その157、魔法のリング
私は、無限に広がる荒野をひたすらに飛んでいた。
両手両足、それに腰には細いリングがはまっている。
訓練を始めた私に、管理人が渡してくれたものだ。
「一種のトレーニングギブスだけど、これつけて訓練すれば効率よく鍛えられると、思う」
なるほど、つけてみると単純な訓練でもかなりきつい。
わずかに魔法を使っただけですぐ息が上がってしまった。
小休止を挟みながら、魔力をブーストしてひたすら飛ぶ。
それによって、全身の体組織と魔力が絡み合い混じり合い、強化されていく。
一日ごとに、その成果が出てくるのを実感できた。
単調な訓練をひたすら続ける。苦しいし、飽きる。嫌になる。
だが、やめられない。
やめないのじゃない、やめられないのだ。
何かに突き動かされるように、ひたすらに飛び続けて、訓練し続ける。
自分はこんなに熱血漢だっただろうか?
睡眠時間は8時間以上だが、起きている時間はひたすらに飛ぶ。
基礎的な力をつけるのは、こういう訓練が最適だと学校でも学んだが……。
何だか、不自然に感じ出したのは、10日目を過ぎたあたりだった。
なので、その日は飛行訓練をやめ、1日瞑想を試みた。
これも基礎を鍛える必須訓練ではあるのだ。
体内の魔力を掌握し、解析していく。
だが、そのうちにリングに何らかの魔法がかかっていると気づいた。
魔力や肉体を鍛えるための負荷魔法。
それ以外に、精神……脳に作用する魔法が密かに作動しているとわかったのだ。
これも、以前の私ならまったくわからなかったと思われる。
はずそうとしてみたが、はずれない。
一度つけると、最低8時間経過するまではずれないようだ。
仕方ないので、つけたまま瞑想を続けた。
やがて眼を閉じていても、周囲の情報を感じ取り、分析できるようになっていく。
一度集中すると、時間経過があっという間に感じられた。
解析の結果わかったのは――
リングははめた者の脳に作用してやる気とか集中力を一定まで維持する働きがある。
つまり、これをはめていれば勉強や訓練をずっと飽きなく続けられるわけだ。
人間は基本同じことを続ければ飽きるものだし、つらいことや苦しいことが嫌い。
つまり、そういう点をカバーするための道具らしい。
もちろん魔力・体力を鍛えるための負荷も絶妙のもの。
……これは、つまり道具頼りになっているということか?
こんなものに頼ってしまうこと自体、弱さの証明では?
色々と考えたが、すぐにそれもやめた。
弱い? それがどうした? そんなこと、わかってたことじゃないか。
自分には大層な理想も魂も、信念も、正義もない。
あるのは多少の良心と、自己保身だけである。
だが、そんな自分でもやらねば色々まずいことがあるのだ。
そのためには、今以上の力がいる。
であるなら、便利に利用できるものはいくらでも利用させてもらおう。
まずは、すべきことを解決せねばならない。
哲学的なことは、万事片づいた後にするべきなわけで。
これに頼れば、よりハードな訓練も続けられるわけだし。
で。
私は基礎訓練でじっくり強化してから、次の段階に進むこととなる。
それまで、全部で30日かかった。
次は、いわゆる戦闘訓練である……!!
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