や、やられたー!
店主がドンっと商品を机に置いた。
手のひらサイズの普通の石と、黒色のスニーカーだ。
「説明すると、この石が例のゴーレムだ。
一見ただの石だが、 10メートル以内に、人や動く物体が入ったら警戒。剣や魔法、弓や投擲が放たれたら自動的にゴーレムが巨大化して主人を守るように出来ている。警戒する合図は光と振動だからな?」
なんか、凄い。よくこんなの作れるなぁ。
あと、ここって防具屋だったよね?欲しいとお願いしたけど、なんであるの?なんで売ってるの?
「そしてこれが空を飛べるスニーカーだ。
って言ってもコツがいるし、慣れないうちは空中散歩を三歩くらいだ。散歩を三歩...ククク」
自分で言ったことに笑ってるよ、この人。ちょーっと引いたよね、物理的に。
「そういえば、この靴、黒以外にも赤や黄色があるんだが、どうする?」
靴かぁ。うん。まぁ、自分の髪色も黒だし、変えなくていいよね。
「黒のままで大丈夫です。」
「そっか。じゃあ代金を...と言いたいところだが、見たところ嬢ちゃん、金持ってなさそうだなぁ。」
ぐっ!痛いところをつかれた。
本当にどうしよう。
今から誰かにお金を借りてこようかな?
でも今はレイド戦の準備で、みんな貸してくれないだろうなぁ。
ていうか、貸してくれるアテもないし。
いっそここで雇ってくれるように頼もうか。
返済するまでタダ働き。泣ける。
と、ここで働くための計画を立てていたら.......
「俺もね、お嬢ちゃんに金は要求したくない。
だから、君をここに連れてきた人の名前。教えてくれない?」
え?どういうことだろう。
ここに連れてきた人と言ったら.....ミユくん。だよね?
それを店主に伝えればいいの?
それってなんか、嫌だなぁ。
でも、それ以外にお金を返す方法がない。
だったら、仕方ないのかな?
ミユくんって言うだけで、素敵な装備が貰えるんだよ。
だったら言っても...
そう考えて、気づいた。
これって、ミユくんを売るってことなんじゃないか。と。
これだけで大ごとになる可能性もないことは無い。
ミユくんがもし、誰かに追われていたのなら、こ
こで私が無闇にバラすのはダメだ。
ミユくんに限って、悪いことをするようには見えないけど、何か事情があって逃げている場合もあるのだ。
冷静になった思考で、拒否の言葉を口にした。
「無理です。」
「なんで?」
「彼に迷惑がかかる可能性もあるからです。」
そうだ。しかもこの店主、どうにも胡散臭い。
人を見た目で判断するって訳じゃないけど、外見っていうのは一番最初の判断材料だ。見るからに怪しい人に、わざわざ教えてやることもない。
と、そこまで思って気づいた。
ミユくんがこの店紹介したんだから、少なくともこの人は、怪しい人じゃないんじゃないか。と。
そう思ってしまったら、だんだんこの人が怪しい人なんかじゃなくて、いい人に思えてきた。
我ながら思い込みが激しい割に、チョロいな。よくこれでこの年まで生きて来れたな。周りの人に感謝だ。
どんどん違う方向へと話を脱線させていたとき、店主が突然言いだした。
「ふーん、そっか。ミユくんなんだ、紹介人。」
と、言った。
へ?
なんでバレたの?どうして。心の声が聞こえてた?な訳ないでしょ。
まさか、思ってたことが口にでてたとか?
えぇ!それだったらだいぶ本人の前では言っちゃいけないこと言ってるよ?
そんな事を考えていると....
「あれ?その慌てよう、本当にミユが紹介人なんだ。なんか本当、面白いよね。」
え?
まさか...これっていわゆる、カマをかけられたってことなんだよね?
や、やられたー!こんな分かりやすいカマ、簡単に回避できると漫画を見ているときは思ってたけど、私の現実は意外にも無情だったようだ...。