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166/301

その166、葛藤は出てくるわけで



「はあ、異世界に引っ越しですか?」



 戻った私は、八郎くんにベルタエルフについて尋ねてみた。


 彼もちょろっとは聞いていたようだが、概要を話すとひどく驚いて、



「何か……すごい話ですねえ」


「あなたは、まあ例外だから行くかどうかわからないけど……。行けるとしたら?」


「それは、わからないですね」


「日本を離れたくない?」


「……わからないですけど、不安はあります」


「そりゃそうだよね」


「うまいこと言われても、後で何があるか……ってね」



 鎧のような姿のまま、八郎くんは遠くを見た。


 言葉の端から、女性に対する不信感みたいなものがチラッと感じられる。



「彼女たちは、原理主義の魔女とは違うと思うけど」



 自分でも白々しいなと感じつつ、ベルタエルフの擁護などしてみる。



「そうなんでしょうけど……。今までが今までだから――」


「……ああ」



 なるほど。これが松上少年の言っていた不信感か。けっこう根が深そうだ。



「ただまあ……」


「なに?」


「日本については、それほど未練があるわけでもないですね……。そんなに良い思い出があるわけじゃあないんで」


「そう……」



 淡々としているけど、悲しい言葉だなと思う。


 この世界には、こんな気持ちの男の子がたくさんいるんだろうか。



 いるんだろうな……。



 今まで散々蔑ろにしておきながら、保護できないからと異種族に放り出す。


 これじゃ、信頼感なんて生まれるわけがないか。



 けど、私にはそれをどうこうできる力はない。


 訓練で得た力もこうしたことにははなはだ無力だ。



 まったくもって、どうしたもんだか。



「松上くんには、もし行っても後から協力してくれと頼まれましたけど」


「え」


「何か、近い将来日本にえらいことが起きるんでしょう」



 八郎くんの問いに、私は無言でうなずいた。



「その時、僕の力が役に立つと言ってたけど」


「うん……。事実ほんとうだよ」


「良かった……」


「良かった?」


「ええ。国とかそういうのはわからないけど、黒羽さんたちの助けになるんでしょ」


「――なるわ。ものすごく」



 八郎くんの言葉に、私はうなずいた。



「なら、それだけで嬉しいですよ。みんなは、恩人ですから」



 ……恩人か。そう言ってもいいのだろうか?


 確かに彼を助けたのは事実ではあるし、その時に欲得はなかった。


 けど、彼には特異な資質があり、私たちの大きな戦力になっている。


 別の言い方をするなら、ていよく利用しているわけだ。



 それって、恩か?



「八郎くん」


「僕はみんなが好きですからね」



 私が言葉を出す前に、八郎くんは明るい声でそう言った。


 これに、私はただもう一度うなずくしかできない……。











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