その172、避難は追放か?
かくして。
テロリスト襲撃というトラブルはあったが、男の子たちは全員無事に異世界に渡れた。
ゲートの向こうでは、施設の前に巨大な飛行艇が用意されており、5千人全員が乗船。
飛行艇のサイズは、クジラというよりも巨大な島みたいであった。
私や松上少年も最後の見送りとして同乗することとなる。
「皆さん、ようこそダイノヘイムへ。私たちは、心より歓迎いたします。」
ゆったりとした船室には大広間が用意され、いくつも丸テーブルが並ぶ。
テーブルの上には、疲れがとれるベルタエルフの軽食がされていた。
食べて飲むと、ホッと安心できる味。
男の子たちもみんな安堵した表情で食事を楽しんでいる。
「何はともあれ、良かったということかな?」
「今回はね」
松上少年は肩をすくめる。
「次は別のゲートから移動しますが、今度も襲われる可能性が高いですし」
「やっぱり、情報がもれてる……?」
「間違いなくね。多分政府関係者か、それに近しい人間から……」
「なんてこったい……」
何とも悲惨な状況に、私は眩暈がしそうだった。
「こういうデモをしている連中もいることですし」
と、松上少年は手の平サイズの無音動画が展開させた。
それには、
『犯罪者予備軍が追放されるのをお祝いします』
というプラカードがいくつも並んでいる。
また、
『日本人に野蛮な男は要らない』
というプラカードも。
「な、なに、これ……」
「なにって、見たまんまですよ」
憮然とした顔で松上少年は首を振る。何かを諦めたように。
「男子がダイノヘイムに送られることを歓迎する声です」
「それにしたって、これは……。彼らはテロの標的にされてる被害者なのに」
「でも、そうだとは認識しないのもいるんですね、これが」
「無茶苦茶だわ……」
こんな主張がみんなに受け入れられるとしたら、もう駄目だ。
「インターネットではさらにすごいことになってます」
「見たくないわよ……」
「まあ、あまり精神的に良いものではないですねえ」
「だけど、こんなことってある?」
「そりゃあねえ。ナチスやらアメリカの日系人収容所やらをかんがみれば……」
起こってしかるべきことだったのかも、と松上少年は皮肉げに笑った。
「これ、みんなは……?」
思わず私は周辺の男の子たちを見る。
「まあ、ネットはつながっていますし、いずれは見る……でしょうね」
「日本に愛想尽かしたりしないかな……。私なら……」
「そこですよ」
松上少年は困った顔で頭を指で押さえた。
「こんなことをする、あるいは許容する祖国なら、もはや未練はないとなりかねない。まさかこれほどのレベルだったとは……考えが甘かったかなあ……」
「……こんなのは、過激な一部、だよね……」
「そう願いたいですな」
しばしの間、私たちは黙り込んで動画を見つめるばかりだった。
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