その162、ヅカテ氏の『あて』
世の中は、ザワザワとしていた。
先日うちの研究施設を襲ったテロリストは、各所でモンスター召喚テロをしている。
調べてみると、どうも発見してもわざ見逃す警官や市民もいるらしい。
もっとも、モンスターのほうは壊すものや襲う人間が選ばないのだ。
召喚の呪符を隠して、自分の住居を壊されたおばさんがニュースに出ていた。
「協力したのに!!」
と、喚いている姿は見苦しいことこの上なし。
自分の家じゃなきゃ壊されてもいいのか?
男子のいる家庭では、保護を訴える声も多かった。
逆に、
「家にいられると、こっちまで襲われるかも……」
と、子供を疫病神扱いして施設に預けようとする親も。
「どうでしょう。うちらでこういう子供たちを預かっては?」
ニュース記事や映像を空中に表示しつつ、松上少年は提案してきた。
「なるほどな。しかし、同時に襲われる可能性も高まるが……」
どうするね? と、いう風にヅカテ氏は私を見る。
ハッキリ言って……保護できる余裕はなかった。八郎くんだけで手いっぱいだ。
「保護はしてあげたいけど……どうかなあ。無理かなあ」
とにかく、人も予算も場所も足らない。
傾向からして、テロリストが男子を中心にを狙っているのは確実だ。
なればこそ、最優先で保護はするべきなのだけど。
訓練でパワーアップしても、ぜんぜん強くなった実感はない。
こんな事態になると、むしろ余計に無力感が強まった気がする。
「魔法使いから男の子を守れて、保護できるような人材かあ……」
そんな都合の良いものは存在しないとは思うけど――
と、
「……もしかすると、当てがないでもない」
ジッとニュース記事を見ていたヅカテ氏が、硬い声でそう言った。
「ええ?」
「ホンマですか?」
私と松上少年は顔を見合わせ、ヅカテ氏を見つめた。
「ある意味、かなりやりにくい連中ではあるが……魔力にも長けているし、男子を善意で保護してくれるとは思う…………」
「まさか、サキュバスとか言わないでしょうね?」
私は言ってから、それも悪くないかな? と、ちょっと思ってしまった。
サキュバスならばハイレベルの魔法を操れるし、強い。その上比較的協力だ。
ちょーっと『つまみ食い』をするかもしれないが、許容範囲ではなかろうか?
年頃の少年たちにとっては、むしろ嬉しい状況かもしれない。
無論嫌がる子もいるだろうけど、あくまで全体の傾向として。
「いや、ベルタエルフだ」
「エルフ? でも、エルフは……」
「いや、エルフ属でもちょっと系統の違う種族なんだ。エルフの近縁種だが、女しかいないという種族でね。地球では、ヴィルデ・フラウと呼ばれている」
「あああ……」
何かを察したように、松上少年が膝を叩いた。
「普通のエルフとどう違うの?」
「彼女らは女しかいないから、人間の男をさらって夫にしたり、人間の子供を養子として自分たちの国に連れていくんだ」
「え」
そりゃ、もしかして誘拐じゃないか……?
私の視線に、ヅカテ氏は困ったように顔で肩をすくめるのだった。
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