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爆弾に吹っ飛ばされた私の着地の仕方  作者: サトウアラレ
2章

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31/55

番外編 志麻ちゃんの考察

番外編が後1話続きます。

(本当、手間がかかる)



私は高木にかけた電話を切ると眉間をぐりぐりもんだ。


むっちゃんは、真面目だ。クソ真面目だ。バカ正直で。優しい。他人に対して傷つくのに、自分のことはないがしろにする。


そして、そんなむっちゃんだから私はずっと友達でいたいんだと思う。


中学の時、むっちゃんに私は救われた、いや、この子には敵わないと思った。


むっちゃんとは中学から出会ったが、むっちゃんの小学校からの知り合いにどんな子かと聞くと、小学校の時は目立つ男子にからかわれてたらしい。


多分、バカな男子の「好きな子からかいたい病」だ。ただ、その男子は顔のいいジャイ〇ンタイプだった。


身体も大きく、力も強く、クラスでも影響力のある男子がむっちゃんをからかう。

すると、クラスのみんなはむっちゃんをからかっていいと思う。同調圧力だ。


小学生にはそんな言葉は知らない。でも、子供は敏感で、残酷だ。

それは決していじめではなかったと、周りは言うだろう。でも、むっちゃんの心は傷ついたはずだ。


むっちゃんがどんな気持ちで小学校をすごしたかは知らない。でも、中学でむっちゃんに初めて会った時に思ったのは、妖精みたいな子だな。と思った。

優しくて、可愛くて、私とはタイプが違いすぎて仲良くなれないだろうとも思った。


むっちゃんは中学では男子にからかわれたりはなかった。その頃は、「好きな子モジモジ病」の男子が増えるからだ。

ただ、むっちゃんは誰にでも優しかったけど、常にむっちゃんと、クラスメートの間にはガラスが一枚あるような感じがした。でも、本当に優しいし、いい子だった。


そんなむっちゃんが一度だけ怒った。

つまんないことで男子が私に突っかかり、その手を払ったらその手が別の女の子の鞄に当たり、その鞄が窓ガラスに当たり窓ガラスが割れ、かばんは二階の窓から落ち、女の子は泣いた。


一人が、私が悪いと言った。

女の子を囲み慰める女子。

気まずいながらも冷めた目でみる男子。

何事かと集まる人。

私もイライラして睨み返していた。


空気は悪かった。一人が言った。


「お前のせいじゃん」


するとその空気が、伝染していった。


「謝りなさいよ」


女の子の背を撫でている子が言った。


「は?」


わたしは言ったが誰も聞かない。

先生も来て言った。


「早瀬、お前がやったのか?何してんだ」


もう私はどうでもよかった。


するとむっちゃんが、「早瀬さんは悪くありません。なんで、みんな決めつけるの?誰のせいでもありません」と話した。


すると、気まずいのか男子や女子がむっちゃんに怒り出した。


「早瀬のせいだろ、あいつが手え払ったのみたろ」

「早瀬さんのせいで鞄が落ちたじゃない。ケガするところだったでしょ」

とわあわあ言い出した。


「武蔵さん、関係ないじゃん」

とまで言われ出した。


あー、めんどくさいな。と私が思っていると。


「先生は見たんですか?」とむっちゃんは、先生に聞いた。


「?いや?」


「じゃあなんで、入って来たとき、早瀬さんがやったのか?なんて聞くんですか?」


「いや、みんな話してただろ」


「じゃあ、なんで、私や早瀬さんの話は聞かないんですか?早瀬さんは手が当たったんです、でもそれは山田君が手を出したから。そこにたまたま鞄があった。早瀬さんのせいじゃありません。なんで犯人がいないといけないんですか?誰も悪くないのに。悪いのはこの空気です。こんなの私、大っ嫌い。」と今まで見たことない顔でむっちゃんは怒った。


「犯人が欲しいなら、黙って見てた私が悪くてもいいです。私が犯人でもいいです。鞄が落ちて悲しいけど、誰も怪我はなかった。なんで鞄を拾いに行ってあげないの?この空気よりも、鞄が無事かどうか確かめればいいのに。心配する所はそこでしょう?山田君と早瀬さんがなんでそうなったかは知らないけど、二人の事でしょ。私達がどっちが悪いとか決めることじゃない」


一気にむっちゃんはそういうと、先生に、「どうするんですか?」と聞いた。


先生は「あー。とりあえず誰も怪我ないな。下も植木で何もないし。鞄とってこい。で、一応、早瀬、山田、残れ」と言った。


私と山田は隣のクラスの空き教室に行くように言われた。


山田は怒っていた。「お前、余計な事いうなよ」とぽそっとむっちゃんに言った。


「余計?余計な事は言ってない。先に話を大きくしたのは山田君。みんなを巻き込んだのは山田君。私は意見を言っただけ。言いたい事あるならちゃんと言って。山田君の話を聞く。私も残る?大丈夫だよ」


と、言って、むっちゃんはそのまま残った。周りのみんなは見ていたが、気まずいのか帰っていった。私達3人も空き教室に移動しようとした。


大人になった今だったら、こういう風に言ってくれる人もいるかもしれない。それに、意見をしっかり言う人もいるだろう。でも、私はこの間まで小学生だった中学生が、こんな風に意見を言うのを聞くのも見るのも初めてだった。


しかもむっちゃんは普段は大人しくて、可愛いだけで優しい子だと思っていた。


特別私とも仲良くないし、守ってくれるとも思わなかった。


なんとなく、「有難う」とむっちゃんに言うと、先生がいなくなって、3人になった教室で山田が「なんだよ!」と言って、いきなりむっちゃんを押した。


本人はそんなつもりはなかったんだろう。ただイライラしただけ。でも山田は忘れていただろうが、窓は壊れて割れていた。


いきなり押されたむっちゃんは、小柄なせいかドンっと跳ねるように床で足が滑った。

そしてどこかつかもうと手を伸ばした先は窓枠で、でも窓枠は掴めず、むっちゃんが掴んだのは割れた窓ガラスだった。


「あ」と言ったのは、私の声か、山田の声か。


先生がドアを開けた時、むっちゃんの手は血だらけになっていた。


山田は正直にむっちゃんを押した事を先生に言い、青い顔していた。


先生は事態がわかったのか急いで保健室にむっちゃんを連れていった。


むっちゃんは、私と山田に「大丈夫」と言って病院に運ばれた。


次の日むっちゃんは学校を休み、週明けに学校に来たむっちゃんはいつも通りだった。右手は包帯にまかれて二回り位大きくなっていたが。

手は縫ったと聞いたが、詳しくは分からなかった。


山田はむっちゃんの家に、親と謝りに行ったらしい。親からは窓からむっちゃんが落ちたかもしれないと、散々叱られたらしい。でもむっちゃんは「いいよ」と言って、「私もこけちゃったから。わざわざ来てくれて有難う」と笑顔で言われたと、泣き腫らした顔の山田に言われた。


山田は私にも謝った。

クラスメートからも、鞄の子からも、あの時ごめんなさい、と謝られた。でも、むっちゃんは普通だった。


窓ガラスの事も、むっちゃんの手も、事故で処理された。

犯人はいない。誰も悪くない。

むっちゃんが言ったのを担任が学校に伝えたようだった。

私も、山田も親も呼ばれて怒られたが、注意だけだった。


痛い思いをしたのはむっちゃんだけだった。

山田も気にするだろうが、むっちゃんは山田をすぐに許してた。

許された山田はいずれ忘れていくだろう。私に謝ったクラスメートもみんな忘れていくだろう。


「だって誰も悪くないから」


中学生のむっちゃんはそう言った。私はむっちゃんに「ああ、この子には敵わない」と思った。


今でも、むっちゃんの右手の親指と人差し指の間にはギザギザの傷がある。きっとずっと残る。むっちゃんは私には何も言わないし、私もむっちゃんに言わない。


でも、むっちゃんが右手でノートが取れなくて、ノートを私が貸したりするようになってから、今でも友達だ。

むっちゃんは人の悪意に敏感だ。自分の事は我慢するのに、むっちゃんが怒ったのを見たのはその時だけ。


高校で嫌がらせ受けても我慢した。

大学でバカな男に騙されても我慢していた。

社会人になってストーカーが現れた時もギリギリまで教えてくれなかった。

そして、爆弾持って走って吹っ飛ばされたなんて、本当バカだ。


本当、普段はおっとりしていて、のんびりで、可愛いだけなのに。


そして、せっかくの恋人候補はヘタレでアホだ。ただ、お似合いだとも思う。

高木は真面目で、悪いやつじゃない。むっちゃんを大事にするだろう。


ただ、私がヘタレアホに手を貸すのは一回だけだ。






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