その174、そして……また日本へ
「素敵な演説でしたよ」
戻ると、松上少年が軽く手を叩いて出迎えた。
「……演説のつもりはないけど」
「ふふふ。そうですね」
「なに、その笑い」
「いや、失礼。……これは、僕が何かする必要も、あまりないかもしれんですね」
松上少年は笑いながら、飲み物を差し出してくる。
少ししゃべり過ぎて喉が渇いていたので、ありがたくいただいた。
心地良い味と喉越しの飲料――こういう点でもエルフは素晴らしいな、思わされる。
私が休みながらゆっくりしていると、飛行艇は目的地に着いたようだ。
ベルタエルフの里。
話では彼女らの街自体はあちこちにあるようだが、一番大きなものである。
「ダイノヘイム4大陸のうち、クルですね」
窓から見える大地を見ながら、松上少年は言った。
ダイノヘイムは地球よりはるかに広大で、エルフも全容を掴みきれてないらしい。
エルフたちの住むエルフヘイムを中心として、4つの大陸がある。
東にヴィデーハ。西にゴダニヤ。南にジャンブー。そして北にクル。
どの大陸も広い。
が、クルは人口密度が薄めで、知的種族より野生動物のほうが多いらしい。
いや、モンスターとするべきかもしれないな。ははは……。
飛行艇からは、小型の飛行艇で人数を分けて下船していく。
下では、大勢のベルタエルフが出迎えていた。
降り立った少年たちに、美しい『野生の女』たちが微笑みかける。
正式な手続きなどは、政府の人間によって行われた。
それもつつがなく運び、少年たちはベルタエルフに預けられることとなったわけだ。
私個人としては、ゆっくりベルタエルフの街を見て回りたかったけど……。
色々用事もあるし、そうもいかない。
「皆さん、どうぞ健康に過ごして! また次の仲間を連れてくるので!」
私たちは並んでいる男の子たちにそう叫びながら、小型艇で戻る。
みんな、元気よく手を振って送ってくれた。
「まずは一段落、か……」
「この後もまだまだ送る男子はいますから、最初の一歩というところですな」
「ええ、そうね……」
私はいつしか深く深呼吸をしていた。
このまま、どんどん若い男の子がいなくなる――
そうなれば、世の中はどうなってしまうのか……。
ちゃんと転移に備えて行動できるんだろうか?
「帰ってからも、警備の強化が大変ですな」
「いくらでもテロに狙われる……か」
「仮に日本から男がみんないなくなったとしても、続くでしょうね」
「……今度は同じ女を標的にすると?」
「攻撃対象なんてどうとでも、変わりますよ。女性を害する、男の因子を持った女だとか言い出したりするかもね」
「なにそれ……!」
私は思わず吹き出すが、松上少年は笑っていない。
「……マジで?」
「可能性としては、ありますよ。既婚者を恋人のいる女性を名誉男性とか、裏切り者と言って糾弾する連中もたくさんいますからな」
「それじゃ、完全にレイシズムじゃない?」
「初めっからそうでしょう?」
つい声を荒げた私に、松上少年が肩をすくめてみせるのだった。
よろしければ、感想や評価ポイント、ブクマをお願いします!
感想は一言でも歓迎!
あなたの応援が励みになります!