番外編 高木君の先輩
最近、職場の後輩の高木に彼女が出来た。
可愛い彼女らしく、高木は幸せそうだ。
「初恋の相手なんです」と、惚気ていた。
付き合えるようになった時はずいぶん浮かれていたが、ある日、この世の終わりのような顔をして、「誕生日を忘れていた」、「振られるんじゃないか」と落ち込んでいた。
忙しいやつだ。
周りも、「あ、終わったかな」と心配し、色々アドバイスをしていたが、敗戦は濃厚だと思っていた。
だが、休み明けに来た高木はニコニコ浮かれていて、彼女は誕生日の日、会社の人の結婚式に出席をしていて高木に言ってなかった事。高木が忘れていたことも、本当に気にしてなく高木の誕生日は一緒に祝おうと言ってくれたと浮かれていた。
「プレゼントは一緒に飲むコーヒーがいいと言われたんです、今度一緒に飲むコーヒー豆を探しに行きます」と高木は嬉しそうに話していた。
そんな優しい彼女いるか?妄想の彼女じゃないのか?
みんな目配せして、高木の相手はちゃんと実在する人物かコソコソ話していた。
許しを乞う時は、ブランドバックか、前から欲しかった~とか言う高いやつを買わないといけないんじゃないか?と聞いたら、「俺と一緒に飲むコーヒー豆がいいって言ってくれたんです。ま、ちょっと高い豆がいいと言われましたけど」と締まりのない顔で言っていた。
リア充滅びろと、別の隊員が言っていたが、まあ、しょうがないだろう。
俺もこんな時があったのかな?と、嫁さんから「子供に頼まれたから買ってきて」と言われたお使いリストを携帯で読みながら苦笑いした。
そんなことを思っていると、仕事終わりに高木が電話をしていた。
「武蔵?ん?かおるこさんの所?わかった。いいよ。じゃ」
と言って電話を切っていた。
「お。彼女か」
と聞くと、
「はい。美容室で待ち合わせになって。今から行くんです。あ、先輩と同じ方向ですね」
と、仕事場を出て、高木と近くまで一緒に歩いた。
ま、幸せそうでなによりだ。
「あ、俺ここなんで。失礼します。お疲れさまでした」と、言うと高木が大通りから路地の方に曲がった。
高木が向かう先にちょうど人が待っていた。
「あ、かおるこさん」と高木の声が聞こえたので、
かわいい名前だな。高木の彼女か?そういえば電話でも言ってたな。と思い振り向くと、
高木と同じくらいタッパがある、俺と同じ年頃の男がいた。
「いや~ん。高木く~ん。ひさしぶり~☆かおるこ会いたかった~~☆」と言って高木に抱き着いていた。
「!!!!!!」
高木はゆっくり体を離すと、「お久しぶりです。かおるこさん、武蔵は?」と高木が聞いていたが、そこから先は聞こえなかった。
高木の相手は可愛い女の子じゃなかったのか?
あれ。運ばれたのは小柄な子って聞いたが、彼女は違う子なのか。
そうか、相手は年上の男なのか・・・。ま、恋愛は自由だ。
ある意味今どきだな。なるほどな。そりゃ、高木が色々悩むはずだ。
相手も高木みたいないい奴で、年下の男なら優しくなるだろ。そうかそうか。
俺は色々思いながら家へと帰った。
帰る途中でお使いを頼まれていたことを思い出し、コンビニに寄った。
娘が気に入ってるアイドルのクリアファイルがコンビニのお菓子を買うと貰えるらしい。
頼まれたお菓子を買い、可愛い娘の為に、アイドルのクリアファイルを店員が差し出してくれた中から選ぶ。
昔は「パパ大好き!あーちゃんはパパと結婚するの!」と言ってたのになあ。
ふっと昔を思い出し、買い物袋を受け取った。
買い物を済ませコンビニを出ようとすると、高木と小柄な可愛い子がコンビニに入って来た。
「あ、先輩」
「おう」
「あ、彼女の武蔵です」
「あれ?」
あれ?彼女はかおるこさんじゃないのか?
「高木の彼女の名前は武蔵っていうのか」
「初めまして、珍しいですかね。武蔵はると言います」
と小柄な子が挨拶をした。ああ、可愛い子だな。
「ああどうも、高木と同じ隊の千堂です。宜しく」と言うとほわっと笑った。
ああ、可愛いな。成程。
高木を見ると溶けそうになってる。
「さっき電話でかおるこさんって言ってたから、てっきりお前の彼女の名前はかおるこさんかと思ったぞ」と言うと、高木は急いでブンブン首をふり、
「違いますよ。かおるこさんは、武蔵の美容室のオーナーですよ。武蔵のこと、可愛がっているみたいで、俺にも優しくしてくれてます」と言った。
「ふふふ。かおるこさん、高木君の事気に入ってて良かった」ふわっと笑った武蔵ちゃんは、チューリップみたいだった。
「そうか、ま、仲良くな」と言って俺は二人に手を挙げると店を出た。
ふう。危なかった。もう少しで、俺は高木とかおるこさんを応援する所だった。
高木の彼女は武蔵ちゃんか。優しくて、可愛いなら、そりゃ高木は溶けるな。
ま、相手が誰であれ。若人が幸せなのはいい事だ。
俺はそう思い、子供に頼まれていた、コンビニ限定のスナックと、アイドルのクリアファイルを大切に抱え家路を急ぐ。




