その168、移動の時となりて
思ったよりも、早くに時は来た。
5千人の魔法資質男子が、異世界に渡る。
もっと揉めて遅くなるとか思われたが、緊急時ということで少々強引に進めたようだ。
地球とこちらをつなぐゲートは限られているので、場所は選べない。
男子たちは色々に変装して、時には護衛など同伴しながらゲートを潜っていく。
あるいは、荷物の中にこっそりと潜ませて移送などなど。
「できれば、幼い子供を先に送りたい」
と政府も要望したので、警備にはヤタガラスの他、ベルタエルフも参加してくれた。
かなり目立つと思われるが、変身魔法で姿を変えているため、人間としか見えない。
エルフ属の種族が味方というのは実に心強いものだ。
ホントに……。いつもこうだったらいいのにね。
そんなことを思いながらも、私もゲート管理の職員に変装して協力していた。
まずは幼児たちがどんどん送られ、まずは数百人が異世界に移動していく。
このまま、何もなければいいが……。
いや、そういう時に限って事件は起こるんだよな。
何とも嫌な予感を抱えながらも、粛々と仕事を進めていくと――
不意に、一人の客が列を離れていった。
「あの――」
私が声をかけようとした時、
<警告。攻撃的魔力反応!>
ワンドから、頭に直接警告が飛んできた……!?
ハッとすると、トイレのほうから何かが転がるように飛び出してきた。
出てきたのは、でかいワニ……? いや、トカゲだ。
コモドオオトカゲみたいなヤツである。
しかも、そいつは大きいだけではなかった。
全身のあちこちに装甲みたいな甲殻に覆われ、尻尾には長い毒針がうねっている。
サソリの尾だ……。
怪物トカゲは毒の尾を振りながら突進してくる……!
「危ない!」
私が飛び出そうとする前に、さっき列を離れた客が割り込んできたではないか?
客はフッと、手を振った。
瞬間、突っ込んできた怪物はトカゲは粉々に砕け散った。
わずかな肉片も、魔力となって大気に消えていく。
え!? すると……このひとは…………。
客はふわりと身をひねると、ベルタエルフに姿を変えていた。
肌は白いが、緑系の髪はコマサと似通っている。
すると今度は、物陰から不気味な姿をした女が飛び出してきた。
半分は鱗に覆われた爬虫類のような肌と、半分はサソリのような甲殻に覆われた体。
「貴様ああ!! 邪魔するなあ!!」
女は憎悪のこもった眼でベルタエルフを睨み、飛びかかっていく。
それに対して、ベルタエルフは弓を構えるような動きを見せた。
弓を横に構えて、今にも射ようという姿勢。
いつの間にか、ベルタエルフの手には碧の魔力で構成された弓が――
そして、ベルタエルフが光の矢を放つ。
光の矢は水を泳ぐ魚のように動きながら、的確に女を射貫いてしまった。
「ぎゃ……!」
女がくぐもった叫びをあげ、床に倒れこむ。
「まずは一人」
ベルタエルフは光のリングを複数造り出し、女を拘束してしまった。
私が割り込む隙も無い、流れるような見事な動き。
だが、事態はそれだけでは終わらず……!?
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