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ドラゴンボール

作者: Peach

3/4、高校の卒業式、後輩がつくる花道をよそにしてボクは家へと向かった。頭の中は3年間の高校生活よりも4月からの生活がどうなるかという不安でいっぱいだった。大学入学試験の合格発表もまだ出ていない。高校生でもない、大学生でもない肩書きのない不思議な1ヶ月を過ごすと思うと僕は自由に感じた。式典が終わって、胸についたコサージュの隣に卒業記念品でもらった万年筆を差し込んだ。学校が用意していたのは時代に逆行した古典的なプレゼントだなって思った。

帰り道の電車は空いていた。平日の昼間の電車ってお年寄りが大半でサラリーマンも学生も乗っていない。すし詰め状態と無縁の車内はなんだか逆に落ち着かない。


家に帰って制服を脱ぎ捨てた。肩書きのない自分になれた。何物でもない自分。なんとなく決めた高校に所属しているだけで高校生という役割が与えられる。明という名前だってあまり好きではない。名前は親が時間をかけて考えてくれた最高のプレゼントって言うけれど、気に要らないプレゼントだってあるじゃん?島山明って名前と背の低さのせいでクリリンて呼ばれていた。明はボクに似合わない名前だ。ボクは自分のことが根暗だって思っているし、日なたよりも日かげが好きだ。卒業式で式辞を読むような人に明って名前はふさわしい。今年の総代は佐藤由美だった。佐藤は小学校からの腐れ縁だ。ボクは佐藤と呼ぶけれど、みんな彼女をユーミンと言う。佐藤は日なたをずっと歩いてきた人生のように見える。よっぽど彼女のほうが明じゃないか。彼女は小さいころから成績優秀で明朗快活、品行方正な優等生。「天は二物を与えず」どころじゃ済まない人っているんだな。小さいころに彼女に抱いた印象は今も変わらない。中学の頃、クラスで回ったかわいい人ランキングでは3位だった。美人ランキング1位はサルみたいな顔をしていてかわいいとは思わなかったけれど、自己主張が強くてスクールカーストってのが最上位の女だった。佐藤のほうがまだかわいい。そんな彼女は高校では吹奏楽部のキャプテンで華のある人。彼女は花道で呼び止められても笑顔で吹奏楽の後輩と写真撮影もするだろうし、先生に対しても感謝の言葉を忘れず、思い出話をひとしきりしてから帰るんだろうな、なんてことを家に帰ってからも一人考えていた。一度でいいからユーミンって言えたら良かった。もう2度と会えないんだろうな。手を伸ばしても届かない存在なんだから、せめて彼女の目の届くところにはいたい。そう思って彼女の志望高校に入った。せっかく一緒に入学した高校でも周りの目を気にして話しかけることさえできなかった。気づいたら、3年間あっという間に過ぎ去り、もうタイムオーバーだよな。本当に欲しいドラゴンボールは自分で掴まないとダメだった。


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