その109、会談にて――
嫌な沈黙がその場を支配した。
ダークエルフはただ一人、面白そうにニヤニヤしているが……。
「それを私たちに話した目的は? 嫌らがせ?」
私は追い詰められた心境から、つい毒舌を吐いてしまう。
「まあ、それもあるが……別の契約者から頼まれたんでな」
ダークエルフは少し居住まいを正し、紅茶を飲み干した。
「別の?」
「ああ。山田と言えばわかるか」
「山男のあんちゃんか……!」
私よりも先に田中くんが反応した。
「転移のことを話したら、何とかして欲しいとしつこく頼まれてな。で、根負けした」
「彼が……」
「世の中をすねて、恨んでいた男が、どういう心境の変化かなあ」
不思議そうにダークエルフは言うのだった。
「それで。我々を援助でもしてくれるのですかな?」
松上少年が膝を一つ叩いて言った。
「ああ。そうしてやってもいい。だが、転移はどうにもならん」
「なりませんか」
「ああ。ならんな。まさに神の思し召しってやつだ」
「神ねえ。あなたたちも神様を崇めていると?」
私はちょっと意外だった。イメージ的には神様とは対立しそうな種族である。
「世界に満ちる数多の神々には敬意を持っているさ」
お前ら風に言うと、八百万の神々か? とダークエルフは笑う。
「そういえば、エルフ族も多神教だったなあ」
松上少年は思い出したようにつぶやく。
「そう。特に原初の大神にはな。我らは大神のしもべとして造られたとされる」
「ふうん。まあ、信仰のお話はいいとして……具体的にどう助けてくださるの?」
私はお茶のお代わりを煎れながら、チラッと見る。
「そうだな。日本が転移した際には、我らで援助してやろう。完璧とはいくまいが」
「なるほど。それは助かりますな」
松上少年はうむ、とうなずいた。
「他にできるのは、事前の対処だな。まあ、遅れている魔法を強化してやるか」
「それもありがたい!」
またも松上少年は膝を打った。
「けど。今の政府がYESというかしらね……」
異世界とは距離を置いている魔女党政権だ。
「だったら、それが倒れればいいんじゃないか?」
「クーデターでも起こす気?」
ダークエルフの笑みに、私はつい嫌な顔をしてしまう。
「それも面白いがな。政権に不利な情報をばらまけば、野党に比重が傾くだろうさ」
「例えば?」
「この間、蜂の魔物が大量発生したろう?」
「最猛勝……」
「あれはな。お前らの言う地獄に住む魔物だ。未熟な術で地獄の穴を開いたから出た」
「……!」
「やっぱりですか……」
困った……いや、困り果てた顔の松上少年を、私は思わず睨んだ。
「地獄なんてものが、本当にあるの?」
まあ、妖怪だの魔法だの異世界だのがあるのだから、不思議でもない……のか?
「仏教などの言うものとは、厳密には違いますがね。ダイノヘイムとは別種の異世界だというべきしょうか。僕も詳しいことはわかりませんが…………」
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