ミユくん
眩しいような、眩しくないような、変な白い空間を一瞬だけ通った。
目を開けてみるとそこには
人がいた。
というか、人しか見えない。
右も左も人。景色はほとんど見えない。
かろうじて見えたのは噴水だった。
なるほど。ここはセーブポイントなのか。
まぁ、フィールドに出されても困るけど。
前、そういうゲームがあったから、警戒してたんだよね。
ぼーっとしていたら突然マイクの大音量が響いた。
「やあ。この度はこのVRの世界に来てくれてありがとう。そして、厳選な抽選によって選ばれたプレイヤー達は、このゲームを楽しんでくれ。」
そういえばこのゲームの運営さん達、ゲームの名前を全然言わないなぁ。
全然言わないからこのゲームの名前忘れちゃったな....ワールドワッフルだっけ、なんだっけな。
まぁ、名前はもういいか。とりあえず今はこのゲームを楽しむために大人しく説明を聞いておこう。
「さて。ここに集まっているという事は、アイテムが欲しいんだろう。
でもただでアイテムをあげるわけないだろう?」
司会者が挑発的な笑みを浮かべる。
ん?ここに集まってるって、最初からここに...あ、もしかしたらここでアイテムが貰えるっていう情報があったのかもしれない。掲示板を確認しとけば良かったなぁ。前日に基本知識だけ詰め込んだけど、こんなこと聞いてなかったなぁ。
だからここ、こんなに人口密度が高かったんだね。
「このゲームにはチュートリアルがない。なぜなら教える必要がないからだ。
人生にも教えてもらえるのは幼少期までだろう?
しかもキャラメイクの時に全て教えてもらっただろう。
でも今日だけはチュートリアルをあげよう。
そして、クリアしたら特別報酬が貰えるようにした。期限は今日までだ。
じゃあ、がんばれ。状況が分からない者は他の人にでも聞け。もしくは掲示板などを見るといいだろう。」
それだけ言って、その司会者は舞台を降りた。
その直後、ピロンと音がした。
見てみると「チュートリアル」の文字があった。
どうやらこれがクエストらしい。
今の内容を聞いて、喚く者もいれば、チュートリアルをこなそうとしている者もいた。
私はどうしよう。
とりあえずこのチュートリアルはやろうかな。
もう少しチュートリアルの内容を見てみた。
どうやら二つの達成条件があるらしい。
一つはゴブリンクロードの討伐
もう一つは「命の雫のかけら」の発見。
ザワザワしているところを盗み聞きすると、ゴブリンクロードは初級のボスらしい。
レイドバトル式なので、数があれば初級でも倒しやすいらしい。
一方、「命の雫のかけら」は、「命の雫」を完成させるためには必要なもので、中盤では意外とそこら辺にあるらしい。
ただ序盤は手に入る確率が低いらしい。
二つともサービス開始の初日にクリアできる内容じゃないらしい。
どこかの大きなグループで話が纏まったらしく、全員でレイドバトルに挑むらしい。
ゴブリンクロードのレイドバトルは人数制限がなく、サービス開始時の人数が全員参加したらおそらく倒せるだろう。
しかし、全員が戦闘職ではなく、今日参加してるのは、生産職も多くいる。
あの職業の多さで言ったら、不思議ではないだろう。
「おぉーい!戦闘職のみんな!午後3時にまたここに集合しよう!それまでみんな、各々でレベルを上げておいてくれ。」
一人のリーダー格の人が大きな声でそう言った。
え?でも、戦闘職だけだったら、生産職は?
そう思っていると、さっきのリーダー格の人がまた大きな声をあげた。
「あと、生産職も来てくれていいぞ。
精々囮に使うけど、勝てればみんか報酬が貰えるんだ。いいだろ?」
何言ってんだろ。この人。
あのグループ以外の人達は多くがこう思っただろう。
生産職の存在はこういうゲームでとても大事だ。
生産職の作る武器は普通の武器より性能がいいのが多いし、食べ物だって生産職が作った方がずっといい。
そんな生産職との間に亀裂を入れるなんて.....
ちょっとゲームをやればすぐ気付くだろうに。
まぁ、あの人達についてくのは、自殺行為だ。
あの人達は生産職を蔑ろにしすぎている。
いずれ往復がくるだろう。
まぁ、レイド戦は諦めるしかないだろう。
あのグループ以外にも誰か名乗りを上げてくれたら、行きたいんだけど...
「あの!僕と一緒にレイド戦をやりませんか?」
そう思っていたら、声をかけられた。
見たところ、私と年は同じか下くらいだろう。
見た目はヒューマンっぽい。
顔立ちは整っていて、サラサラとした金髪に、吸い込まれるようは深い碧。
まさに金髪碧眼の王子様だ。
満遍の笑みで、ニコニコとしているこの子は、人付き合いがうまそうだな。なんて、話しかけられた事も忘れてぼんやりと考えていると...........。
「あの、聞いてますか?」
不審気味にそう言われてしまった。
「は、はい!聞いてます!レイド戦...ですよね?」
「はい。それで僕、友達と仲間を集めていまして、是非!一緒にレイド戦をしたいなっと思いまして!」
「どうですか?」とにっこりと笑みを浮かべて、上目遣いで頼まれる。
この子、体の小ささを最大限に利用してる。ていうか、腹黒そう...こういう人は、腹黒って相場が決まってるんだからね。
でも、レイド戦かぁ。私、もうちょっとレベル上げないと役に立たないと思うんだけどなぁ......
そんな事を考えていたら男の子が、
「あの、ダメですか?」
と、上目遣いで瞳をウルウルさせてきたのだ。美少年の上目遣いなんて、ズルいじゃないか。
これで断れる人がいたら教えてほしい。
美少年が瞳をウルウルさせながら「お願い」と言ってくるのだ。抗えない。
「ふふっ、可愛いな...って、そうじゃなくて、こちらこそ、弱いですがお願いします。」
一瞬、口説き文句みたいなことを私にしては珍しい、蕩けるような甘い顔で言ってしまった。
この子...凄いな。初対面でこんな風になることはないのに。まぁ私もゲームだからって力が抜けてるからだけどさ。
こうやって了承の答えを言ったのに返事がこない...そちらを見ればその子は固まっていた。でもそれはすぐに解けてまた動きだした。
「ありがと!お姉さん。僕とっても嬉しいなっ。」
「あっそうだ!ごめんねお姉さん。自己紹介がまだだったね。
僕の名前はミユ。職業はオールラウンダー。
今は剣を使ってるよ。種族はハイヒューマン。
名前は好きなように呼んでね!」
なるほど。この男の子はミユくんか...それにしてもオールラウンダーってなんだろう。
私が頭にハテナマークを浮かべてたら、ミユくんが説明してくれた。
「オールラウンダーとは、どんな武器でも使える職業だよ。どんな武器でも補正がかかるんだよ。
でね、ハイヒューマンは、簡単に言えばヒューマンの進化版的な存在。ヒューマンは能力が無い代わりに、パラメーターに補正がかかる。
でね、ハイヒューマンなのは、僕がテスターで、他の人達よりもずっと進んでいるからだよっ!」
なるほど。テスター.....だからレイド戦なんて言ってたのか。
ちなみにテスターとは、一足先にゲームを遊んで、実験的にゲームを体験してるんだよ。
体験してたときの装備が、継がれるから、ミユくん達は他のプレイヤーよりも強いだろう。
納得した。
「そっか。じゃあ私も自己紹介するね。
私の名前はルカ。職業はプリースト・プリーストです。
種族は狐族です。」
ミユくんは難しい顔をしていた。
「プリースト・プリーストかぁ....
あれって、不遇職で少し有名なんだよ?
今の時代、少し不安な職業だね。」
やっぱりこの職業、不遇職だったんだ。
落ち込んでる私を見て、ミユくんは慌ててフォローしてくれた。
「でもでも!後衛職としては、凄いし!前衛さえしっかりしとけば、問題ない職業だよ?」
やっぱりパーティーを作らなきゃダメな職業なのか........
更に落ち込んだ私を見て、ミユくんは慌てて話題をそらした。
「そ、そうだ!あそこの角を曲がったらへんに、いい防具屋があるんだよっ?
初回だけは無料なんだ...だから行ってみた方がいいよ」
防具屋と聞いて、沈んでいた気持ちが少し浮上した。
このへっぽこでも、攻撃さえ当たらなきゃ意味ないんだよ。
そうだよ!そのためのスキル編成じゃんか!
よし!そうと決まったらその防具屋に行こう!すばやさを上げれば怖いもの無しだからね!
「ミユくん!私、その防具屋さんに行きたい!
どこにあるか分かる?」
私は思い切ってミユくんに尋ねてみた。
さっきの落ち込みようが嘘だったかのように、ワクワクした雰囲気の私に、ミユくんは驚き、困ったような笑みを浮かべた。
「すぐ近くだから、案内するよ。
でも僕は中には入らない。ごめんね。」
そう困ったように笑った。
文の長さが不定期で...すみません。