3 我儘な思いとコーヒーの香り
土曜日、高木君との待ち合わせ15分前に駅に着いた。
(早く着いちゃった。でも、前も高木君待たせてたし)
時計台の所を見ると、高木君がもういた。
私を見つけると高木君は手を挙げた。
私は久しぶりにあう高木君にドキドキした。
(高木君だ)
「ごめんね、待った?」と、言って時計台の下に行くと、
「いや、俺が早かっただけだから」
「いつも待たせてごめんね。でも、電車が早いのに乗れそうだね。高木君、行こうか」
「ああ。武蔵久しぶり」と改めて言われて、高木君の声にいちいち反応してしまう。
「うん、久しぶり。元気だった?」
改札口をぬけ、ホームに向かって歩いて行った。
「ああ。元気。武蔵は?」
「うん、元気だよ。変わりないよ」
「そっか。良かった」
なんだか、恥ずかしい。何話そうと考えてしまう。
今まで普通に話せたのに。
「今日の店はコーヒーの豆挽いてくれんの?」と聞かれ
「うん。マスターがコーヒー好きみたいで、色々な豆があるよ。やっぱり入れ方が上手なんだろうね。
豆を買って、自分で入れてもお店程美味しくないんだ」と話した。
電車が来て二人で座席に座る。
高木君はさりげなく先に座らせてくれるし、適度な距離も取ってくれる。
優しいのに、胸が苦しい。
好きなんだなと思う度に、断った事を思い出す。
いや、過去はどうしようもない、ダメ元って決めたんだから頑張らないと。
高木君とおしゃべりをしていたり、二人で電車から見える風景を見ているとカフェの駅にはあっと言う間に着いた。
カフェまでの道を歩く時も、高木君は私のペースに合わせてくれてゆっくり歩いてくれた。
(足の長さ、全然違うな)
私は自分がダックスフンドに似ていると言われたことを思い出し、ジャーマンシェパードとダックスフンドが歩いてる姿を想像して釣り合わないなとちょっと落ち込んだ。
(ポメラニアンだって、足長くはないよね)
「ここだよ。」と言ってカフェに着き、予約の名前をいい、席に案内して貰った。
高木君と席に座り、二人でメニューを見てランチセットを頼んだ。
食後にコーヒーを持ってきてくれるように言うと、高木君と目が合った。
にこっと笑われて、胸がドキッとした。
「ん?なんか他頼む?」
「ううん、大丈夫」
(落ち着くのよ。今まで通り。友達だって言われたじゃない。断ったのは私よ。
自然にするのよ。自然よ。あれ?自然ってどうするの?)
カフェの中はランチタイムのせいか混んでいた。
周りは女性同士も多かったが、カップルや年配のご夫婦等もいた。
高木君と取り留めのない話をしていると、ランチセットが運ばれてきた。
「美味そう」と言って高木君は食べだした。
料理は高木君には足りない位だろうけど、高木君は「美味い」しか言わなかった。
(高木君。いつも優しいな)
ランチセットを食べ終え、ウェイトレスの方がお皿を下げながら「コーヒーお持ちしてもよろしいですか?」と聞かれた。
「はい、お願いします」と言うと、しばらくして豆を挽く音と香りがした。
カフェは大きな店ではないのでマスターが豆を挽いてるのが見える。
「豆の匂いいいな」高木君もマスターの方をみて言った。
「うん。この香り、いいよね。コーヒー飲むときの香りももちろん好きなんだけど、コーヒーは豆挽いた時の香りが好きだな」と言うと、
「そっか。俺もコーヒー飲むとき比べてみよ」と言った。
コーヒーが運ばれ一緒に飲み、美味しいね。と言って話をする。
(この後、どうしよう。高木君がいつも考えてくれてたけど)
コーヒーを飲み終わると、店を出なくちゃいけない。どうしようかな、と考えていると、
「武蔵?どうかした?」と聞かれた。
「いや、何もないよ」
「あのさ、もし、武蔵が俺に会うのが気まずいなら言ってくれ。嫌がることはしたくないし。ただ、俺は武蔵とはいい友達でいたいと思ってるから。」と言われ、心臓がどきんと跳ねた。
(うん)
「嫌じゃないよ」
「本当?無理させたくないからさ」
(私が断った)
「うん。嫌じゃない。この後、どうしようかと思ってただけだから」
(高木君とこれ以上を望むのは我儘なのかな)
自分で思ってた。高木君との関係が楽で好きだって、元に戻っただけ。
(でも。やっぱり)
「あー。どうする?まだ寒いしな。駅戻って、店またのぞくか?この辺何かあるのかな?」
高木君は携帯を取り出し周辺を調べ出す。
(ねえ。なんで。優しいの?自分勝手だけど、胸が苦しい)
「お。美術館で特別展やってるって。武蔵こんなの好き?」
画面を見せて聞いてくれる。
「うん。行こう」
(ねえ、高木君。私のこの想いは我儘なのかな。
好きになるのってこんなに苦しいんだね)
「おー。じゃあ、行こうぜ。歩くと20分位あるみたいだけど。大丈夫か?」
「うん、大丈夫」
私は高木君の方をみてにっこり笑った。
私が決めたことじゃないか。
苦しくても、ダメもとでも、しょうがないのよ。気持ちは止められないんだから。
優しいコーヒーの匂いに囲まれた私たちは美術館に行く為にカフェを出た。




