その176、田中北吉の奮闘
「ふんぬ……! ふんぬ!!」
「……」
大量の汗を流しながら、田中北吉くんは筋トレに励んでいた。
流れた汗で水たまりができ、ちょっとえらいことになっている。
場所は八郎くんを保護&研究している施設。
特に名前はないが、番号として7番目。なので通称7番と呼ばれている。
現在家を出ている田中くんも、そこで寝泊まりしているのだが――
「精が出るわねえ……」
「かなりの運動量ですよ、あれは」
私と松上少年はトレーニング中の田中句を見学していた。
田中の両腕両足には、小さな銅色のリングがはまっている。
私がナラカで使っていたものを真似たものだ。
そのアイテムについて松上少年に話したところ、
「なるほど。面白そうですね」
というわけで、彼なりの理論と技術でコピーを造ったらしい。
ただ、本人曰く――
「精神の影響力はあんまりないですけどね。効果はけっこうあるはずです」
ということだった。
使ってみるとかなりきつく、異種族含む色んな魔法使いなどに試してもらったが、
「きつすぎ……」
「ダメ、もう無理……」
と、多くの者が脱落して、長時間使用はできなかった。
「どうやら、なまじ魔法に通じていると無意識に精神作用に抵抗してしまい、余計にきつさが感じられるみたいですね。こりゃ要改良だなあ」
松上少年はそう言って、暇さえあればリングの改良に没頭していた。
で、まだ未完成であるらしい。
だが、そんなものでもけっこう便利に使う者がいた。
それが今現在トレーニング中の田中くんだ。
肉体鍛錬を通じて魔力を鍛え、制御する。
この方法は彼の性分に非常に合っていたらしい。
なので、暇さえあればいつもトレーニングをしていたのだとか。
「かなりきついけど……その分充実感があるな!」
と、未完成の訓練リングをつけてがんばっているのだ。
しかし、黙々と厳しいトレーニングに耐えられるというのは……。
根性というものもあるだろうが、個人的にはある種のマゾヒズムじゃないかとも思う。
「む……」
私は汗と共にたぎる臭いに、ちょっと引いてしまう。
最初は我慢してみたけど、近くにいるのは若干きつい。
「ぜはー、ぜはー……!!」
どうやら区切りがついたらしい。
田中くんは汗の水たまりの上に座り込み、荒い息を吐いていた。
「これで、基礎訓練はできるでしょうけど……。格闘訓練は難しいですな」
「格闘?」
「彼の特性をもっとも生かせるのは、肉弾戦ですから」
私の問いに、松上少年は言った。
「それだったら、警備でもヤタガラスからでも人員を回せる……いや……」
ベルタエルフのおかげで余裕は出てきたが、ヤタガラスも底上げが必要とされてる。
自分たちの訓練で忙しいのに、田中くんをコーチする時間はないか。
あるかもしれないけど、その時間が惜しいと思われかねないな……。
「地味な鍛錬ばっかしてるなあ?」
その時、気配と同時に誰かが部屋に入ってきた――
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