4 バスの座席の暖かさ
あと1話で完結です。本当に読んで下さってる方、有難うございます。
美術館は小高い丘の上にあり、歩いて20分は結構な運動となった。
「おい、大丈夫か?疲れた?」
私の歩くスピードが落ちたのが分かって高木君が声をかけてくれる。
「マラソン大会は結構得意だったから、体力あると思ってたんだけどな。坂はきついね」と言うと、
「荷物持とうか?」と高木君が言ってくれたが、
「ううん、重くないし、大丈夫」と言ってバックを持ち直した。
よし、と歩きだした所で躓いた。
「え」
と思う間に手が出た、あ。こける。
私がそう思った時には、ぐいん、と手が引かれ高木君が引っ張り上げてくれた。
「うわ。あぶねー。大丈夫か?」
「うん。びっくりした。ごめん」
私はこけそうになったドキドキと、恥ずかしさと、高木君の大きな手が温かくて心臓が飛び出るってこういうことかな、と考えていた。
「ゆっくりいこうぜ」高木君はすっと手を離した。
(あ。うん)
私は手に残った高木君の体温を思いながら「もう、こけない。大丈夫。有難う」と言った。
「おー。もうすぐだぞ。入口見えてきた」
高木君に言われ前を見ると美術間の入り口が見え、横にバス停があった。帰りは駅までのバスがあったので、バスの時間をチェックして美術館に入った。
特別展は海外の絵本展だった。
可愛い絵本の原画が飾られ、とても見やすくて楽しかった。
作者の生い立ちが壁一面に説明され、作者の顔写真もあった。
(この絵本を書いた人ってこんな人だったんだ)
自分が読んだ本の作者を何も知らなかった。作者の若い頃の苦労や、離婚、晩年の絵の評価等を読んでいった。
(年代で、絵が全然違う)
気持ちの変化なのか、絵の技量なのかまでは私は分からない。
でも、絵本は確かに同じ人が書いてるのは分かるのだけど、イメージが全然違った。
(絵って面白いな)
普段、本屋さんに並んでいる絵本を美術館で見るのはとても興味深く、高木君と美術館をゆっくり回った。
「私、この絵本好きだな。動物のお茶会の絵本。なつかしいなあ」
「あー、俺もなんか見たことある」
「高木君も?可愛いよね」
二人でゆっくり美術館を巡り、バスの時間まで売店を覗き、私は絵本のキャラクターのペンを見つけ買った。
バスの中では暖かくて眠くなってきた。
「武蔵、疲れてる?」
私がウトウトしてるのが分かったのか高木君が聞いてきた。
「ううん。疲れてるんじゃないの。バスの振動と、座席が温かいのが気持ちよくて。ごめんね、寝ないよ」と言うと、
「おー。もうすぐ駅だから」
「うん。大丈夫」
バスはすぐに駅に着き、冷たい風の中に私たちは降りた。
「うわ、やっぱり外は寒いね。眠気が一気に無くなった」
「あー。バスん中暖かかったからな。駅ん中行こうぜ」
高木君と駅に入り、電車の時刻を見て帰りの電車を待つ。
(帰りの時って、なんか寂しいな)
電車を待ち、乗り込み、あっという間に帰り着いた。
「コーヒー美味かった。また今度、どっか行こぜ。また連絡する」
「うん。ありがと。またね」
私たちは駅で別れ、私はアパートに帰った。
楽しかった。楽しかったけど、苦しい。
高木君優しい。ああ、胸が苦しい。
次の約束出来なかった。今度っていつだろ。どっかってどこだろ。
かおるこさんにも、山下さんにも、頑張るって言ったけど、きついなあ。
今まで友達で出来てたんだから、今まで通りで大丈夫って思ってた。
でも
今まで通りも難しいな。思い通りにいかないな。
(高木君に会いたいな)
高木君と別れたばかりで、家に帰り着いた私はそんなことを思った。
私は恋愛に向かないって思ってた。人と付き合うのは向いてないんだと。
そんなことないんだな。
高木君の事ばかり考える。
高校生の時よりももっと。
私はどっぷり恋愛の泉の中にはまってしまっている。
この作品を見つけて読んでくれてありがとうございます。m(__)m☆☆☆彡
あと1話で完結です。もう少々お付き合い下さい。
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