その161、松上少年『ナラカ』について語る
「一体、何があったんですか???」
私を見るなり、松上少年は目を白黒させて凝視してきた。
彼のこれほど驚いた顔を見るのは、貴重だろうな。
「うーん。実はこれこれしかじか」
隠してもしょうがない気がするので、私は体験したことを正直に語ってみる。
「ナラカ……ですか」
話を聞きながら、松上少年は何やら感慨深げにうなずいたり、汗をかいたり。
「何か知っているの?」
「いや、あなたの言ったという世界には直接知らないのですが……」
似たような場所なら、知識としては知っています――と、首をひねる松上少年。
「それって?」
「ナラカとは、いわゆる仏教用語の奈落。つまり地獄を指す言葉ですね。サンスクリット語が元の言葉です、はい」
「地獄……」
言われてみれば、あそこは地獄みたいな荒涼とした場所だったな。
召喚されたモンスター以外生き物はいなかったし、草木すらなかった。
「それに、向こうにおける時間と寿命……。これも不思議な共通点だ」
「……そうなの?」
「ええ。あなたは、第1階層、おそらく一番上の階層で過ごしたといいましたよね? これは仏教の八大地獄と似ている。当てはめれば、等活地獄だ。これは地獄の中でも、もっとも刑罰の軽い場所で、そこでの寿命、ま、つまり刑期と言うべきですか。それはおよそ1兆6千億年を越えるとされます。地球の年月に換算して、ですがね」
「……」
なるほど。確かに似ている。
「あなたはそこで2~3年訓練して過ごしたけど、年はまったくとっていない。いや。正確に言うととっているんでしょうけど、1日分にも満たないわけだ」
「ええ……」
「そんなシステムの魔法とか世界があるなんて……。これはすごいことですぞ」
「し、信じるんだ?」
「そんなアホみたいなことを言うキャラじゃないでしょうし、あなたが強く……レベルアップしているのは厳然たる事実ですし」
松上少年は何度もうなずき、
「僕も是非行ってみたい場所ですな……! その、チケットというのは?」
「残念ながら、どっかに消えちゃったわ」
私は肩をすくめた。
「そ、それは……非常に残念です。あ、そういえば」
「なに?」
「あなたが訓練で戦ったモンスターはどんなものがいましたか?」
「そうね……。ゴーレムの他には、ケルベロスに、ミノタウロス。スケルトンの軍団に、他は最猛勝がいたわね……。他にも、なんとか虫っていうカブトムシの幼虫に似た牙のあるヤツ。おっきくて硬い蟻とか、ニワトリみたいなの?」
「むう……」
「どしたの」
「いえ、やはりというか。どれも地獄……冥界に関係のあるモンスターばかりですな」
「ケルベロスはともかく、ミノタウロスって関係あったっけ?」
「ダンテの神曲では、冥界にミノタウロスがいる場面がありますよ」
「へー……」
「最猛勝に、針口虫。これも地獄にいるという怪物だ……。ああ、つくづく残念。僕も行けていたらなあ……。たっぷりの時間と絶好の研究素材で、色々とできたのに」
と、松上少年は心の底から残念そうに言うのだった。
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