1 意外と人間は飛ぶらしい
初作品。処女作です。
時間つぶしに読んでください。
少しずつ、指の先から冷たくなっていくのを私は感じていた。指の感覚はもうない。
(ああ、寒いなあ)
ふふ、思ってたよりも冷静だ。
少し前に読んだ記事で、「人間、極限状態になると本性が出る」と、アメリカの海軍大佐が言っていた。災害が起きたり、戦時下になると、親切な隣人が救助に来た人を襲い物資を略奪をし、殺人や暴行が起こると。極限状態程その人の本質は暴かれるていく。メンタルが強そうな人が泣きだし、パニックになったり、逆に大人しそうな人がしっかりしていたりする。
その人の本性、本質、性格よりももっと内側の、その人を作り出す核が現れるらしい。
ならば今、死にそうな状況下で冷静な私は、なかなかアッパレというものだろう。
まあ、ここは災害地でもなければ、戦時下でもなく、工事中の駅の片隅だ。
思い返せば、私の人生は短いながらも中々の人生ではなかろうか。
田舎に毛が生えたような町で生まれ、家族の仲は悪くはなかったし、家も貧乏ではなかった。上を見ればキリがないが、面白い祖母もいて(御年85、耳は遠いが元気)、共働きの両親に代わりしっかり育てて貰った。
地元の学校に行き、勉強をし、友達も何人かいて、ふざけたり、怒られたり、一部の人に無視されたり嫌なこともあったが、それなりの学生時代だった。成績も中の上あたりをうろうろし、そのまま上の学校に進学をし、そこも無事卒業をした。
その後、就職する為に必要な資格を取ったり、免許を取ったりし、無事就職した。就職先は中堅所の歴史ある会社で総務に配属された。最初は事務仕事をし、半年後には人事にも関わる仕事にも抜擢された。
恋愛については片思いをし、失恋もした。その後、すぐに別れはしたが恋人も出来たりした。
(うん、まあまあの人生じゃない?)
悪くなかった、と私は思った。来世があるなら、今の人生と同等であれば十分だ。
(来世はもう少し長生きしてもいいな、24年はちょっと短い。50年は生きてもいいんじゃない。織田信長も人生50年って言ってたし)
それにしても、恐怖というのは極限の時は感じないのかな。
幼い頃に夜中に目が覚め、ふと、死について考えた時などは、天井のシミも怖くなったし、涙が浮かんでは不安や恐怖がジワジワと足の方からせり上がってきた感じがしたのに、今の私はとても穏やかだ。
(人生に満足してるのかな。だって、私なりにやるだけやったし。で、結果がこれだから、しょうがないよね)
そうか、私は満足していたんだ。最後に自分を褒めてあげてもいいだろう。
(うん、よくやった。こんな所で死んじゃうのはちょっとカッコ悪いけど。いや、だいぶんカッコ悪い。でも、私じゃこれが精いっぱい)
まあ、恋人も今はいないし、家族は悲しむかもしれない。友達や同僚にも迷惑かけるかもしれないけど、許して欲しい。あれ、私、死んじゃうかなーとは思ったけど、いや、意外と大丈夫かも!何とかなるんじゃ。と、根拠なく思ったせいで、この状況だ。もちろん遺言など残す時間も何もない。
そう、この状況というのは、珍しく残業してからの一人自宅へむかう帰り道。最寄り駅の構内のベンチの裏にバックが落ちているのを見つけた。上司から連絡が来たので、仕事内容の確認をと、手帳を出す為ベンチに座り荷物を置いた。その時に、ベンチの裏に目が言った。
(こんなところに落とし物かな?)
バックが落ちてる。
上司からの電話を切り、落ちているバックに目を向けた。割ときれいなビジネスバックだから、躊躇なく中を確かめようと開けた。
(忘れ物は駅員さんに声かければいいか)
と、思い中を見ると、中は液体が入った瓶が2本入っていて、目覚まし時計と機械がビニール線で瓶につながっていた。
つながれた機械には5:45とデジタルで表示されていた。数字は5:44,5:43、5:42、と減っていく。目がその表示を見つめる。赤い点滅を数秒見つめるが、数字が増えることはなかった。
(あ、これ。やばいやつ)
血が引くとは本当にあるんだ。私は身体の中を血がサーっと音を立てて引いていくのが分かった。
急いでベンチから立ち上がると、爆弾(仮)の入った怪しいビジネスバックを持ち、私は駅の南口を目指した。駅の南口は新しく出来る通路で、今は工事中で誰もいないはず。
一週間ほど前に、(どれどれ、どんな様子かな?)と、新しくコンビニなんかも出来るのかと、興味本位で南口の様子を見に行ったら立ち入り禁止になっていたのを思い出した。ただ、工事の様子は見えたし、簡単に柵で塞いであるだけで入ろうと思えば入れそうだった。駅自体が終電終われば閉まるので、無断で入る心配がそんなにないのだろう。
目覚まし時計は20時丁度にセットされていて、今は19時55分。電車が着いたばかりで田舎とはいえ、駅の構内は人が多い。アナウンスが流れ、もう少しで到着する電車もある。もし何かあったら、ここだと大惨事になる。
(爆弾?本物?いたずら?)
時計はまだ五分くらい余裕があるはず。大丈夫。とりあえず誰もいないところに置いて、急いで警察に連絡して、駅員さん呼んで、そこからはまあ・・・、誰かにどうにかして貰おう・・・。偉い人とか、なんかそんな人に。
色々頭の中で考えながら、立ち入り禁止の南口に着き、工事中の歩道トンネルを通り抜けた。田舎だからか、工事は夜はしない。工事車両も一か所に集められて人は誰もいない。工事車両が通る為か土が盛り上がったり、ならされたりしていた。土の上を走っているとコンクリートで出来た土管?コの字の形のブロックが積まれていた。
私は急いでバックを土管の中に置くとそのままUターンして走って逃げた。こういう時、陸上部だったらよかったのかな。いや、単純に私が運動不足のせいで足がもつれそうだ。
その時、ドガーン!!!すごい音と光が背後からした。
私は逃げるのに間に合わず、走っている途中で爆発がして吹っ飛ばされて体が叩きつけられた。自分の体が宙に浮かぶのを初めて経験した。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
そして冒頭に至る。で、今の私。きっと瀕死。
(あれ?間に合わなかった。やらかしたな。あ、まって、これ、私が犯人にされない?大丈夫よね。もし、犯人にされたら家族にすごい迷惑かけない?私テロリスト?写真とかテレビ、ネットに流される?)
うわー、しまった、声上げながら駅員さんにそれとなくアピールしながらこっちに来ればよかったかな。
あちゃー。なんか色々考えているうちに後悔してきそう。せっかく、「ふっ、わが人生、悔いなし」と、いう感じで逝けそうだったのに。
(ああ!それに両親に日記を見られたくない。恥ずかしすぎて、それで死ぬ。中学の時の詩集、画集も処分しとくんだった。実家から持ってきて安心してた。それによれよれの下着は捨てとくんだった。
あ、志麻ちゃんに貰った勝負下着も見られたくない。未使用なのもある意味恥ずかしい。なんなら使用済みの方がいいくらいだ。
ちょっと、私の部屋、パンドラの箱じゃない?開けたらまずいよ。そして携帯よ。ちょっと今から携帯もつぶせないかな。あ、壊れていることにしよう。うん。
えー、部屋の片付け誰がするんだろ。業者を頼んでくれないかな。いや、きっと両親がするんだな。いやーちょっと死にたくなくなってきたわ。
あ、借金はないけど、元カレに貸したお金はしっかり取り立てておけばよかった。あいつに死んでラッキー!なんて思われたくない)
ううう・・・。私は死の淵にいるのに、そんなことしか考えてなかった。先程の、「極限状態で人間の本性が出る」という説では、私はお気楽な人間なのだろう。いや、器が小さいのか。
別に自分の人生に不満等なかった。ただ、今、色んな後悔が目白押しになり出すと、ああ、素敵な恋をしたかったと思った。(きっと未使用の勝負下着を思い出したせいだ)
人並みに恋をしたことはあるし、恋人もいた。ただ、恋人と一緒にいた後に一人になると、(ああ、疲れた)と思い、(あれ?なんで疲れた?)と、疑問に思ったりもした。
恋人のことは好きで、一緒にいたかったのに、一緒にいた方が寂しさや虚しさ、相手に合わせるのに疲れて、相手の話を聞くのも私の話を聞いてもらうのも、遠慮するようになった。次第に好きという気持ちがめんどくささに代わって、相手にもそれが伝わって振られた。
「俺の事好きじゃないんだろう?」
「俺とバイト、どっちが大事なんだよ」
馬鹿正直に答えちゃいけないくらいは分かって、「そんなことないよ(分かってるなら聞かないで。聞かれると引く)」「ごめんね、今ちょっと忙しくて、シフトが変更できないの(あなたの為の時間はない。自分の時間も大切なの)」なんてごまかして。で、なんかゴリゴリ心が削られていく。あー、しんど。って。
誰のせいでもなく、自分のせいなのが分かっているから溜息だけつく。
可愛く甘えれる性格でもなかったのが悪かったのか、相手をたてれなかったのが悪かったのか、恋人とはあっという間に終わった。それこそ一ヵ月も一緒にいなかったはずだ。
私は恋にむいてなかったのかな。好きって気持ちはあるけど、元カレといる位なら一人の方が楽だ。燃えるような恋とか、人生かけた愛、だなんて、すごいなあ。という感想しかない。
ただそれでも恋人がいたらいいな、と思ったのは、誰か友達以外に電話出来る相手がいるのは自分が安心したいからだった。
(なんで今更こんなこと考えるんだろう、あれ、私、死ぬの結構余裕?)
ふっ、と声が出て久しぶりに笑った。
(へへへ)
周りが少しずつ騒がしくなった。サイレンが聞こえる。爆発音から警察や消防車も来たのだろう。
私の周りで声が聞こえたところで私は意識を失った。
どれくらいたったか、突然身体が揺すられた。
「おい!」
大きな声が耳元でして、その大声に煩わしさと、うっとうしさを感じた。
(なに?)
「~~!!〇××!!!~~!!!!!」
バタバタと人が動いている。カチャカチャという音、人が走り周る音、何かにぶつかって倒れる音。
(静かにしてくれないかな)
(もう、疲れた。そろそろ死んじゃってよくない?)
身体や顔、手、色んな所を叩かれている。ばしばし、パチパチ、痛さよりも音の方が聞こえる。その音が意外と大きくてびっくりする。
痛覚よりも聴覚はまだ機能しているようだ。ふーん、痛さって感じなくなるんだな。それにしても、私の耳って優秀だな。
それでもやめてよ、と思っていた。叩かれていい感じはしない。
なんで、この人は一生懸命に叩いているんだろう。
「武蔵!目を開けろ!」
また怒鳴り声がする、ああ、聞いたことある声だな。誰だっけ、と、一瞬考えたが、やっぱりめんどくさくなって、考えるのをやめた。
(私、おいって呼ばれるの嫌いなんだよね)
「っ!お前なんでここにいるんだよ、ほら、目、開けろ!」
(私、お前って呼ばれるのも嫌いなんだよね)
私を呼ぶ声が必死なのが分かったけど、私は最後に「ごめんね」と言って笑った。
(誰かわからないけど。でも、なんか前もこんなこと言った気がする。ごめんねも、嫌いの話も)
声が出たかはわからないけど、口は動いたはずだ。
「!!」
息を呑む音が聞こえたのが私が感じた最後の音だった。
この作品を見つけて読んでくれてありがとうございます。m(__)m☆☆☆彡
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