その46、始まる訓練と流れる汗(田中の)
そして少年は訓練を開始。
「そもそも黒羽さん、現在の社会状況をどう思われますか?」
「どうって……」
「あまり考えたこともないと」
「そうでもないけど」
若干失望したという感じの松上少年に、私はムッとしてしまう。
「ま、それは自分で調べるなりしておいてください。とにかく、僕や田中さんの存在はバレるわけにはいかないんですよ。少なくとも今はね。必ず何かの妨害や横やりが入って無茶苦茶にされる。さもなきゃ、コレだ」
と、松上少年は喉を掻き切る仕草。
「あなただって、ダークバードは警察からはマークされてるんですよ。捕まれば面倒なことになる」
「それは知ってる……。はあ、面倒な事態だよねえ」
私は困り、ひたすらため息。
「よくわからんけど、片っ端からその魔女狩りってバケモンをやっつけるんじゃダメか」
極めて単純なことを言う田中くん。
「そんなのハエタタキでこの世のハエを全部殺すと言ってるようなもんですよ。無理だ」
「あくまで被害をできるだけ抑えるってレベルだね。それに私たちは神様じゃないんだしさ。あんまり壮大な目標をたてるのもどうかな?」
「それもそうだ。俺は魔法の魔の字も知らないからなあ……」
「というわけで、早速に練習です」
「私は?」
「あー、黒羽さんは多分高校入学前にすませているレベルの内容なので」
「なるほど。超初心者向けか」
「だからまあ、お茶でも飲んでてください」
「おい」
そして、私をよそに魔法の訓練を始める男ども。
不器用に瞑想をする田中くんに、補助魔法をかける松上少年。
あれは小学校の時にやったなあ……。
自分の魔力をうまく把握できるようにしてるわけだ。
私はすることもないので、ボーッと見ていたが訓練はあまり芳しくない。
田中くん、どうやら瞑想が苦手なようだ。
色々やっていたが……。
松上少年は腕時計みたいなものを田中くんの腕に取り付け始めた。
「なーに、それ?」
「肉体と魔力を連動させる道具ですよ」
「ふむ?」
「これをつければ、肉体を動かせば動かすだけ魔力の把握ができるようになる、はず」
珍しく自信のなさそうな松上少年。
「はずって……」
「作るには作ったんですが、僕はマニュアル通りの訓練で十分でしたし」
「使ったことないんだ」
「ま、そうですね」
「大丈夫なんでしょうね? それ」
「爆発したり、人体に害があることはないですよ」
そうこうしている間に、田中くんは広い空間をひたすら走っている。
かなりきつい長距離走になりそうな感じ。
それにしても、田中くんもよく馬鹿正直にやるもんだ……。
将来詐欺とかにあわないといいけど。
私は待っている間、スマホでSNSなんかをチェックしたり。
やっぱり、ネットはどこも魔女狩りや『私』のことで持ち切りだ。
賛否両論あるけれど――
『私』が女性か男性かで激しく論戦したりしているようだった。なんで?
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