その50、追われる立場は嫌だなあと思う
いつの間にか50回に……。
「えらい目にあったわ……」
格納庫にて。
私は膝と両手を床につきながら、乱れる呼吸を整えていた。
「まあ、いずれはと思ってましたが、とうとうこうなりましたか」
私の横に立ちながら、松上少年は空中に浮かぶ映像を見ている。
<ただ今、警視庁の特殊部隊により、仮面の魔法使いの逮捕が試みられ……>
映っているのは、現在放送中のテレビだ。
「すげえな、今後はより精密な捜査と布陣で臨む……とか言ってら」
田中くんはスマホでSNSやニュースサイトを見ているようだ。
「私よりも……魔女狩りのほうをどうにかすべきでしょうに……」
「それはすでに試したようですよ」
「え」
「ニュースになっていませんがね」
松上少年が杖を突くと、映像が切り替わる。
そこには、魔女狩りに発砲している警官、あるいは魔導警官の姿が。
「ご存じのように。魔女狩りに女性の魔法使いは無力です」
「だからって……」
「だから――現状唯一対抗できているあなたが重要なんですねえ」
私の指を突きつけ、松上少年は皮肉げに笑う。
「それに、正体もね。女性なら、その特性をより研究するために拘束……本来貴重なサンプルでありますが、今の魔法研究機関のレベルでは……モルモットか、下手すれば解剖」
「うわ」
「男性なら、まあ密かに抹殺ですな。お偉方が生かしておくはずがない」
「……」
「幸いというべきか、否か。あなたは特殊な女性ですけどね」
「魔法を使える男ってのは、そんなにまずいものなの?」
「まずいでしょうねえ。少なくとも彼女らはそう考えている」
「頭痛くなってくる……」
「魔法は神が優れた女性にのみ許した奇跡の技。低俗で野蛮な男に許されるものじゃない」
「それじゃまるで危ない宗教だわ……」
「実際宗教ですよ。日本は魔女教の統べる宗教国家になりつつある」
「まったく……」
私は精神的な頭痛を抑えながら、立ち上がった。
すでに汗は引いていた。呼吸も整っている。
「ひょっとして、私たちって国家の敵?」
「ははは。そうなりたくはないですがねえ」
「そこまでの覚悟は正直なかったわ……」
私は強い脱力感にへたりこみたくなった。
「ま、幸いというか、まだ完全に……というわけでもない。政府も一枚岩じゃない」
「けど、今は魔法使いの女性が総理大臣で……」
「そうですがね。正直あの人は客寄せパンダ、あるいはお神輿だ。政治家としての才覚は全くないと思いますよ……」
「パフォーマンスはうまいけどねえ」
「でも、それがどの程度通じているやら。実際男性はみんな冷めてますよ」
「あー、そういえばそんな感じか」
「そもそも、優れた魔法使いイコール優れた政治家や指導者じゃないんですけどね。優秀なる学者やスポーツ選手が良い政治家になれるかって考えればわかる。そういう人もいるけど」
「よくわからんけどさー。何とか俺らに味方してくれる政治家さんとか作れねえんか」
横から、田中くんが口を出してきた。
「まさにその通り。そういうコネがあるのがもっとも良い」
と、松上少年は楽しそうに笑った。
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