5 意外な場所での失恋
高木君とは高校が同じだった。
同じクラスになり、入学後のすぐの席替えで、席が前後で話すようになった。
志麻ちゃんと高木君は小学校が同じだったらしく、駅のカフェで志麻ちゃんとお茶をしていると、偶然、高木君と会い、私が挨拶すると、志麻ちゃんが「あれ?高木?」と言った。二人が知り合いだったことに世の中狭いと思ったものだ。
高木君は小学校6年で引っ越しをし志麻ちゃんちの近くから隣の市に移ったらしい。新築の為の引っ越しだったらしく、割と近場の引っ越しだったと言っていた。
その後、三人で会うことはなかったが、志麻ちゃんが高木君を知ってることから私はよく話題に出した。
私が高木君を気になりだし、好きだな、と思ったのは一年の終わりの方で、私は高木君も仲良しだと思ってくれていると思っていたし、それは間違いじゃなかったと思う。
私が高木君を好きになったのに、ドラマ的な何かがあった訳ではなく、話も合うし、面白いし、小さな事だがお礼を言ってくれるのが好感が持てた。黒髪も好きだった。顔はあっさりしていて好みだったと思う。
小さなことが積み重なって。少しずつ好きになったと思う。
二年でクラスは離れたが、隣のクラスになり、忘れた教科書や、たまにノートを貸し借りする位は仲が良かった。ただ、周りから冷やかされることもなかった。だから本当に仲がいいだけだった。
自分でもその関係に満足していた。高木君に彼女もいなかったから安心していたのだろう。お互い恋愛話をしたこともなかった。
告白しようかな、と少しは思ったこともあるが、振られるとこの関係も終わる、と思うと、メリットよりデメリットが多い気がして、怖くて告白は出来なかった。
三年でもクラスは離れ、クラスがさらに遠くなったから会う機会はさらに減った。でも、会えば話したり、高木君がたまに私のクラスの男の子と話したりしてるのを見たりしていた。
そんな日が毎日続くと思っていたら、突然思いがけない形で、三年の秋頃に振られた。
私は移動教室の帰り、高木君が告白されている場面に出くわしたのだ。4時間目の授業の後片付けを手伝った後、一人実験室から食堂に近道をする為中庭を突っ切っていた。中庭はタイルが引かれてあり、雨でもない限り、上履きでも少しなら気にならない。
中庭の真ん中あたりに行くと、「付き合ってください」と、声が聞こえた。
(うわ、告白。きまず)
と、私はささっと隠れた。すると聞きなれた声が聞こえた。
「ごめん」
高木君だった。私は、隠れてるのもあって。心臓が飛び出るんじゃないかとドキドキした。
(高木君、断ってる)
ホッとしたのもつかの間、女の子に、「好きな子いるの?」と、聞かれ、「うん、でも、君の知らない子」と言っていた。
「そう。私じゃダメ?試しに付き合うでもいいんだけど」と、女の子は聞き、高木君は「うん、その子が好きだから。ごめんね」と答えた。
女の子は「わかった」と、答えると中庭からいなくなり、しばらくすると高木君もいなかった。
私はホッとしたのもつかの間、ガーン!!っと大きくショックを受けた。
告白したのは、私のクラスの子で、少し前から私を無視してくる子だったからだ。
その頃は、携帯に変な電話もくるし(男の人の声で気持ち悪い事言ったり、無言電話だったりする)、犯人は多分その子(と、その子の友達、しかし証拠はない)だと思っていた。変な電話がかかってくるようになってすぐに、「変な電話かかってくるんじゃないの~?おかしな人と付き合ってるんじゃな~い?」と、その子達から言われたからだ。
その頃はなんでそんな電話がかかってくるのか本当に不思議で、友達に相談していて、着信拒否のやり方などを教えてもらっていたが、どうしてかキリがなかった。
その子はそんな電話がかかってきてることを知らないはずなのに、いきなりニヤニヤしながら私に言ってきたのだ。その時は同じクラスの友人が「へー、知ってるんだ。なんで?誰に聞いたの?」と返してくれて黙っていた。
原因はその子だろうと判ったが、解決は出来なくて本当に困った。親に相談するのも躊躇っていたから。携帯の契約や変更に親が同伴ではないと出来ないから、親に変更したい理由を説明しないといけない。なんて言えばいいかと困ったし、心配かけたくなかった。
そんな時の告白現場だった。
高木君が好きなのは、その子(無視女)が知らない子⇒その子(無視女)が無視する私はその子(無視女)が知ってる子(少なくともクラスメートは知らない子ではない)⇒だから私は高木君の好きな子ではない。
方程式が出来上がってしまった。
私はその日、昼食後の授業を受けた記憶はないが(なんなら昼ご飯を食べた記憶もない)、早退はしていないので、多分呆然と受け、トボトボ帰り、志麻ちゃんに連絡をした。
失恋した日は金曜日だった。私は志麻ちゃんの家に行き、胸に飛びついて泣かせてもらった。
(ただしその日、志麻ちゃんには彼氏ができて、ニコニコしながら慰めてもらった。志麻ちゃんの片思いも知っていたのでタイミングは最悪だが泣きながら祝福した)志麻ちゃんのおばちゃんの胸でも泣き(小さくてごめんなさいね、と言われた)、おじちゃんからは飲むか?と言われた。(丁寧に断り、炙ったスルメをかじった)涙が混じったスルメを噛み、志麻ちゃんの家にその日は泊った。
泣いたらすっきりして、しょうがないと思うようになった。好きだったけど、本人から直接振られた訳ではないから仲が悪くなったわけでもないし、今まで通りでいいや、と。
ただ、そうは思っても顔を見ると気まずい訳で、私は極力会わないようにした。ちょうど受験で忙しかったし、不自然ではなかった。
別に高木君に嫌われた訳でもなく、私も嫌いになった訳でもなく。ただ、このまま好きなのが辛くて、諦めないとなあ、と思っていた。
それから高木君とは挨拶位しかしなくなったから、進学先もよく知らなかった。進学するのはお互い知ってたけど、三つくらいある志望校は聞いたり言ったりしていたが、振られてからは自分自身の受験で一杯一杯だったし、まだ気持ちを引きずってたからあえて知らない方が良かった。
それに携帯にいたずら電話があったり、一部の人(無視女達)から依然無視されたりで気持ちに余裕がなかった。
志麻ちゃんや他の友人はすごく気を使ってくれて、志麻ちゃんは高校が別だから余計心配をかけた。高校で仲の良い友人が無視から守ってくれたし、いたずら電話はすぐに番号変えたらなくなったけど、結局、親にもいたずら電話では心配かけたし、(失恋は気づかれなかった。いたずら電話で落ち込んでると思われた)気持ちのモヤモヤは卒業してもしばらく続いた。
(高木君か)
私はベッドに横になりぼんやり考えた。何回か一緒に駅まで歩いて帰ったことを思い出した。
(秋、だったな。イチョウの葉が綺麗だった。あの告白のちょっと前だったな)
意外と覚えてるものだな。と感心したが、別に、連絡なくてもあっても、どうでもいいや。と、無理やり考えを終わらせた。何かあればまた志麻ちゃんが連絡くれるだろうと。そして、そのまま昼寝をした。