その171、防衛戦の成功
「かあッ!!」
いきなり――鋏女は予備動作もなく跳ね上がり、何かを吐きかけてきた。
私は障壁でそれを受け止める。
半透明な魔力盾の向こうで、赤黒い液体が沸騰したように泡立っていた。
<魔力反応――毒感知>
毒……。こんなものを吐きやがるのか、この女は……。
私がウンザリしていると、その隙に鋏女は大空へ逃げ出していた。
「悪いけど、逃がさない……」
私はジャンプし、一気に飛行魔法で間合いを詰める。
「しつこいぞ!」
鋏女は身をよじるようにして、速度を上げた。
私はそれを追って、さらに加速する。
あっという間に追いつき、私は鋏女に拳を叩きこんだ。
「ちぃ……!!」
鋏のついた篭手で、鋏女は防御する。
しかし、拳には螺旋を描く魔力が圧縮して込められていたのだ。
一撃で……あるいはすでにダメージが蓄積していたものか……篭手は砕け散った。
「まさか……!!」
鋏女は今までの余裕を完全に崩し、気の毒なほど狼狽えた。
隙あり、である。
「少々痛い目を見てもらう!」
私は背後に回り込むと、両手を握った拳で殴りつけた。
「ぎゃん!!」
鋏女は絶叫して、そのまま地上へ落下していく。
そして、アスファルトの上に激突して、動かなくなった。
<生命反応あり――魔力微弱>
一応加減はしたから、死んではいないか……。やれやれ……。
私は気絶した鋏女を魔力リングで拘束すると、施設のほうを見た。
施設の周辺ではまだ戦闘は続いているけれど、大よそこちらに分がある様子。
テロリストたちはベルタエルフに次々と撃破され、撤退しつつある。
どうやら、私はハッスルするまでもなかったらしい。
修行の成果は実感できたが、ちょっとばかり肩透かしだ。
<松上くん、男の子たちは無事?>
<はい。急いで転送していますが、全員無事です>
通信を入れると、松上少年は明るい返事を返してきた。
「ふう」
私は鋏女を担いで、仲間のもとに戻っていく。
そして、テロリストは完全に撤退していき、大半が捕縛されたのである。
「皆さん、ご無事で?」
「もちろん」
ベルタエルフたちはみんな平然として、自然体だった。
エルフ属だけあって、やはりその能力は目を見張るものがある。
「しかし、彼女たちはよくわからない連中ね?」
ベルタエルフの一人が捕縛されているテロリストを見て言った。
まあ、わからないんだろうなあ……。
美しく、強靭で高い魔力を有した種族たち。
色んな意味でこじらせて男を諸悪の根源とし、ついに子供にまでテロを仕掛ける。
そんな風になっちゃった女の気持ちなど、わかるはずもないのだろう。
私も、本当の意味でわかるとは言えないけど。
でもわかってしまったら、オシマイなのだろうか。
それとも、そこから抜け出る方法もあるんだろうか……? うーむ……。
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