おむすびころりん(もうひとつの昔話 37)
お爺さんは山で柴刈りをしていたのですが、お昼になったので切り株に腰をおろし、おむすびの入った包みを広げました。
ころころ、ころりん。
おむすびが包みから落ちて転がります。
お爺さんはおむすびのあとを追いかけました。
おむすびはころころと転がって、近くにあった穴の中に落ちて消えました。
すると穴の中から、なにやら楽しげな歌声が聞こえてきます。
おむすびころりん、すっとんとん。
おむすびころりん、すっとんとん。
――こいつはいったい……。
不思議に思って穴の中をのぞき見ますと、そこにはネズミがたくさんいました。
ネズミたちは、お爺さんが落としたおむすびと小判の山のまわりで歌っているのでした。
――あの小判をなんとか手に入れたいもんだ。
お爺さんは小判を取ろうとしましたが、穴が小さすぎて手が入りませんでした。
家に帰ったお爺さん。
「いいものを見つけたんだが……」
山で見たネズミの穴のことを隣のお爺さんに話して聞かせました。
「それでな、二人で力を合わせ、穴を掘って小判をみんないただこうじゃないか」
「ああ、行こう、行こう」
隣のお爺さんも話に乗ってきました。
お爺さんと隣のお爺さんは、さっそくおむすびをこしらえ、クワを肩にかついでネズミの穴に向かいました。
お爺さんは犬のポチを連れています。
隣のお爺さんは猫のタマを連れています。
山までやってきたお爺さんたちでしたが、なかなかネズミの穴を見つけられません。
「ワン、ワン」
ポチが地面に向かってほえました。
お爺さん二人がクワで掘りますと、そこに小さな穴があらわれました。
「これだ、これだ」
お爺さんがおむすびを転がし、ネズミの穴の中に落とします。
ですが、ネズミの歌は聞こえません。それどころか穴の中から大勢のネズミたちが出てきておそいかかってきました。
「ニャー、ニャー」
タマがネズミたちをけちらします。
猫がこわいのか、ネズミたちは穴の奥へと逃げこんでいきました。
お爺さんたちは穴を掘りました。
先ほど入れたおむすびがあらわれます。
けれど小判は出ません。
それからいくら掘っても、一枚の小判も出てきませんでした。
「ネズミらめ、穴の奥に隠しやがったんだ。しょうがない、ひと休みするか」
「ああ、おにぎりを食ってから、また掘ればいい」
二人は切り株に腰をおろし、ネズミの穴から取り戻したおにぎりを食べました。
ころり、ころり。
お爺さんが倒れ、隣のお爺さんが倒れました。
ネズミが毒を仕込んだおにぎりを食べ、お爺さん二人はころりとあの世に行ったのでした。
穴の奥からはいつまでも、ネズミたちの楽しげな歌が聞こえていました。
爺さんころり、すっとんとん。
爺さんころり、すっとんとん。