その299、例のあの人、その子
で。
聞くともなく、例の子に関する噂は人が運んできた。
どうやら本命は例のあの人らしいが、あれこれアプローチをかける男子がいるとか。
ちょっと遠くから見た感じだと、まあ清楚な感じの美少女ではあった。
ややきつい印象のある私とはだいぶ違うな。
お人形のようでも言うのか……。
とはいえ、関わりになることもないだろうと思っていたら、
「あの……」
「はい……?」
学食でお昼をしていると、何故かその子に話しかけられた。
「どなた?」
聞くとその子は名乗ってから、
「例のあの人と付き合っているんですか?」
というような意味のことを聞いていた。
返事に困ってしまう。
付き合うとか交際という意味では、違うと思う。
家の義理でたまにデートまがいのことをするだけだ。向こうも同じだろう。
「婚約者だって聞いたんですけど……」
「まあ、そうですわ」
嘘ではないが、なんだか面倒くさそうだった。
「あのさ、あんたこそなに?」
その時。横にいたエミリが不快そうに言った。何であんたのが怒るのだ。
「まさか、自分が例のあの人と付き合ってるって言いたいわけ?」
「それは――」
「まあ、いいですわ」
怒るエミリを抑えて、私はその子を見やった。
「婚約者というのは事実です。家が決めたことだけど。それで満足?」
「……」
その子はうつむいてしまった。
「あのねー、そういうことで問題起こしてると、例のあの人だって、婚約不履行とかで賠償になったりするかもなんだよ? わかってる」
「どーどー」
ネットで得たような浅薄なことを言うエミリの肩をつかみ、私は倦怠感をおぼえた。
やがて、その子は何も言わずに言ってしまった。
なんだったのだ……。
そして、あれやこれやに忙殺される中、私はつい三年生になる。
四月――すでに従来の四季は変わりつつあったが。
私は色んな財界人、企業人の集まるパーティーに出席していた。
そこには、例のあの人も出席している。
というか……。
「婚約発表?」
「ええ、正式にやろうと思って――」
母に言われ、私は困ってしまった。
今さらかもしれんけど、やっぱり気は進まない。
「向こうも乗り気じゃないと思うけど」
「婚約発表の場には出るって言ってたそうよ。気に入られたんじゃない?」
「まさか……」
今までの態度からは、とてもそうは思えんが……。
しかし、親同士が気に入り合ったらしく、話はどんどん進んでいく。
そして当日になってしまったのだけど。
会場に、例のあの人はなかなか現れなかった。
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