その198、スーツの返却
「どうぞ」
と、松上少年は私にお菓子をすすめてきた。
私は何も考えずにお菓子を五つ六つ食べて、咀嚼し、飲み込む。
「今お茶を入れましょう」
私が食べている間に、松上少年はお茶を入れてくれた。ぬるめのお茶だ。
お茶を飲み干してから、私はまたお菓子を食べる。
気づけば、テーブルのお菓子は全部なくなっていた。
「ありゃ……」
食べて終えてからさすがに恥ずかしくなり、私は顔をなでて誤魔化す。
「かなりの消耗だったようですからね。仕方ないです」
「……そうかな」
「ええ。話はゆみかさんから聞きましたよ。また厄介な敵が現れたようですな」
「あの子は一体……」
「さてね。ダイノヘイムの異種族なのか、それとも高レベルの魔法少女なのか……」
松上少年は首を振って、空のカップをテーブルに置く。
「一応、スーツなしでも戦えたけど、今後もアレの相手をするとなると……」
「スーツは必要でしょうねえ」
松上少年は言って、後ろでゴソゴソと何か探り始めたようだ。
「何してるの」
と、私が言うと同時に、テーブルにはヘルメットとスーツが置かれる。
あ。私の変身スーツだ。
「え。これ。直ったの?」
「まあ、元から自己修復機能がついてましたからね……。改めて勉強をさせてもらいました」
「はあ……。で」
「無理でした」
「いや、無理って」
私は脱力して、こんな状況なのに笑いそうになった。
「スーツそのものをどうかするのは無理だったということです。なので、使うにはプラスして強化するよりなかったのです」
「それは……」
「試してみないと何とも言えません。シミュレーションではうまくいったのですが……」
「君の腕なら信用できると思うけど……」
「……強化方法は、ヘルメットに入れてありますよ」
「ありがとう」
私はスーツとヘルメットを粒子状にして、ワンドに戻した。
「そして、気になることがあります。それはあの黒いヴァルキリー……の」
「の?」
「使役していたモンスターですね」
「ああ、スレイプニル」
「そうです。調べましたが、あれはそう簡単に扱えるものじゃない。あれを操れるなら、正直あなたやゆみかさんのダメージが少なすぎる……と思うのですよ」
「何かチートを使ってるとか……」
「さて……。ただ、聞いた話からすると、使えるならもっと強敵であるほうが自然だし、なおかつ、さっさと呼び出さないのもおかしい。とすると」
「すると、どうなるの」
「アレはあのヴァルキリーではなく、また別の誰かに使われていたということ」
「あああ……。なるほど、そういう可能性もあるか」
考えてみれば、当然の話かもしれない。
「そうなると、あれの使役者はもっと手強いということになり、事態は重いわけですね」
「ううん……」
私はワンドをなでながら、先行きの見通しが立たないことにヤキモキするしかなかった。
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