9 来々軒とマニキュア
高木君と中華を食べに行く日になった。
この間と同じように、また駅前に11時に待ち合わせになった。
この前は5分前に言ったら高木君はもう来てたので、10分前に行って待つようにしようとアパートを出た。
イチョウはすっかり葉を落としていて、季節が冬になったんだなあ、と思いながら歩いた。
駅に着き、時計台の方を見ると、手を挙げた高木君がいた。
「よー」
「高木君早いね。ごめんね、待った?」
私が駆け寄ると高木君はニコリと笑った。
「俺、待つ方が好きだから」
気遣いさんなのかな。偉いな。
「腹減ってる?駅裏で近いなら、遠回りしてから行く?」
「結構、人気で狭い店だから早い方が待たなくていいかも。高木君が大丈夫ならすぐ行こうか」
「おー、じゃあ行くか」と、高木君が言って私たちは駅裏の来々軒へとむかった。
来々軒へ向かう途中に、お互いの近況報告をしたりしてのんびり話したが、来々軒はすぐなので、10分もしないうちに着いた。お昼には少し早い時間だが、店内にはお客さんが何組かいた。相変わらずの人気ぶりだったが、混んではなかった。店の中を覗きながら、
「高木君、ここだよ。お洒落なお店じゃなくてごめんね。でも、味は美味しいから」
「俺、こういう店の方が落ち着く。あんまりカチッとした所は行かないから。普段はこういう店ばっか」
よかった、優しい。かおるこさんからも、えー来々軒?と言われたりしたから、やっぱりお洒落じゃないとダメなのかなと、思ってしまった。
「本当?よかった」と、言って笑うと、高木君は咳をして、「んんっ。入ろうか」と行って、ドアを開けてくれた。
来々軒でもスマートだ。さすがモテ男子。
「らっしゃーい」と、おじさんの声に言われ。「二人?」と聞かれた。
「はい」と高木君が言うと、「カウンターでいい?奥の方座って」とおじさん(マスター?大将?)に言われた。
高木君がこちらをちらっと見たので「いいよー」と私が言うと、「武蔵、奥すわる?」と、高木君が聞いてきた。
「どっちでもいいけど、高木君奥がいい?」
「俺は手前かな」
私が奥に座って二人で立てかけてあるメニューを見るが狭いし、一つしかないので寄せ合ってみるしかない。私が「先に決める?」と聞くと、
「いや、一緒に見るから大丈夫」と言われた。高木君は目もいいのかな。
私は担々麺にしようかなあと思ったが、かおるこさんから、ハネ注意よ!と言われたので、あんかけ焼きそばの方がハネないかな、と思ってあんかけ焼きそばにした。寒い時はあんかけがいい。
高木君はエビチリと黒酢豚、チャーハンを頼んだ。
身体が大きいから沢山食べるんだな。と私が関心していると、「エビチリも酢豚も食べていいよ」と言われた。「有難う」と言ったが、私は食いしん坊と思われているらしい。
高木君の方がメッセージも食べ物の話が多いのに、と、思った後に、ひょっとして、私の事食いしん坊と思ってる?私が食べ物の話を喜ぶと思っていつも話題にしているのかな?と思い当たった。
「ねえ高木君」
「ん?」
メニューを立て掛けながら高木君がこっちをむいた。
「私、コーヒーとか、飲み物の方が食べ物より良くチェックしてるよ」
「ん?そっか。コーヒー好きなんだ」
「高木君、コーヒー好き?」
私はお冷を一口飲んで高木君に聞いた。
「うん。飲む。でも、飲んでもいまいち何処産とかはわかんねー。酸っぱいとか、苦いとか、そんなもん。でも、割と飲むから、好きなんだろうな。ただ、詳しくはないな。同じ豆でも飲んだ時違う感じする時あるし。缶コーヒーも普通に飲むし」
「私も詳しくはないよー。豆挽く時のね、音と、匂いが一番好きなの。志麻ちゃんとカフェ行くって言ったけど、私は豆を挽いてくれる店がいいんだ」
「じゃあ、今度はコーヒー飲みにいこうぜ」
「うん、いいけど、いつも、私の好きな所でいいの?高木君は行きたい所ないの?」
「うん、いい。コーヒーがいい」
高木君もコーヒー好きなんだな。
「有難う」と言って笑うと、「うん」と言われた。
あんかけ焼きそばと、チャーハンとエビチリと黒酢豚は美味しかった。私は食いしん坊ではないが、高木君は少しずつお皿に分けて、「ん」と言ってくれた。わたしもあんかけ焼きそばを少しあげた。
お腹一杯になって店を出て(ちゃんと私がおごった)高木くんから「ごちそーさんでした」と言われ「どういたしまして」と言ったら、高木君から「時間あるなら駅前の店、ぶらぶらする?公園は寒いし」と言われた。
そっか、冬は公園は寒いからデパートのウインドーショッピングになるのね。
「うん、いいね、何か見たいものあるの?」
「いや、別にないけど。武蔵は何かある?」
「あーメンズものちょっと見てもいい?高木君一緒だと見やすいし」と言うと、「!」と固まったが、「ああ。いいよ」と言ってくれた。
2人で歩きながら駅前のデパートに入った。やっぱりデパートの中は暖かくていい。
男性向けのコーナーに二人で行くと、高木君がいるせいか、店員さんは高木君に声を掛けていく。
私が、「プレゼントで、送るのは年上の男性です」と店の人に言うと、高木君はまたピシっと固まった。
私がうんうん悩んでいると、高木くんが、
「なあ・・・。プレゼントって彼氏?」って聞いてきたので
「ん?彼氏いないって言わなかった?彼氏じゃないよ」と、高木君に向き直り答えた。
「そ、そうだよな。じゃあ、父親にとか?」
「ん?お父さんにじゃないよ。ヘアサロンの人」
「今度誕生日なの、私の誕生日の時にプレゼントくれたからお返ししたくて。いつもお世話になってるし・・・」と言うと、「美容師・・・。年上・・・。男・・・」と高木君がつぶやいた。
考えてくれてるのかな。
あ、でも、かおるこさんなら、女性ものの方が喜ぶかな、と思い、「ごめん、高木君、やっぱり女性ものの方に行ってもいい?」と言うと、「!プレゼントは止めたの?いいよ。行こう!」と元気よく言われた。
高木君は女性ものに興味あるのかな。
「ん?やめてないよ。マニキュア贈ることにした。行こ」と言って化粧品売り場に行くが、高木君は化粧品の匂いが苦手なのか元気がなかった。
かおるこさんに可愛いマニキュアを買い、喜んでくれるかなー、と私はほくほくした。
高木君は化粧品コーナーから元気がなくなったから、やっぱり慣れない所は疲れるんだな、それなのに付き合ってくれて優しいな。と思った。




