その110、エライヤッチャ・エライヤッチャ
まだまだ終わりは見えません。
「でも、何だってそんなアブナイことしたんだろ?」
田中くんは納得いかないようだった。私もあんまりいかないが……。
「大気中の魔力素を集めて使うには、今の人類はあまりにも未熟です。なので、魔力が結晶化した魔結晶がエネルギー資源として重要なんですが、それは今の地球にはない。だから魔結晶をあてにすることはできなかったんですけれど……」
松上少年は説明しながら、一同を見回す。何だか学校の先生みたい。
「地獄という魔力に満ちた場所とつなげることで、大量の魔力資源を得ようとしたんでしょ。未熟な術をカバーするためにもね。でも、失敗した」
「そして、危険な外来生物……じゃない、モンスターを呼び込む羽目になったわけね……」
私は何とも言い難い気分で、頭を振った。
「さすがにあの失敗で懲りたようで、以降同じような実験は行われていないです。もっとも、この国に限った話ですけどね。外国じゃあ多少危険をかえりみずに独自の異世界ゲートを開く実験が繰り返されてるみたいです。まあ、十中八九つながるのはダイノヘイムにですけれど。おそらくはほとんどが海のど真ん中でしょうね。あっちは8割が海だから」
「海上にも、魔物の類はたくさんいるがな?」
ダークエルフはクスクスと笑う。
それを見る松上少年はうんざりしたような顔になった。
「中には水陸に適応できるタイプもいる。そのうち、馬鹿でかいモンスターを召喚してえらいことになるでしょうよ。もうなっているかも」
「……」
私は脱力する。
仮に異世界転移が何とかなったとしても、地球は危なそうだ。
人間自身が未熟な技術で危険を招き寄せているのだから……。
「でもさ。あんた、助けてやるみたいなこと言ってたけど、その保証あるのか?」
田中くんはダークエルフを疑い深そうに見た。
「ないな。ま、助けてやると言っても、私個人のできる範囲だから」
「ダークエルフ全体じゃあないのね……」
私は苦笑した。何となくそんな気はしていたが。
「お偉方に一度報告したが、ほっとけと言われたよ」
と、ダークエルフは笑う。
「まあ、自分の力もわきまえずに鎖国した人間が、転移でどうなるのか……。見世物としてはそれなりに上等だわな」
「見世物だと!?」
ダークエルフの軽口に、田中くんが立ち上がった。
「落ちつけよ。坊や」
つかみかかりそうな勢いの田中くんに、ダークエルフはまったく動じない。
「チンケな魔力を得ただけで神様気取りに増長する女。それを何ともできない男。一体どこを褒めたたえたらいい? どこの国、どこの民族を見ても大した違いはない。これで人間だけの世界だったらまだわかるがな? エルフをはじめとする他の種族の存在を知ってなお……」
この有様だ、とダークエルフは肩をすくめた。
「まだ魔法を禁忌として捨てるほうが健全だぞ。ある意味ではな」
「しかし、すでに害はなされた。それをグダグダ言っても始まらないのですよ」
松上少年は田中くんを座らせ、茶器を手に取り、
「我々はこの先、魔女狩りに加えて、転移としてそれに合わせて起こる災害に――」
対処せねばならなくなりました、と言ってお茶をカップに注ぐ。
「魔女狩りとテロリストだけでも散々だったのに……」
田中くんは元気さをなくし、グッタリとうなだれていた。
「ええ。ですから、こうなったらどんどん人を巻き込みましょう」
と、松上少年は手を広げた。
「巻き込む?」
「いかにも。まずは、我々の家族から――」
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