2 高木君の闘い
武蔵と別れた後、俺は大学時代の知り合いのマサトに連絡した。
「おー、高木どーした?早瀬の番号無くした?」と、マサトは電話をかけるとすぐに喋りだした。
「おうマサト、元気?早瀬の番号じゃなくて、それとは別なんだけどさ。マサトの家、美容室だったよな?」
「んー。そうだけど。髪切りたいのか?うちは、親父とばあちゃんがやってる古い店だぞ。美容室とかいうお洒落な店じゃねえぞ」
「いや、ちょっと聞きたいんだけど、美容師とかの男ってマニキュアするのか?」
俺は駅のベンチに座り、マサトに尋ねた。
「んー。うちみたいな店で親父はしねえ。でも、ねーちゃんが勤めてる美容室の男の人は普通にしてたな」
「!!!」
駅に歩いていく人を眺めながら、携帯を持つ手を変えた。手汗が出る。
「ねーちゃんの美容室はネイルもするからなー。この間、ねーちゃんに荷物届けたら男でネイルしてるやつもいたぞ。高木したいの?ねーちゃんの店教えようか?」
「いや、いい」
「まあ、でも、女の子も男で手が綺麗なやつ好きってのが多いみたいで、ねーちゃんも店来た男に爪もすすめてるっていってたな。なんか、磨く?そういうのするのが多いみたいで、俺もそれはしてもらったことある。ねーちゃんの店で、練習台にされたな。マッサージとかしてもらって、気持ちよかったぞ。高木もするか?」
「へー・・・。男も多いんだ・・・」
「まあ、人によるんじゃないか?うちは母ちゃんエステで、家が髪切ってるだろ?で、ねーちゃん達もみんなそんな仕事だからな。ま、高木は爪いじる仕事じゃないしな。営業とかやってる奴は爪いじるのも結構いるみたいだぜ。俺がねーちゃんの荷物持って行った時に爪してたのも、サラリーマンだったしな。身だしなみなのか?男の脱毛も増えたって母ちゃん言ってたしな。結構、手とか、足とか、もじゃもじゃなの嫌がる女の子多いんだってよ。あと、男でも、ツルツル好きが増えたって母ちゃん言ってたな。俺は毛薄いからさ、練習台になんなかったけど、いいやついないか、母ちゃん探してたわ。高木、毛薄かった?脱毛する?よー、今度飯食いいこーぜ」
「脱毛はいいや。ああ。飯いいな」
俺は自分の空いてる方の右手を見ながら答えた。
「そっかあ。じゃあ、今度また連絡するから、高木の都合のいい日のメッセージ送っといて。他、誰かさそう?」
「ああ、送る。いや、二人がいいかな」
「おー、わかった。じゃーまたな。高木、なんか元気ない?大丈夫か?」
「いや、大丈夫。元気元気。マサトも風邪ひくなよ。またな」
「おー」
と、マサトは言って電話は切れた。
俺は電話を切ると頭を抱えた。
マジか。男にマニキュア贈るのはアリなのか。
武蔵がマニキュアって言った時は、一瞬訳わかんなくなったけど、男も普通にマニキュアするんだな。
武蔵はお洒落な年上な美容師が好きなのか。
俺の仕事の奴は、むさ苦しいやつが多いもんな。男が多いし、朝夜関係ないから身だしなみ気にしない奴も多いし、話題も筋肉とか、サウナとか、女の話か食いもんの話とかそんなんばかりだもんな。誰も爪の話なんてしねえもんな。脱毛なんて聞いたことねえよ。
はあ~~っと。俺は溜息をつく。
マジかあ。
俺は自分の手を見る。俺も武蔵にマニキュアしたいって言った方がいいのかな。俺にも買ってくれたり、選んでくれたりするのかな。
(高木君に似合う色はどれかな?これなんてどう?)なんて言って、手とか爪とか触るのかな。
(高木君、塗ってあげようか?)なんて言って、手とかマッサージして、マニキュア塗ってくれんのかな。
(私にも塗って?)とか言って、武蔵のちっちゃな爪に俺が塗ってあげたりすんのかな。悪くないな。
いや、何考えてんだ。武蔵の相手に合わせてどうする。ていうか、武蔵は年上の美容師の爪を見る仲なら、手とか触ってんのか。
はあ、わかんねぇ。
中華食べて奥に座らせて、隣に誰も座れないように俺が手前に座って、狭い店っていいな、とか思ってたから罰が当たったのかな。
メニューを覗く時に近くに寄れてラッキー!武蔵、いい匂いするな、とか思ったから罰が当たったのかな。
「高木君は何する?」って見られた時が上目づかいで可愛いな。今日の洋服、コート脱いだら体のラインがはっきりしているな、とか思ったから罰が当たったのかな。
あんかけ焼きそばを食べる姿が可愛いな、なんかこんな動物いるな、って見たのが罰当たったのかな。
ああ。俺、罰、当たりすぎじゃね?
はあ~~。まじかあ。
やっぱり爪綺麗にしないとだめなのかなあ。脱毛した方がいいのかな。武蔵は爪が綺麗でツルツルの肌が好きなのかな。
やっぱりマサトのねーちゃんの店、紹介して貰おうかな。
と、俺が頭を抱えて駅のベンチに座っていると、さっき別れたばかりの武蔵から初めて電話が来た。




