12 私は着地後立ち上がる
これで2章完結です。
番外編が3話続きます。
は~~~~。
私はお風呂の中で、ゆっくり深呼吸すると、ぶくぶくと、沈んだ。
(ああ。断っちゃった。あーあ)
そう思ったが、でも、付き合って、一緒にいるのを苦痛に思ったり、思われたり、お金貸してって言われて、踏み倒されたり。知らない所で悪口言われたりしたくなかった。
(高木君は、踏み倒し男とは違うとわかってるんだけどな。そんなことしないことも分かってるんだけどな。でも、浮かんだ時点でダメだよね。それに、本当に大事に思ってくれてた。いい加減な気持ちで付き合っちゃ失礼だよ)
でも。
(私バカだな~。でも、私には高木君はもったいないなー)
ゆっくりお湯から顔を出し、のぼせる前にお風呂から上がった。
志麻ちゃんには、今日のこと連絡した。黙って話を聞いてくれたけど、呆れてたかも。
自分でも不器用だなあ、と思う。
(踏み倒し男の時はこんなに悩まず、付き合ったのにな。だからダメだったのかな)
高木君とのメッセージのやり取りや、ご飯、楽しかったな。
大丈夫。元に戻るだけ。
だって、高校卒業してから、連絡取ってなかったし。
(思い出はやっぱり思い出のままが良かったのかな)
今まで通りに戻るだけ。ちゃんと蓋をする。
うん、大丈夫。
私は冷蔵庫から麦茶を出して、ごくごく飲んだ。
(音楽、かけようかな。ロックとかいいかも)と思って携帯を触ると、高木君から、連絡が来た。
びっくりして、携帯を落としそうになったけど、電話にでた。
「もしもし?」
「あ、武蔵、今日はごめん。あのさ、今ちょっといいか?」
「あ、うん、なんか私もごめん」
私は急いで床に正座した。心臓がドキドキする。もう、連絡は来ないと思っていた。
「いや、あのさ、今日言った気持ちは嘘じゃないし、本当なんだけど、でも、付き合わなくていい。だけど、今まで通り、友達でいてくれないか。メッセージも送りたいし。飯も行きたい」
「え」
「いや、俺、武蔵と今まで通りでいたい。この関係が壊れるのは嫌だ。頼む。だから、今後も連絡しあえる友達でいよう。武蔵が困る事はしない。ただ、武蔵が困った時は連絡欲しいし、助けたい」
「あ」
「付き合ってとか言わないから。武蔵と俺は友達だ」
携帯を持ってる手が震える。
「うん」
「武蔵」
「うん」
「今まで通り、連絡していいか?飯も食いにさそっていいか?」
高木君の声が優しい。
「うん」
「よかった。今日はごめん。でも、武蔵の事は大事だから。あー、電話とってくれてありがとう。これからもよろしくな。今日の中華、美味かった。また行こうな」
ホッとした高木君の声に、私は鼻がツンっとなる。
「あの、高木君」
「ん?」
「ありがとう」
声が震えそうになった。
「いや、いいから。またメッセージ送る。今度は豆挽くコーヒー飲み行こうぜ」と言われ、うん、と言って電話を切った。
私は正座した足を崩し、ずるずると床に寝転んだ。
よかった。よかった。よかった。
(何がよかった?)
心臓がドキドキする。
寝転んで顔を手で覆った。涙が出た。
(なんで泣くの?)
もう高木君から連絡ないと、思ってたのに。
元に戻るだけで大丈夫と思ってたのに。
(ああ)
振られた時も泣いたけど、あの時とはちょっと違う。
高木君は優しい。私は、この優しさに甘えていいのかな。
私は携帯を握りしめて高木君に有難うともう一度思った。
暫く床に寝転んで、ずるずるとベッドに移動し、志麻ちゃんにメッセージを送った。
高木くんから連絡が来て、友達に戻ったこと。連絡取りあう事。また、ご飯に行くこと等送った。
最後に、もう連絡はないと思ってたから、連絡来てびっくりしたけど、でも、嬉しかったことを送った。
志麻ちゃんからは餌の前にお座りしている犬のスタンプが来た。
なんだろ。でも、志麻ちゃんにも有難う、とメッセージを送った。
志麻ちゃんからは亀が転がって甲羅が下になって、ジタバタしているスタンプが来た。
よく分からないけど。今の私なのかな?
私はロシアンブルーの猫のスタンプを送った。
送りながら、イチョウの並木を高木君と歩いたことを思い出したけど、それは高校生の私達じゃなかった。
不器用な私かもしれないけど、優しい人に囲まれて幸せだ。
私はもう一度、ありがとう、と志麻ちゃんにメッセージを送ると携帯を閉じた。
私の歩みはゆっくりかもしれない。でも、もう止まるのは止めよう。
私を待ってくれたり、手を差し伸べてくれる人がいる。
今まで何度も着地に失敗した。でも寝転がってばかりいるのは止めだ。過去の事はもういい。
宙だって飛んだんだ。いい加減吹っ切らないと。
未来はきっと明るい。
そうだ、大丈夫。きっといいことがある。美味しいコーヒーだってきっと待ってる。
「よし。寝ますか」と言って私は布団をかぶった。
お風呂から上がった時、高木君への好きだと言う気持ちは高校時代の未練だと思っていた。
好きだった。と。
でも。
今、違う事にやっと気づいた。
(私は高木君が好きなんだ)




