その173、私は言いたいことがある
こんな風に国を出る少年たちは、どんな心境なのだろう?
私は周りをもう一度見まわす。
みんな、飲んだり食べたり、ベルタエルフと楽しそうに話したり。
国を追われた……という雰囲気じゃない。
でも、心の底はどうなのだろう? また、後になってどう思うだろう?
親や家の恋しい子供だって、いるはずだ。いて当たり前である。
そんな子たちを、私をどう送り出せばいいのか……。
あるいは、将来魔法を身につけた彼らが、日本の女性……オンナをどう思うのか。
以前にある女たちは言った。
『日本人女性は、霊的に劣った日本人ではなく、エルフなど高等種族と結婚するべき』
はあ……。
だが現状はどうだ? これは、立場が逆になってしまったのか?
まあ、別に男の子たちは霊的に高尚というわけでもないのだろうけど。
被害者がやがて加害者に。難民がやがて侵略者に。
そういうことも、あるのだろうか……?
あるかもしれない。でも、今は何とも言えないのだ。
向こうの生活に満足して、日本のことなど忘れてしまうかもしれないし。
忘れる、か。
それはそれで寂しいことなのだろうな、きっと……。
気づけば、穏やかな歓談などが続いているけど、少し場は静かになったようだ。
あるいは、みんな疲れてきたのかもしれない。
「……」
「どこへ?」
「少し、話をね……」
私は半分無意識に前のほうへ歩き出していた。
呼び止める松上少年に微笑みかけてから、ワンドをマイクのようにして立つ。
「えー、皆さん。少しよろしいでしょうか?」
魔法を声を拡大して、会場を見る。
何事かという顔でみんながこちらを見ていた。無視はされてないようだ。
「本日、皆さんの護衛と見送りを兼ねて同席した、刃光院黒羽です。お見知りおきを――」
簡単な挨拶をして、私は男の子たちを見つめる。
「皆さんは、今日からこのダイノヘイムの、ベルタエルフの国で過ごされます。きっと快適な暮らしになることでしょう。それに、向こうでは日本で学べなかった魔法をより専門的かつ面白く勉強できると思います。意欲のあるかたはどうぞ頑張ってください」
「おー、がんばりまーす!」
どこにでもいるのだろう。
お調子者らしき男の子が応えて叫び、ドッと笑いが起こった。
「大変にけっこうです。中には日本に帰りたいと思う人も出るでしょう。なかなか帰国できるまで時間がかかると思うので、そこはつらいかもしれません。でも、どうぞめげないで」
今度は返事が来ない。
少し、真面目になった顔つきの男の子たちが散見される。
「今日本では色々ややこしいことが起こって、あなたたちに対して悪意のある声もあります。それに対して、腹が立ったり、仕返ししたいと思う人も出るでしょう。けど、その前にまずはあなたたちを大切に思う人のことを思い出してください。そして、日本で過ごしたことを」
チラリと松上少年を見ると、黙ってみているだけ。
何か口出しをする気はないようだ。
「良い思い出がないという人もいるかもしれません。でも、あなたたちを大事に思う人たちや手助けをしたいと思う人たちがいることを心に留めておいてください。あなたたちを避難させようと頑張ってくれた人たちがいるのを、少しでも良いので覚えていてください。それは悪意に比べて見えにくかったり、わかりにくかったりすることもあります。でも、今回も皆さんを守るためにベルタエルフの方々だけでなく、色んな人たちが協力をしてくれたのです」
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