その123、希少なる逸材
書き始めてから、はや4か月……。
この先どこに行くのでしょうか?
「では、訓練を始めましょうか」
数日間色んな検査を繰り返した後、八郎くんへの魔法レクチャーが開始された。
施設内の内庭で、八郎くんは座禅を組んでいる。
まずは、全身の魔力を制御するための基礎だが――
「…………どう思う?」
「上達が早いのはけっこうなことだと思いますよ」
コメントに困る私に対し、松上少年はのんきなものだった。
瞑想を始めて数分後。
八郎くんはふわふわと浮き上がり始め、ついには3メートル近く上昇した。
「あのねー、ちょっと高すぎだから、もうちょっと低くして?」
「……え? ……ええ!?」
八郎くんは浮かんでいる自分に驚いてジタバタ空中でもがく。
一度墜落しかけたが、寸前で空中停止した。
「…………。飛べる」
ふわふわクラゲのように浮きながら、八郎くんは自信の両手を見つめ、つぶやく。
「魔力は把握できましたか?」
「え、うん。何となくだけど……こうかな?」
松上少年が尋ねると、八郎くんの手から淡く光る青い球が出てきた。
「うん。けっこう、けっこう。じゃあ、訓練のために施設内は浮遊して移動をするように」
「ええ!?」
「大丈夫、あなたならできますぞ。多分瞑想よりもそっちのほうが適している」
あわてる八郎くんを、松上少年はカラカラ笑って励ましていた。
もっとも、松上少年の意見は正しかったようで。
その日一日で、八郎くんは完全に浮遊移動をマスターしてしまったようだ。
「でも、これ、いつまで続けるわけ……?」
「んー。可能な限り、眠る時以外は。欲を言えば寝てる時もしててほしいですが」
「いくら何でも……」
「できそうだと思うんですけどねえ。まあ、チャレンジしてみてください」
「……寝ながらもプカプカ浮くなんてできるの?」
私はつい聞いてしまう。
「潜在意識レベルで魔法を使えれば、可能でしょう。僕は無理ですが」
「あんた、自分が無理なことを他人に……」
「彼と僕は違う人間ですからねえ」
「そりゃそうだけど」
こういうわけで。
私たちは八郎くんについて、日々訓練を促すこととなった。
正直無理にやらせるようで罪悪感がないでもなかったのだが……。
八郎くんは基礎から応用まで見事にこなしてくれた。
特に空中飛行に関して非常に高い適性を見せたものである。
魔法力に関すれば、即戦力にもなりそうな逸材だ。
ただ、性格的にはあまり活発でも好戦的ではない。悪く言うと……陰キャ?
モンスター何かと戦うというのは、ちょっと適さないかなあと私は思った。
エルフのヅカテ氏は、八郎くんを分析して得られたデータで、毎日研究室。
「サンプルとして非常に珍しいんだが、正直自分ひとりでは手に余るかなあ」
昼休みで一緒になった時、ヅカテ氏は弱った顔でそう言った。
「エルフのあなたでも、ですか?」
「いや、僕はエルフの中でも特に優秀というわけではないからなあ……」
「しかし、人間レベルで見れば、稀にみる人材ですぞ。代わりはいない」
松上少年はビシリと釘を刺すように言う。
「そもそも、ハチローは一団体が独占して研究するような代物ではないと思うけど」
どうやら施設のレベルや人材では、研究にも限界があるようだった……。
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