その１２０、男たちは興奮する
「これは実に興味深いですな」
「見たこともないタイプだよ……。色々参考になるなあ」
松上少年とヅカテ氏は、空中に浮かぶデータを見ながら、うなずき合っている。
私たちの『保護』した八郎くんは、ブレードの魔法医療施設に預けている。
渡家はこの一件について何も言っていない。警察へも未届けだ。
「具体的にはどういうことなんですか？ 素人にもわかるように言ってくださいな」
施設の一室で、私は二人だけで納得している男たちに文句を言った。
「あの八郎くんですか。一応魔法使い資質者ではあるんですけど、実に変わっている」
「だから、なにが？」
「そうですね。まず、体内に膨大な量の魔力を蓄えている。現在も進行中です」
「確かに魔力反応はあったけど……」
「いや、かなり巨大な量になっているからこそ、微弱ながら反応が出てきたんだ。例えば黒羽さん？ あなたと同程度の魔力保有量だったなら、反応は感知できなかっただろうね」
と、ヅカテ氏は私を振り向いた。
「……それって、一体どれくらいの量なんです？」
「そうだね。推測だが、現在でも松上くんの１０倍近い魔力だ」
「……そ、それはまた」
「常人どころか、高濃度の魔力結晶でもあり得ん数値だね。でも、これは事実だ」
「そんなことになって、八郎君の体は大丈夫なんですか？ 今でも外見は……」
「ああ。見た目は明らかに異常な肥満体だねえ。しかし」
ヅカテ氏はうなずいて、
「肉体的な面では、全くの健康体だ。心臓に毛が生えるくらいのね」
「ホントですか！？」
「ホントだよ。ここの医師も折り紙をつけた」
「しかし、あの姿は……」
「君は以前に蛹のようだと表現していたが、それはけっこうあてはまっているんだ」
「と、言いますと？」
「八郎君の体は、新たな魔力適応の肉体に変化する過程なんです！！」
「まさか昆虫みたいに羽化か脱皮でもするっていうの？」
興奮気味の松上少年に、私はつい冷たい視線を送ってしまう。
喜べるような状況か？
多分あの姿になってしまったせいで、彼はかなりつらい思いをしたと想像できる。
「スミマセン。しかし、彼のデータは今後の対策にも応用できるはずなんです」
松上少年は謝りながらも、興奮冷めやらぬ状態。
「応用？」
「八郎君のいた街ですが……モンスターの出現が異様に少なくなっていたでしょ？」
「そうね」
「あれは大気中の魔力を、彼が体内へ吸収していたからです」
「え、でも」
「そう。そんなに一か所に集まれば魔力反応が出るはず。それは吸い込むというより、体内に転移させていたというほうが正しいんです」
「うーむ……」
「そのシステムを応用すれば……待機中の余剰魔力を減らすのみならず、新時代のエネルギー
資源としても期待できる、かもしれない。これはとんでもない革命の予感ですぞ？」
「大気中の魔力が減れば、おのずとモンスターの発生は減る。当然魔女狩りもね」
何やら演説を始めそうな松上少年を抑え、ヅカテ氏がそう言った。
「ということは」
「これも１００％じゃあないだろうけど、かなりの割合で魔女狩りの被害を減らせる」
「……でも、集めた魔力は消えるわけじゃあないですよね？ そんないっぺんに集めたりして別口の危険が生まれるんじゃあ……」
私がそう言った時、部屋の回線がけたたましく鳴ったのだった。
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