その163、異世界にて会談す
これで休み分の補填終了す。けっこうかかったなあ……。
「考えてみれば、初めての体験……」
石のような材質で作られた独特のデザインからなる『門』。
その前に立って、私は思わずつぶやいていた。
「僕もですよ」
隣の松上少年は、ちょっとウキウキしたような顔でうなずいている。
「へえ、意外……。裏で気軽に行き来してると思った」
「僕を何だと思ってるんですか。そんなことできるなら、もっとダイノヘイムの魔法を学んで現状に貢献してますよ」
肩をすくめる松上少年。
「ま、そりゃそうか」
ヅカテ氏の提案により――
私たちは例の『コネ相手』と会談すべく、異世界に向かうことになった。
解禁されて行き来できるようになったとはいえ、利用者は少ない。
ここがいわゆる、VIP専用のゲートだということを考慮しても、だ。
魔女党が長らく敷いた鎖国政策は、まだまだ影響下にあるということらしい。
「移動自体には特に負荷はないから、気楽にしててくれ」
ヅカテ氏の先導のもと、私はゲートの中で輝く光る渦に入っていく。
どこか空中浮遊に似た、フワフワとした足元。
それを抜けると、そこは異世界だった。
「おおー……」
まるで、ファンタジーのお城みたいな洗練された造りの場所。
無骨な造りである、日本のそれとは大違いだ。
エルフの係員から簡単検査を受けた後、ゲート施設を出てから飛行艇に乗った。
地球の飛行機とはまるで違う、クジラのような形の乗り物である。
構造としては、飛行機というよりゴーレムに近いものらしい。
「長距離跳ぶわけでもなので、小型のものにした」
と、語るヅカテ氏。
異世界の空を飛んでいくと、広がる山々の向こうに白く輝くものが見えた。
海に面した大型都市で、丸や三角、色んな形の建物がひしめいている。
そのくせ、街中にはあちこち緑があって心地よい印象だ。
「ここは、わりと最近造られた港町だ。交通の便がいいので、あちこちから色んな種族が来ているよ。無論、ベルタエルフも」
やがて飛行場らしき場所に着陸すると、今度は街の空を飛行移動。
全員空が飛べて良かった。
ついたのは、地球のビルに似た高い建築物。
その屋上から受付をへて、中に入る。
空を飛べる者が当たり前にいる環境ということだな。
「ここは最近できた地球風の大型宿泊施設……つまりはホテルだよ。地球で学んだ経験のあるドワーフ族が設計・建築をしたんだ」
そんな説明を受けつつ、部屋へと向かう。
なるほど、部屋の中も地球のホテルのようだった。
ただし、かなり高ランクなホテルである。
入ってすぐの部屋には大きなテーブルがあり、卓上にはお茶の用意。
「ようこそ。お待ちしてましたよ」
そこには、美しいエルフの女性がにこやかに私たちを待っていた。
「はじめまして、刃光院黒羽です。黒羽でけっこうです」
「松上太郎と申します」
私と松上少年は名乗り、できるだけ粗相のないよう挨拶をした。
「わたくしはベルタエルフのコマサと申す者です。お会いできて光栄です」
と、ベルタエルフは優雅に挨拶してきた。
何というか、女の眼から見ても、どえらい美女である……。
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