番外編 武蔵ちゃんの誕生日5
「高木君?」
チワワになった高木君は俯いている。困った。
ゆっくりと高木君の手を握り、もう片方の手で頭を撫でた。
私が撫でると高木君は一瞬ビクッとしたけど、何も言わなかった。
こうしていると本当大型犬みたいだな。
今はチワワだけど。
潤んだ目でプルプル震えている犬を想像してしまう。巨大なチワワがいたらこんな感じかな。
うん、可愛いな。
「大丈夫?」
ゆっくり聞くと、上目使いで、
「武蔵。本当ごめん。俺なんでも買うから許して。俺、武蔵と別れたくない」と言われた。
あれ、私なんか悪い女みたい。高木君がダメ男になってる。
私、貢がれる女になるの?なんか悪女ってやつかな。すごいな。
「高木君、気にしなくていいよ。私も別れたくないよ?なんでも買うなんて言っちゃダメだよ?私、買って欲しい物は今はないかな。高木君が気になるなら、今度欲しい物が出た時にお願いしてもいい?普段買わないちょっと高いコーヒー豆とかコーヒーミルとかもいいけど、食べ物はダメかな?バックとか、物じゃないとダメ?」
「いや、豆買う。ミル買う。高い豆買おう。沢山買おう」
「うん、一緒に飲もうね。豆も一緒に選びに行こう。でも、沢山はいいかな。豆、その都度買った方が美味しいと思うし。色々見に行こうね。でね、高木君に買ってもらった豆で高木君の誕生日も一緒に祝おう?ケーキも食べよ?高木君、何ケーキが好き?」
私はゆっくりゆっくり高木君をなでた。
「私、自分の誕生日、丁度会社の人の結婚式に行っててね。前から決まってたしそれでもう、気にしてなくて。高木君にあわてて言う事でもないのかなって。私は結婚式行くし。ごめんね。ゴールデンウイークとかとかぶったりするから、私の誕生日結構行事でつぶれることが多いんだよね。だから気にしてなくて。なんか、高木君に気にさせてごめんね」
高木君はゆっくり顔上げると、「結婚式行ってたの?」と聞いた。
「うん。誕生日日曜日だったし。ゴールデンウイークって結構、結婚式多いんだよ。私が行ったのは会社の人。同じ課の人だったから課のみんなで行ったよ。で、私の誕生日だからかブーケ貰った。高木君に花貰ったことと、式場の名前言わなかったかな?ゴールデンウイークに結婚式行くって言わなかったかな?」
「あ・・・・。なんか言われた。ごめん。俺最近浮かれてて。ゴールデンウイーク前に言われてたの忘れてた」
私は高木君によしよしと、頭をなでる。コレ、癖になるな。私の髪質と全然違う。高木君の髪は私より硬いんだな。
「いい結婚式だったよ。新郎新婦40歳同士だったんだけどね。落ち着いてて、アットホームだった。大人の結婚式だった。すごく素敵だったよ。貰ったブーケはドライフラワーにしてるよ。枯れてしまう前に綺麗に取っておきたくて。かおるこさんに作り方聞いたんだ。まだ作りかけになるのかな。あそこに下げてるのだよ」
私が壁の方を指さすと、高木君はちらっと見た。でもそのまま私に、気持ちよさそうになでられてる。良かった。落ち着いたのかな。
「武蔵。血液型教えて。後、好きな食べ物とか嫌な事とか、色々知りたい」
「私AB型だよ。好きな食べ物は豆腐とみかんとコーヒー。チョコレートも好き。嫌いな食べ物は納豆。あとね、匂いの強いチーズも苦手。嫌なことは大事な人が傷つくこと。高木君も教えてね。私も高木君の事知りたいよ?ね?」
高木君はゆっくり顔を上げた。
「俺、A型。好きな食べ物はなんでも食べるけど、肉と魚が好き。あと米。甘い物もなんでも食う。嫌いな食べ物は無いけど、苦手なものは辛い物。ピリ辛は平気。嫌なことは武蔵に嫌われること」
「うん。わかった。一杯話そうね。私達、まだ沢山話が必要だと思う。私も沢山聞くね。高木君がどこに住んでるか、私知らないの。なんだか知らないことばかりだね」
ふふふ、と私が笑いながら話すと、高木君は少しジャーマンシェパードに戻ってたけど、またへにょんとチワワに戻りそうになっていた。
目線は上げたけど、頭は下げたままだ。なでられるの好きなのかな。
それから私達はゆっくり話をして、私はずっと高木君を撫でた。
「ね、高木君。こっち向いて」
「うん?」
私は高木君の頬に手を置くと、ちゅっと高木君にキスをした。
「来年の誕生日は一緒に過ごせたらいいね」
と言うと、高木君は真っ赤な顔でコクコクと頷き、ジャーマンシェパードに戻っていて、
顔を上げた高木君は「武蔵。もっかいいい?」と言って、私の方に向き直ると私の頬に手を置き、
私が頷く前に可愛いジャーマンシェパードに戻った高木君は、私にゆっくりキスをした。




