その166、葛藤は出てくるわけで
「はあ、異世界に引っ越しですか?」
戻った私は、八郎くんにベルタエルフについて尋ねてみた。
彼もちょろっとは聞いていたようだが、概要を話すとひどく驚いて、
「何か……すごい話ですねえ」
「あなたは、まあ例外だから行くかどうかわからないけど……。行けるとしたら?」
「それは、わからないですね」
「日本を離れたくない?」
「……わからないですけど、不安はあります」
「そりゃそうだよね」
「うまいこと言われても、後で何があるか……ってね」
鎧のような姿のまま、八郎くんは遠くを見た。
言葉の端から、女性に対する不信感みたいなものがチラッと感じられる。
「彼女たちは、原理主義の魔女とは違うと思うけど」
自分でも白々しいなと感じつつ、ベルタエルフの擁護などしてみる。
「そうなんでしょうけど……。今までが今までだから――」
「……ああ」
なるほど。これが松上少年の言っていた不信感か。けっこう根が深そうだ。
「ただまあ……」
「なに?」
「日本については、それほど未練があるわけでもないですね……。そんなに良い思い出があるわけじゃあないんで」
「そう……」
淡々としているけど、悲しい言葉だなと思う。
この世界には、こんな気持ちの男の子がたくさんいるんだろうか。
いるんだろうな……。
今まで散々蔑ろにしておきながら、保護できないからと異種族に放り出す。
これじゃ、信頼感なんて生まれるわけがないか。
けど、私にはそれをどうこうできる力はない。
訓練で得た力もこうしたことには甚だ無力だ。
まったくもって、どうしたもんだか。
「松上くんには、もし行っても後から協力してくれと頼まれましたけど」
「え」
「何か、近い将来日本にえらいことが起きるんでしょう」
八郎くんの問いに、私は無言でうなずいた。
「その時、僕の力が役に立つと言ってたけど」
「うん……。事実だよ」
「良かった……」
「良かった?」
「ええ。国とかそういうのはわからないけど、黒羽さんたちの助けになるんでしょ」
「――なるわ。ものすごく」
八郎くんの言葉に、私はうなずいた。
「なら、それだけで嬉しいですよ。みんなは、恩人ですから」
……恩人か。そう言ってもいいのだろうか?
確かに彼を助けたのは事実ではあるし、その時に欲得はなかった。
けど、彼には特異な資質があり、私たちの大きな戦力になっている。
別の言い方をするなら、体よく利用しているわけだ。
それって、恩か?
「八郎くん」
「僕はみんなが好きですからね」
私が言葉を出す前に、八郎くんは明るい声でそう言った。
これに、私はただもう一度うなずくしかできない……。
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