ぼした


その後わらわ達は恋に落ち永遠を誓った


世界に平和が訪れわらわと勇者は幸せに暮らす筈じゃったが


時の王は勇者を退けわらわは塔に幽閉された


必ず又会えると約束したのじゃ


わらわは勇者から聞いて居った…200年未来から来たと


じゃから待ち続けておる…また会う時まで


魔女「また会えると信じ毎日花を植えた…愛しき人を想いながらのぅ…」


魔女「200年は長い…ただ又会いたい…その想い一心で待っておった」


魔女「愛しき人に何か起こるならば…助けに行かねばならぬ…愛しているのじゃ」


僧侶「うぇっ…うぇっ…ヒーン」僧侶は感極まって涙を流した


騎士「あの花は魔女が一人で?」


僧侶「騎士ぃ…一緒に探しに行ってあげようよ~ひっく」


魔女「話がなごうなったのぅ…もうすぐ日が落ちてしまうが…」


騎士「じゃぁ行こうか」


魔女「うむ…わらわは何も持ち物が無い故に直ぐに出立できるぞよ?」


騎士「ここにはしばらく戻れないけど…大丈夫かい?」


魔女「愛しき人との思い出の場所じゃで名残は惜しいが…帰って来れん訳でもあるまい」


騎士「あと数年でこの塔も壊されてしまうんだけどね…」


魔女「未来を変えられるかどうか分からんが…愛しき人に会う為なら仕方ないのぅ」


僧侶「ねぇ魔女~あの歌聞かせて~?」


魔女「エルフに伝わる愛の歌じゃ…主も歌うか?」


僧侶「教えて教えて~」


魔女「ふむ…では花畑を歩きながらでも歌うとしよう…」


帰り道…お花畑は夕日に照らされて光って居た


黄昏時とはこの事だと思った


魔女が歌う愛の歌は…黄昏に心を切なくさせる


ただ会いたい…その想いはこのお花畑の様に世界を変える力を持って居るかもしれないと思った

 




『森の街宿屋』


僧侶「日が暮れちゃったね~ウフフ」


騎士「あぁ…またあの宿屋にお世話にならないとね」


僧侶「お店開いてるみた~い」


魔女「わらわはどこでも良いぞ」


騎士は宿屋の扉を開けて入った…カランコロン


宿屋の女将「いらっしゃいませ…旅の御方…ハッ、もしや!」


騎士「え?また何か?」


宿屋の女将「家出娘を迎えに行ってくれた方ですか?…青年から話は聞いています」


騎士「はぁ…僕達は何もしていないんだけどね」


宿屋の女将「大変ご迷惑をおかけいたしました…お代は要りませんので今日は泊まって行って下さい」


僧侶「わ~い♪ごちそうごちそ~う」


宿屋の女将「こちらのご夫人…あら?魔女様でしたか?」


騎士「い、いやいや違うよ…」


宿屋の女将「オホホ失礼しました…魔女様にしては御二方共若すぎますものねオホホ」


魔女「……」シラー


騎士「それで娘さんは大丈夫でしたか?」


宿屋の女将「はい…娘と青年と悪がきの三人で教会の方に行ったようですわ」


騎士「それは良かった」


宿屋の女将「何でも喧嘩した相手が死んだフリをしてたのが教会でバレたとか何とか…」


騎士「そうですか…何事も無くて良かったですね」


宿屋の女将「いえいえ大変お世話になりました」


僧侶「早く~~~はらぺこぺこぺこぺこ~~」


騎士「あぁ今日は二人部屋を二つお願いします…」


宿屋の女将「わかりました。お部屋の準備が出来るまで広間の方で先にお食事をお済ませ下さい」


僧侶「は~い」




『広間』


広間には暖かな雰囲気が漂い、他の宿泊客が楽しそうに談笑している


テーブルには美味しそうな料理が並び、香ばしい香りが鼻をくすぐる


僧侶「ぷはぁおいしかった~~マンプク」


騎士「この宿屋の料理は本当に美味しいね…ハチミツのおかげかもね」


魔女「…それはわらわのおかげでもあるぞよ?」


騎士「森の町がハチミツの産地になってる事は知ってる?」


魔女「当然じゃ…ミツバチは色々な噂を運んでくるもんでのぅ」


僧侶「魔女はミツバチと話せるんだ~すご~い」


魔女「ミツバチは愛を運ぶとも言われておるんじゃぞ?」


僧侶「愛…かぁ」僧侶はウットリしている


宿屋の女将「お食事はお済みでしょうか?お部屋の準備が出来ましたのでご案内いたします」


騎士「あぁ頼むよ」


宿屋の女将「ではご案内致しますのでご一緒に…」


宿屋の女将に部屋まで案内された


宿屋の女将「こちらの二部屋になります…今日はごゆっくりとお休み下さい…では失礼します」


騎士「じゃぁ…僕はこっちの部屋で」


僧侶「じゃまた明日ね~」手を振る僧侶


魔女「ではの~」ノシ




『二人部屋』


ガチャリ バタン


騎士「ええと…」


僧侶「うふふ~」


騎士「…で…君はなんでこっちの部屋なの?」


僧侶「どうして?」


騎士「いあ…だって部屋二つ用意したんだけど…」


僧侶「だから?」


騎士「え、あ…まぁ良いんだけどさ」


僧侶「今日は不思議な一日だったね~ウフフ~」


騎士「そうだね…でももう後戻りできない事も分かった」


僧侶「本当にこの世界は四~五年前なのか良くわからないね~ウフフ」


騎士「うん…実感が無い…これからどうしたら良いのか…」


僧侶「ねぇ…昨日の事なんだけど…」モジモジ


騎士「ん?なに?」


僧侶はベッドに腰掛け、少し恥ずかしそうに視線を下げた


僧侶「わたし昨日の夜の事ぜんぜん覚えて無くって…」


騎士「…無くって?」


僧侶「…その…記憶に残るようにもう一回…シテほしいの」


騎士「へ?」


僧侶「だっこ」


騎士「だっこ??いや…まぁ良いけど」


僧侶「ちょっと恥ずかしいけど…」僧侶は衣服を脱ぎ始めた


騎士「え!!?…ちょ」


僧侶「だっこして寝るの~!」


騎士「いや、あ、う、うん…いいのかい?」


僧侶「今日はがんばるもん」僧侶は騎士に抱き付きキスをした


騎士「いやがんばるって…むぐぐ」


僧侶「ちゅううううう」


騎士「んむん…ぷは…ほ、ほんとにいいのかい?」


僧侶「うん…ちゃんと記憶に残る様に…」


その夜、二人は初めて愛を交換した…



『早朝』


チュンチュンと鳥が夜明けの歌を歌う


僧侶の目覚めは良かった…夢じゃないか確認する為何度か二度寝してみた


僧侶「やっぱり…夢じゃない」パチリ キョロ


隣で騎士が寝ている


騎士「すぅ…すぅ…」zzz


(ユメジャナイ)


(キノウトチガッテ)


(ミタサレテルカンジ)


(ココロガオチツイテルカンジ)


(ホカニナニモイラナイカンジ)


(モウカエレナクテモ)


(ソンナコトドウデモ)


(ヨクナッタ)


(ナンカシアワセ)


(モウナニモイラナイヨ)


(ズットコノママデイイヨ)


(ズットツナガッテイタイヨ)


そんな愛を満喫しながら再び眠りについた




『朝』


チュンチュン


騎士「ふぁあ~~あ」…先に起きたのは騎士の方だった


僧侶「スピースピー」…僧侶は幸せそうに寝て居る


騎士(おはよう…声を掛けると起こしちゃうかな…先に着替えておこう)


騎士は静かに着替え始めた


その時窓の向こうに何かが見えた…


騎士(あれ?なんだあれ?)


騎士(あ…気球だ!!)


僧侶「ふにゃーーー」僧侶が目を覚ました


騎士「あ!おはよう」


僧侶「うふふ~おはよ~」満面の笑み


騎士「大丈夫かい?僧侶昨日はすごかったね」


僧侶「うふふ~」


騎士「だっこ好きなんだね」


僧侶「うん♪」(昨日と同じ会話)


僧侶「ねぇ!わたしどうだった?」


騎士「最高だったよ」


僧侶「わたしのこと好き?」


騎士「大好きだよ」


僧侶「私も騎士が大好き」(どんどん満たされていく)


騎士「そろそろ着替えなよ」


僧侶「は~い」


明るいと恥ずかしいのか僧侶はシーツの中で着替えている


騎士「あれ見て!!」


僧侶「なに~?あ!!気球?乗ってみた~い」


騎士「今日行ってみよう」


僧侶「わ~い」


騎士「魔女起きてるかな…」


僧侶「起こしに行こっか?」


騎士「頼むよ」


僧侶はドアを開け、隣の部屋に向かった




『宿屋出入口』


宿屋の女将「昨晩はお楽しみでしたね?本日はもう出発されますか?」


騎士「はい…お代は本当に良いんですか?」


宿屋の女将「もちろんです…汚したシーツもお気になさらないでください」


僧侶「ちょちょちょ…」アタフタ


魔女「……」ジロリ


騎士「外に見える気球は?」


宿屋の女将「あの気球ははるか西にある砂漠の町へ行く為に貸し出している物ですよ」


騎士「砂漠の町はここから大分遠かったと思うけど」


宿屋の女将「ですがすぐ西のエルフの森は危険ですので気球で越えるのが一番安全らしいです」


騎士「そうなんですか…気球はどうやって借りれば?」


宿屋の女将「町外れに貸出所があるので詳しくはそちらで聞くと良いかと」


僧侶「ねぇ…はやくぅぅぅ」グイグイ


騎士「あぁぁごめん…店主さん情報ありがとう」


宿屋の女将「いえいえ又のお越しをお待ちしております…今後とも仲良くなさって下さい」


僧侶「は~い…ウフフ」


魔女「……」ジロリ


騎士「じゃぁ行こうか」




『街道』


僧侶「騎士ぃ~手ぇ~~」


魔女「そなたらは仲が良いのぅ…わらわと愛しの人を思い出すわ」


騎士「ま、まぁね」


僧侶「ウフフ~」


魔女「僧侶は騎士からピッタリ離れんのぅ…目に痛いわ」


騎士「この先で魔女の装備も整えて行こう」


魔女「わらわはこの格好で良いが?」


騎士「あからさまに魔女っぽい格好はまずいかな…」


僧侶「私が選んであげる~ウフフ~たっのしみ~~」


騎士「まぁ…そこのお店だよ」




『防具屋』


僧侶「おまたせ~コーディネートはこーでねーと!なんてね~ウフフ」


魔女「この格好で愛しの人に見つけてもらえるかのぅ…」


魔女は店内を見回しながら、少し戸惑った表情を浮かべていた


僧侶は楽しそうにあちこちの装備品を見て回り、魔女に似合いそうなものを探していた


騎士「割と普通になったかな…護身用の装備も良いかな?」


魔女「わらわに護身用は必要ないが?…危険が迫れば若さを吸えば良い」


騎士「そっか…」(魔王を倒した事があったんだっけ)


魔女「あまり吸いすぎると子供になってしまうがな…」


騎士「それは困るなハハ」


騎士(待てよ…魔王がもう居ないとしたら…僕は一体何と戦うんだ?どうして勇者に選ばれたんだろう?)


騎士は防具屋の窓から外を見つめ、考え込んでいた


僧侶「騎士?なんか考え事してる~?」


騎士「あぁ、ちょっとね…でも大丈夫だよ…さぁ、次はどこに行こうか?」


僧侶「気球に乗って砂漠の町へ行くんでしょ~?」


魔女「砂漠の町には何かあるのかの?」


騎士「まぁ行ってみないと分からない…兎に角僕は終わりの国を目指さないといけないんだ」


僧侶「楽しみだね~ウフフ」


魔女「では、早く気球を借りに行くとしようかのぅ」


防具屋を後にした三人は、再び街道を歩き出した


気球の貸出所が見えてくると、僧侶は興奮した様子で駆け出した





『気球貸出所』


ここにある気球は四人くらいが乗れる大きさの気球の様だ


貸出所員「よう!気球を借りに来たのか?」


騎士「はい…気球は初めてでも操作出来るものなのかな?」


貸出所員「ああ簡単だ…魔石を少し調整するだけだ…急には動かんから大丈夫」


騎士「借りるのは金貨でどれくらい?」


貸出所員「ちーっと高いぜ…金貨一袋だ」


騎士「うわ…全財産分だ…」(高すぎる)


貸出所員「でも安心しな!砂漠の町で気球を返却したら気球の代金は帰って来る…つまり移動代だけって事だ」


騎士「あぁそれなら大丈夫だ…ところで…」


騎士「この気球に…今の勇者が乗った事があるか知らないかい?」


魔女「ムム!!」


貸出所員「ん~はっきり覚えてないが…勇者らしき四人組みが借りていった事はあるなぁ…」


騎士「それはどれくらい前?…」


貸出所員「半年前かって所だな…まぁ金持ちじゃ無いと借りられないから…乗れる人は限られるしな」


騎士「その四人組が向かった先について何か知らないかい?」


貸出所員「砂漠の町の後のことは知らねぇ…向こうは商人ギルドが情報牛耳ってるからソコで聞くと良いかもな」


魔女「その勇者の特徴はなにか覚えておらんか?」


貸出所員「おおぅ御嬢ちゃん…勇者様に会ってみてぇのかい?」


魔女「質問に答えてないぞよ?」


貸出所員「御嬢ちゃんよ…どっかのお姫様みてぇな口ぶりだなハハ…残念だが主だった特徴は覚えてねぇな」


魔女「他には覚えておらんか?」


貸出所員「すまねぇ…無口な勇者だったもんだからほとんど会話してねぇんだ」


魔女「無口か…」


貸出所員「よう!それで気球は借りていくか?」


騎士「砂漠の町までの日数は?」


貸出所員「一週間は掛からん…風次第だから早けりゃ五日って所だな」


騎士「必要な物を揃えてまた来る」





『1時間後』


騎士は物資の積み込みをしていた


騎士「これで良し…っと」ゴソゴソ


貸出所員「おぅ随分荷物積み込んだじゃねぇか…こりゃ気球の旅も快適だなハハ」


僧侶「お~籠の中はお部屋になってるんだね~ウフフ~」


貸出所員「火事だけは気をつけてくれ…たまに事故があってな」


騎士「僧侶も気球は初めてかい?」


僧侶「うん見た事はあったけど~王国が禁止してから見なくなったかな~ウフフ」


貸出所員「禁止?何の事だ~?」


騎士「あ、いやこっちの話だよ」


僧侶「2年くらい前かな~急に気球が禁止になったの~」


騎士「便利なのにどうしてだろうね?」


僧侶「わからな~いウフフでもわたしたちには関係ないね~」


貸出所員「おい!操作方法わかるか?…ここをこうすると火が出てだな…」ゴソゴソ


騎士「あぁ…見せて…簡単だね」


魔女「魔石のエネルギーを使っておるのか…」


貸出所員「替えの魔石はこっちのカゴに入ってる…それから向こうに着いたら気球貸出所にコレを渡してくれ」パサ


騎士「これは?」


貸出所員「代金返済額と必要な物資リストだ…まぁお前達には関係ない…無くすなよ?」


騎士「わかった」


僧侶「早くいこ~よ~ねぇねぇ」


貸出所員「そら!!早く乗った乗った~」


騎士「じゃぁ火の魔石で空気の温度上げて上昇だね?」


貸出所員「おうよ!まぁ教わるより慣れろだ…そんな難しく無いから上手くやれ」



シュゴーーーー



僧侶「わぁ!!浮いた浮いたウフフ」


貸出所員「じゃぁ気をつけて行って来な!!」


騎士「ありがとう!」


貸出所員「おっとそうだ!途中の森には降りないようにな?エルフに見つかると危ないからよ」


騎士「分かったよ」


フワフワと気球が空へと上昇し、森の町がどんどん小さくなっていく


僧侶「おおおおおおおおおぅすご~い」


魔女「わらわの花畑が見えるのぅ…しばしの別れじゃ」


僧侶「わぁぁぁこんな風になってたんだぁ~ウフフ」


騎士「いろんな物がどんどん小さくなって行く」


魔女「人間は小さいのぅ」


僧侶「本当だね…私もあんな風にすご~く小さい一人なんだね…」


騎士「……」


(僕は何処へ行くんだろう…何を成せば良いんだろう…魔王は一体どこにいる?)


気球はゆっくりと風に乗り、森の上空を進んでいく


遠くに見える山々や川の風景が、まるで絵画のように広がっていた





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