その149、施設への侵入者たち
早朝投稿です。
<田中くん、大丈夫?>
<な、何とか……。これのおかげで平気みたいです>
近くにいるけど、こっちのほうが確実だろうと通信を送る。
田中くんはヘルメットの表面を指で叩きながら首をひねっていた。
ふむ……。素顔でなかったのが幸いしたようである。
って……。そうだ、いけない!
私はハッと気づいて飛び上がっていた。
まだ研究施設は敵に襲われている途中なのだ。
<松上くん、そっちの様子は!?>
<今、敵は撤退したようです……>
疲れた声の通信が帰ってくると同時に、施設の中庭が見えてきた。
あちこちに、コウモリや蟹人間の死体が散乱している。
が、いずれも魔力となって気化しようとしている最中だった。
なるほど、やはり魔力で生み出された即席の使い魔か……。
どれも一撃で切り裂かれたり、吹き飛ばされたりしている。
松上少年は、気化する前の死体からサンプルを取っているようだった。
見ていると、私のほうを振り向きながら変身を解いた。
こまっしゃくれた顔の、小学生の顔と姿。
「いやはや……予想してたとはいえ、えらくやられましたよ」
「死傷者は?」
「今のところ報告はないですが……警備システムがかなりやられました」
また予算がかかりますよ、と松上少年は首を振る。
「それで、ヅカテさんや八郎くんは?」
「彼らは非常用のシェルターに行ってもらいました。かなり反対されましたけどね」
「しょうがないわ。二人とも重要人物だし……」
「そうなんですよねえ。正直、エルフの力が借りられれば助かったんですが」
「――だったら、私を閉じ込めるべきじゃなかったな」
苦笑する松上少年の後ろから、ヅカテ氏が渋い顔で歩いてきた。
「おお、ご無事で」
「そりゃこっちのセリフだよ。だいぶ魔力を消耗したな?」
私や松上少年を見て、ヅカテ氏は呆れた声で言った。
「ええ、強敵でしたよ」
「けっこうな数の使い魔だな。これは、よほど準備を進めてきたんだろう」
「私が確認したのは二人だけど……。内部は無事なんですか?」
「無事じゃない。何人か入り込まれた」
ブスッとした顔で、ヅカテ氏は不機嫌に言う。
「しまったな……」
「警備員のおかげで、事なきを得たがね。けが人も出たよ」
と、ヅカテ氏は首筋を撫でながら、入ってこいと人差し指を曲げる。
「あー……。とにかく、こんなところじゃなんだから、入った入った」
中に入ると、確かに侵入や戦闘の跡があちこちに見える。
けっこうな数の自動警備システムが破損していた。
やがて食堂の前を通ると、そこに複数の石棺みたいなものが並んでいた。
「これは……?」
「ああ、入ってきた連中を閉じ込めたものだよ。殺すわけにもいかなかったから……」
ヅカテ氏が手を叩くと、石棺が一瞬でガラスのように透明となる。
中には、いずれも魔法で拘束された女が封じ込めれていた。
みんな何がしかの生き物を思わせる意匠を身に着けている。
亀だったり、牛だったり、猫だったり、色々だ。
「――さすがですね」
私が言っても、ヅカテ氏は少し肩をすくめただけで無言だった。
よろしければ、感想や評価ポイント、ブクマをお願いします!
感想は一言でも歓迎!
あなたの応援が励みになります!