3 意外な相手からの連絡
入院して二週間も経つと顔見知りも出来た。
お掃除に来てくれるお姉さん(母親より上だがおばさん呼びはマナーとして出来ない)、
担当の看護師さん(キリっとした人とその日その日で違う人)、
おじいちゃん先生(地井先生という名前で一発で覚えた)、
リハビリの技師さん(眼鏡が鼻の所で別れる不思議な形をしている)、
検査の人(伊集院さんと、御領園さん、名前がカッコいいし素敵なおじ様達だった)、
採血が痛い看護師さん、(毎回謝られる。私は練習に使われてるのか、いや、そうは思いたくはないが、担当看護師さん見守りの上毎回され。)等だ。
右手。右足が元気なので、不便だがどうにか自分で着替えも出来る。
ただ、日常生活で両手を使う事が多い事を痛感した。
携帯でメールを送るのも、左手で携帯持って右手で操作してたな、とか。顔洗う時とか。トイレの時、パンツも両手で下すとか。着替えの時、ブラのホックを着ける時も両手だった。指は使えるから不便だけど出来ないわけじゃないけど、ギブスが邪魔で左手はうまく動かない。
なので、着替えやトイレは思った以上に大変だが、介助は嫌だし自分でしている。(ちなみにブラは面倒なので、カップ入りのタンクトップを常備している。そして、面倒でもパンツはしっかり穿いている)
今日は退院日はいつになるのか先生に聞いてみた。
先生からは、頭の後遺症はすぐに出る場合と時間が経って出る場合があるから通院は続けてもらう事、腕はリハビリに通えばすぐに退院してもいいけど、足の骨折がちょっと良くなかったからなあ、あと一週間かな、と言われた。
会社の休みは一ヵ月取ってたから早く退院して、通院に切り替わるのはホッとした。
「ただし、今の予定で、決定ではないからね。退院予定は確実になるのは二日前か三日前と思ってね。頭のことがあるから、吐き気や耳鳴り、気分が悪くなったりしたらすぐに看護師呼ぶように」と、念押しされた。
私は「はい」と言いつつも、退院の話が出たことが嬉しかった。
早くアパート(パンドラの箱)に帰って部屋の整理をしたい。
両親には冷蔵庫の整理と、生ごみの始末だけ頼み、パンドラの箱を開けることは死守できたはずだ。
私は少し落ち着いてきたので、保険会社に連絡したり、会社に連絡したりして一日をすごしていた。
友人の志麻ちゃんに体は落ち着いたことや、もうすぐ退院出来そうな事を連絡すると、今日お見舞いに来てくれると連絡が来た。志麻ちゃんは先週も来てくれたので、
「嬉しいけど無理しないで、どうせすぐにあえるよ」と送ると、「いいから、行く」と返事が来た。
志麻ちゃんが来たのは昼食を食べてのんびりしていた時だった。
「うぃー。むっちゃん元気?」
下の売店にあるゼリーとパック紅茶を差し出しながら、志麻ちゃんがやってきた。
「入院してるけど、元気。ありがとうね。一緒に食べよ。志麻ちゃんは?元気?」
袋を受け取り中身を私が出すと、椅子を私のベットの横に持ってきながら志麻ちゃんが頷いた。
「うん、食べよ。あ、ゼリー、手、大丈夫?食べれる?ゼリー好きな方取って。私はどっちでもいいから。ジュースは私がミルクティーね。むっちゃん、レモンティーでしょ?あー。やっと仕事が落ち着いた。私も元気よー」
一気に志麻ちゃんはしゃべると、ベットのテーブルにゼリーと紅茶を並べて二人で食べだした。
「おー、仕事落ち着いて、よかったねー。あ、一口たべる?」
「いや、いらん。私の一口欲しいならやるけど。うん、マジ疲れたわー。残業多すぎ。てか、退院決まりそうでよかったねー。あ、これ司から、癒し系の音楽リストとのど飴」
「私もいらん。うん、決まりそうでよかったー。なんか事件も解決?したっぽいし、よかったわー。怪我人私だけらしいし。被害もあまりないみたいだし。でも、工事の人には申し訳なかったなー。悪かったなー。残業多いの大丈夫?おー、さすが司君、優しいねー。志麻ちゃん愛されてるねー。司君とは会えてるの?で、志麻ちゃん、退院したら部屋に遊びに来て」
志麻ちゃんは長い脚を組むとジロリと私を見て、行儀悪くスプーンで私を指さした。
「はー?司とは会えてるよ。むっちゃんの事も心配してた。ていうか、半同棲だから大丈夫。残業が多い時は司がご飯の用意してくれてる。下手だけど、褒めたらご飯作るの好きになったみたい。食べれるし、有難いし、あとは片付け教えるだけ。で、遊びじゃないでしょ。一ヵ月帰ってない部屋の掃除の手伝いを頼みたいんじゃないのー?腕も、足も満足に動かないのに実家には帰らないんでしょ?おばさん言ってたよ」
「うえー。夏場に放置された一か月の部屋だよ。一人で帰り、中に入るの、お化け屋敷より恐ろしいよね。母親に、生ごみの処理は頼んでるけど、やっぱり恐ろしくて。だからと言って、親と一緒に帰り、色々見られるのは恥ずかしいし。きっと色々怒られる。生ごみの処理頼んだだけでも、普段何食べてるの?とか、彼氏はいないの?とか、あんた、ちゃんとお風呂入ってるの?とか、洗濯の頻度とか聞かれるんだよ。ほらそこはね、志麻ちゃんなら私の事なんでも知ってるし」
「怒られるのは理由があるのよ。おばさんと、おばあちゃんにちゃんと怒られなさい」
私は志麻ちゃんの手を繋いでお願いした。
「お願いします。実家には一日だけ。退院日に帰って次の日にはアパートに帰る予定だから。志麻ちゃん来て下さい」
私の手をゆっくりほどきながら、志麻ちゃんはゼリーをもぐもぐ食べた。
「ま、想定内だし、いいよ。「私、掃除、一人で頑張る!」なんて言われたら、「あ、むっちゃん、やっぱり頭打ったな」って思うし。でも、おばさんにはちゃんと話しときなさいよ。仕事も落ち着いたから休み取って泊りがけで行くから。二泊三日位でいいでしょ」
「!!~~~!!志麻ちゃ~ん!!有難う!!ちなみに、料理も出来ないから近所のスーパーでお弁当買って、一緒に食べようね!!私のシャンプーもしっかりお願いしたい。頭ごしごし洗って下さい!」
私が右手を挙げて喜ぶと、志麻ちゃんはにっこり笑って、
「ハイハイ、分かったから楽しみにしといて。早く治しなよ」
と言ってくれた。持つべきものは優しい友人である。彼女は女神かな。
「で、今日来たのは、会って話したかったからなんだけど。むっちゃん、高木と最近あったの?」
と、言われ私は話の突然の車線変更に思考が追い付かず目をぱちくりし、スプーンを加えた。
「こら、行儀悪いって。スプーン咥えない。いや、突然高木から、連絡来てさ、むっちゃんのケガの具合とか聞かれたんだけど。ニュースにはむっちゃんの名前出てないからさ、テレビとかで知ったんじゃなさそうでさ。入院してる病院も知ってたから、最近連絡とってるかと思って、ちょっとびっくりしたんだよね。で、入院してる病院知ってるのに、私にケガの具合聞くから変だと思ってさ、大丈夫よー位の返事したんだけど、どうなってるの?」
と、聞かれ、私の方も、
「どうなってるんでしょう?」
と、返事した。
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