その179、帰ってきたヅカテ氏
「あ」
「あ!」
どちらかというと、手狭な個人用の部屋。
備え付けのベッドの上では、ケライノが満足そうな顔で眠りこけていた。
毛布にくるまって眠るそのさまは、まるで大きな猫みたいである。
「……」
「……」
私は自然と、隣の田中くんを見た。
田中くんはきまり悪そうに眼をそらしてしまった。ちょっと赤面している。
まあ、アレだ。要するになるようになってしまったらしい。
「ま、ほどほどにね?」
私がどうこう言うのも野暮なので、つーっと部屋を離れた。
やれやれ……。
考えようによっては似合いの二人とも言えるかもしれない。
どっちも脳筋気味だし、相性も良かったのだろう。
戻っていく途中、ふと前を見ると――ヅカテ氏が歩いていた。
ふむ、ダイノヘイムから帰ってきたのだな?
「お帰りなさい。どうでした首尾のほうは」
「やあ。ただいま。いや、なかなか困ったよ」
いかにも旅帰りといった感じのヅカテ氏だが、表情は悪くない。
どうやら、何か収穫があったと見えた。
早速に松上少年を呼んで話を聞くことにする。
「お疲れさまでした。すみませんね、きついことを頼んで」
「まったくだな」
松上少年は紅茶をいれ、ヅカテ氏にすすめながら言った。
ヅカテ氏はレモンを浮かせた紅茶を一口飲み、息をつく。
「で、どうでした?」
「ああ。何とかまあ、それなりのものはあった」
言って、ヅカテ氏は報告書であろうファイルを松上少年に渡す。
「拝見します。ふむ……。なるほど、なるほど……」
松上少年は中身を入念に確認してから、何度もうなずいたが、
「……しかし、まいったなあ」
困った顔で頭を掻いた。
「そう言うな。そこしか協力を得られなかったんだよ……」
対するヅカテ氏も言い訳じみたことを言い、また紅茶を飲む。
「どういうことなの?」
「新たな協力勢力は得られましたが、それがサキュバスなんですよ」
「サキュバス? でも……」
人間の男性から糧を得る彼女らは、前から協力的だった。
「今までのは個人単位の細々としたものです。今回から集団的に助けを得られるようになったわけですよ。無論見返りは求められますが……」
「それが問題なんだけど……」
「しかし、あいつらはベルタエルフに負けないくらい強力だ。戦力としては非常に心強い」
と、ヅカテ氏は断言した。
「それはいいんですけど、その見返りって……」
「まあ、男そのものだわなあ」
「問題じゃありませんか? ベルタエルフとその競合するとか……」
「それもあると言えばあるが、ベルタエルフは傾向として若い男を求める。だがサキュバスは中年も老年も関係ない。そこを突いてどうにかこぎつけたんだ」
「ははあ。確かに今後は大人の男性も狙われるかもしれんですからね」
と、私も少し同意はできた。
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