選考除外作品:『私が”猫が登場する小説大会”に参加しなかった本当の理由』
4月20日 土曜日
この日、とあるなろうユーザーとの別れを偲ぶ”猫が登場する小説大会”に参加していたなろう作家達は、受賞式が行われる会場に集まっていた。
「それにしても、ネコちゃんって本当に可哀想~~~!!凄く悲ピ~!」
「こうなったら、僕達のルサンチマン的なパワーを結集して、運営と現行社会を必ず転覆しようね♡」
なろう作家達が思い思いの言葉で偲びながら、受賞の瞬間を待ち望んでいた――そのときである!!
「見つけたぞ……卑劣な”なろう作家”どもめ……!!」
「――ッ!?」
ゾクリ……!!とする殺気を感じ、慌てて振り向く猫小説企画の参加者達。
彼らの視線の先にいたのは、七つの目を持った羊がモチーフの旗を掲げた謎の武装組織らしき者達だった。
突如、会場に現れた招かれざる客を前に、なろう作家の一人が声を上げる。
「な、なんなの貴方達は!?……この場所はネコちゃんを大事に想う人しか入れない聖域なんだから、野蛮な存在は立ち入り禁止よ!!」
そんな女性作家の声を聞いても、武装組織の者達は特に動じる素振りを見せない。
怒るでもなく、むしろ楽し気な笑い声すら上げながらなろう作家達に向けて答える。
「野蛮な者達が入れない聖域、とやらか。ならば、何も問題はないな!……我等は、悪しき猫文化の侵食からこの地上を護るために立ち上がった聖戦士なのだからな……!!」
「あ、悪しき猫文化の侵食だって!?……何を言っているんだ、君達は!」
そんな男性なろう作家からの指摘を聞いて、武装組織を率いているらしい男が堂々と名乗りを上げる――!!
「我々は救世武装組織:”黙示録の羊”。――この転倒した日本社会において、あまり馴染みのない羊文化を定着させるために日々邁進し続ける者達なり……!!」
「救世武装組織:”黙示録の羊”……?そ、そんな人達が何故、私達が参加する”猫が登場する小説大会”とかいう企画に武装した状態で乗り込んでくるのよ!?」
羊とは何の関係もないなろう作家達の困惑は当然のことである。
そんな彼女達に武装組織の首領が説明を続ける。
「我々は、この日本という国に古くから伝わる”干支”という観念において、他の干支の動物達と違って羊だけが日本文化に馴染みがなさすぎる事を懸念していた……」
首領の言葉を聞いて、これまでの憤怒から悲哀に満ちた表情を浮かべる”黙示録の羊”の戦闘員達。
とはいえ歴史的に見れば、それも仕方のない事であった。
何故なら”干支”とは大陸から来た観念であるのだが、羊を貴重な畜産として扱ってきた大陸の文化とは違い、日本にもともと羊が生息していなかったため、他の干支の動物と違って圧倒的に馴染みがなかったのである。
「それでも、我等はこの転倒した現代社会において、”羊”と言う動物の地位を向上させようと地道に羊文化を日本に定着させるための草の根活動を行ってきた。……だが、そんな我等の奮闘を嘲笑うかの如く、踏みにじってきたのが貴様等だ! なろうユーザーども……!!」
強い殺気と共に、首領がなろう作家達を睨みつける。
首領の殺気を前にし、猫企画に参加していたなろう作家達は恐怖で身動きが取れなくなっていた。
そんな彼らに構うことなく”黙示録の羊”の首領が、激しい怒気と共に言葉をぶつける――!!
「貴様等はこの”小説家になろう”というサイトの企画作品を通じて猫文化を大衆に拡散し、干支から”羊”を追い出し、猫が取って代わるための卑劣な文化侵略を企てようとしていた!!……そのような蛮行、断じて許し難しッ!!!!」
首領の言葉に続くように、居並ぶ”黙示録の羊”が続いていく。
「そうだ! 新年明けの歌舞伎などの演目で、何故羊年なのに『羊にちなんだ作品がそんなにないから……』という理由で、猫が主役の演目を見せられねばならんのだ!……古典芸能だけでは飽き足らず、現代においてもなお”羊”の出番と希望を積み取ろうとする貴様等の蛮行、我等の慈悲は既に枯渇したモノと知れィッ!!」
「”猫が登場する小説大会”企画と参加者共に、煌々と王道照らす牡羊座の裁きあれッ!! ……これまでは定着しなかった。だが、この全てが転倒したこれからの”時代の変換期”ならば違う!! ――この一戦こそが!”羊”の未来を”猫”の支配から取り戻すための最後の戦いとなるのだ!!」
『ウオォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!』
歓声を上げながら、”黙示録の羊”の武装戦士達がなろうユーザー達へと襲い掛かる!!
多少怖気づいたモノの、”猫が登場する小説大会”企画に参加していた者達は”なろうユーザー”としての本分を思い出し、次々と迎撃に当たる。
「喰らえ!”ナロウ=レイン”!!」
なろう作家の一人が自作品の力を膨大な数の矢に変換し、次々と撃ち放つ――!!
『グアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!』
矢を受けた武装戦士達が、次々と倒れていく。
それを皮切りに、猫企画に参加していたなろうユーザー達が、それぞれの自身の力で敵を撃退する事に成功していた。
「イケる!!……この調子なら、僕達も勝て、る……」
そこまで口にしてから、男性なろう作家が驚愕に目を見開く。
他のなろう作家達も、彼が見つめる先に視線を移すと、そこには信じられない光景が広がっていた。
なんと、これまで倒したはずの”黙示録の羊”の戦士達が再起不能の傷を負ったにも関わらず、まるで不死者のように起き上がり、復活を遂げていたのだ。
あまりの異常事態を前に、呆然とした表情で立ち尽くしながら絶句するしかないなろうユーザー達。
そんな彼らの表情を楽しそうに眺めながら、首領の男が種明かしを行う。
「我等”黙示録の羊”に連なる者達は、この転倒した日本社会において”羊”文化が他の干支の動物達と同程度に定着するその日まで、倒れる事を知らず。……それが我等が得た誓いの加護:”黙示録の日まで”である……!!」
「”黙示録の日まで”、だって……!?」
羊文化が日本社会に根付くまで、戦士達から安息の日々を奪う絶対の加護:”黙示録の日まで”。
未来の事は分からないが少なくとも現在においては破ること叶わない、まさに不死身の能力と言っても過言ではなかった。
絶望に覆い尽くされ立ち向かう気力を失くしたなろう作家達を前にして、首領が戦士達へとトドメのための号令を呼びかける。
「今こそ、人類が積み上げてきた尊い歴史の力を結集し、邪悪なる十三番目の侵略者に正しき秩序を叩きつけるときである!!……者共、かかれッ!!」
オォ……!!と不気味な唸り声ともいえる返事が首領へと返される。
ただならぬ事態を感じ取ったなろうユーザー達は、防御陣形:”猫のいる喫茶店”を形成して敵の攻撃に備える――!!
「フフフッ!……私達とネコちゃんとの"絆"をもとに練り上げられたこの陣形、貴方達に突破出来るかしら!?」
だがそんな自慢の防御陣形すらも、猫文化を既存の秩序を脅かす"絶対悪"と見なす事により、羊だけではない他の十二支の動物達の強大な力を収束して放つ攻性術式:"十二の誓い"の前にあっけなく破れ去る事となった。
『ウワァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!?』
「わ、私達"なろう作家"では、羊を愛する心に勝つ事は出来ないの……?」
なろう作家の一人が、呆然としながら呻き声とともにそう呟く。
全員一命は取り留めているモノの既に絶体絶命の状態であり、後は”黙示録の羊”の戦士達によってトドメを刺されるのを待つばかり――だと思われた、そのときである!!
「そこまでにしておきな、哀れな”迷える羊”ども。……そこから先、まだ何かしようっていうんなら、この僕が羊の毛皮よろしくお前達の身ぐるみを剥ぐ事になるぜ?」
”黙示録の羊”の首領が、声のした方へと勢いよく振り向く――!!
「ッ!! 貴様、何奴ッ――!!」
「赫疾駆天舞冷奴、ってね。……僕の名前は、赤城てんぷ。人呼んで――”山賊”って奴さッ!!」
「山賊、だと?……そんな奴が、この場に一体何の用だ!?」
怪訝そうな表情の”黙示録の羊"の首領に対して、赤城てんぷがニヒルな笑みを口端に浮かべて答える――!!
「決まっているだろ。僕は世界を平和にしつくす"山賊小説"を執筆してきた者として、このくだらない茶番劇をイカしたナンバーを奏でながら終わらせにきただけさ……!!」
あと、この企画の主役とも知らない仲じゃなかったしね、と赤城てんぷは続ける。
そんな彼の態度から圧倒的な強者の雰囲気を感じ取った首領は、何かをされる前に速攻で勝負を決めるために、再び配下の者達と共に"十二の誓い"を赤城てんぷに向けて撃ち放つ――!!
「これで……終わりだァァァァァァァァァァァァァァァッ!!」
首領が盛大に叫び声を上げる――!!
……だが、その目論見が成功する事はなかった。
荒れ狂う"十二の誓い"の奔流は、突如目標を見失ったかのように迷い始めると、誤った判断をくだした者達の責任を追及するかのように”黙示録の羊”の戦士達のもとに突撃してきたのだ――!!
『ウワァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!?』
この予期せぬ暴発によって、兵の大半が”黙示録の日まで”を持ってしてもすぐに復活出来ないくらいに再起不能となっていた。
首領が困惑した様子で、疑問を口にする。
「な、何故だッ!? 赤城てんぷといえば、"ネコ丸"とかいうそのまんまなタイトルの猫文化小説を執筆していたはず!? そんな奴に何故"十二の誓い"が誤作動を引き起こす事になるのだ!!」
そんな疑問に声を上げたのは、追いつめられていたなろうユーザーの一人だった。
「ま、まさか……赤城てんぷさんが、私達の”猫が登場する小説大会”に一度も参加しなかったのは、この事態を見越していたからなの!?」
その言葉を聞き、赤城てんぷを除いた全ての者が驚愕を浮かべる。
だが、そう考えれば全てに辻褄が合うのだ。
"ネコ丸"という言い逃れをする事が不可能な猫文化小説を連載している以上、対・猫文化属性を誇る"十二の誓い"を行使できる”黙示録の羊"の戦士達を相手に、赤城てんぷが勝つ事は不可能である。
ゆえに赤城てんぷは、猫文化の象徴ともいえる”猫が登場する小説大会”に全く参加しない事によって、自分自身を真の猫好きとは到底言えぬ超絶にわか丸出し者として認識させる事に成功したのである。
「……更に僕は、4月15日生まれの"牡羊座"。そんな僕から愛すべき"羊"の気配を感じ取ったお前達の魂が、羊の力を用いてそんな僕を消し去るのを躊躇った結果、"十二の誓い"とやらが暴発するに至った……って、ところかな?」
「し、知らなかった!!……赤城てんぷが企画に参加しなかったのは、他の連載や仕事とかで忙しかったからじゃなかったのか……!?」
「これほどの深謀遠慮の持ち主……到底、我々が太刀打ち出来るような存在ではない……!!」
企画参加者や”黙示録の羊"があまりの衝撃で膝をつくなか、首領が部下達に指示を飛ばす――!!
「おのれッ!!……こうなったら、普通に銃で奴を撃ち抜け!」
「ハッ!了解しました!」
首領の指揮のもと、赤城てんぷに向けて一斉射撃を行う兵士達。
流石に迫りくる銃弾にはマトモに戦えないので、赤城てんぷは逃げ回る事にした。
「とんずらー!」
赤城てんぷは逃げ惑っている内に、授賞式の会場裏へと辿り着いていた。
「これで銃弾の雨あられを回避出来るぜ!……って、なんじゃこりゃ?」
彼の視線の先。
そこに存在していたのは、黒い猫耳パーカーを彷彿とさせるような漆黒の輝きを放つ高位のエネルギー体であった。
軽く戸惑う赤城てんぷに対して、参加者達がうずくまりながら制止の声を上げていた。
「それは、この企画の主役であるネコちゃんが、この"小説家になろう"からいなくなる前に抽出した高エネルギー:"ネコ=マル"よ!! 貴方みたいな卑賤な山賊なんかが触れて良いモノじゃないの! ……だから、さっさと離れなさいッ!!」
「そうだ! その"ネコ=マル"は猫文化への愛を示した企画優勝者にのみ与えられる特権なんだ! 分かったら、山賊らしく僕達に迷惑のかからないところで国家転覆活動をしてろ! 成功した時は僕を最高顧問にしてくれても良いよ♡」
それに同調するような罵詈雑言の数々が、企画参加者から赤城てんぷに向けて放たれる。
だが、対する赤城てんぷはそれでこそ興が乗ったと言わんばかりに、ニヒルな笑みを浮かべて"ネコ=マル"に手を伸ばす――!!
「選ばれた者にのみ与えられる特権、か……それなら、俄然"山賊"としてモノにしたくなってきたズェ――!!」
"ネコ=マル"を掴んだ赤城てんぷの身に、激しき漆黒の雷が迸る――!!
「う、うぐぅ……!! たいやき、食べたい……!」
苦悶の声を上げる赤城てんぷ。
そんな彼の様子を見た参加者の一人が当然だと言わんばかりに、呆れともいえる表情を浮かべていた。
「その"ネコ=マル"はネコさんの想いから成り立っている以上、当然ネコさんの『ヒロインランキング企画に参加するような奴は絶対に許せない!』という理が組み込まれている。……だから、お前がそれを手にする事は、最初から不可能だったんだよ。赤城てんぷ……!!」
"ネコ=マル"のもととなった人物が、自分のお気に入りヒロイン十人を発表する『オススメヒロインランキング』に対して、「ランキング制度を占領した内輪向けの極致!!」と、激しく憤慨していたのは、あまりにも有名な話である。
何せその怒りは筋金入りであり、ヒロインランキングという企画に作品ではなく活動報告という形式で参加した盟友にして今回の企画主催者:アーヤ氏にまで「実にけしからん!」と、怒りをぶつけていたほど……といえば、その憤激ぶりは察するにあまりあるだろう。
だが、そんな激しい拒絶反応に身を曝されながらも、赤城てんぷは"ネコ=マル"を強く握りしめる。
(……僕は"山賊"として、自分の世界で生きる皆の事を守りたい――!!)
そんな彼の意思に呼応するように、"ネコ=マル"から意思の力が赤城てんぷへと流れ込んでいく……!!
(ッ!? そうか、それがお前の求めるモノなんだな! ……その願い、確かに託されたァッ!!)
赤城てんぷの了承を聞いて安堵したかのように、漆黒の雷が徐々に収まっていき、"ネコ=マル"は赤城てんぷの腕の中で姿を変えていく。
「な、なんじゃと!? 盟友のアーヤ殿すら許さなかった"ネコ=マル"が、あの山賊などを自身の正統な所有者に認めたというのか!?」
長老格の企画参加者が驚愕の声を上げる。
参加者達が信じられない、といった表情を浮かべるが、現に"ネコ=マル"は赤城てんぷの掲げる腕の中で、一振りの大剣と化していた。
『ヒロインランキング』参加者でありながら、唯一"ネコ=マル"に認められた存在――赤城てんぷ。
そんな彼の泰然とした在り方、相剋を成した偉業を讃えるが如く、真理超越剣:『二律背反之武冷奴』が極大の輝きを放っていた。
『二律背反之武冷奴』を手にした赤城てんぷを前に、たじろぎながら"黙示録の羊"の首領が啖呵を切る――!!
「御大層な武器を手にしたようだが、”黙示録の日まで”の加護を得ている我等は不滅!!……どれだけの攻撃を放とうが、貴様の力が先に尽きるだけの事だと知るが良いッ!!」
現に、再起不能になったはずの兵士達も既に復活を果たしていた。
このまま、"黙示録の羊"の兵士達の命と赤城てんぷの『二律背反之武冷奴』の力、どちらが先に尽きるかの持久戦になるかと思われたが……そうはならなかった。
「いや、僕はお前達とは戦わないぜ。……何せ、こうするからな!!」
「ッ!! な、何だとッ!?」
"黙示録の羊"の戦士達だけではなく、企画参加者達まで絶句する。
なんと!赤城てんぷの『二律背反之武冷奴』による強大な斬撃は、"黙示録の羊"の戦士達ではなく、”猫が登場する小説大会”の授賞式会場に向けて放たれていたのだ――!!
漆黒のエネルギーの奔流が、会場を跡形もなく呑み込んでいく――。
「ウォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!」
裂帛の気合いと共に叫びながら、これで本当に良かったのかと握り締めた武器に問いかける赤城てんぷ。
そんな彼にもたらされたのは、現在の猛攻からは程遠い"ネコ=マル"からの穏やかな了承の意思であった。
(これで良いんだ。……俺を偲んでくれるのは嬉しいけど、流石にそれで大事な皆が傷つくのはバツが悪いしね)
だから、と"ネコ=マル"は続ける。
(この”猫が登場する小説大会”企画を壊し尽くしてくれてありがとう。――明石埜さん)
『二律背反之武冷奴』の奔流が収まっていくのと同時に、"ネコ=マル"の意思も薄まっていく。
やがて、優しげな一陣の風に導かれるように大剣は光の粒子となって、儚く赤城てんぷの前から消失していった――。
――”猫が登場する小説大会”会場跡地
戦いの悲惨な跡が残るこの場所を、企画参加者や"黙示録の羊"の戦士達が立場や思想の違いを越えて協力しあいながら復興事業に勤しんでいく。
そんな様子を満足そうに眺めながら、無言でこの場を去ろうとする赤城てんぷに呼び掛ける声があった。
「ま、待ってください!……赤城てんぷさん!!」
「……君は」
赤城てんぷが振り返った先にいたのは、一人の少女だった。
彼女こそが"ネコ=マル"の盟友にして、今回の企画主催者であるアーヤその人であった。
急いできたのであろう、息を切らせながらアーヤは赤城てんぷへと語りかける。
「今回は大惨事になるところを助けて頂き、大変ありがとうございました。……それと、ネコ先輩の魂も救って頂いて、本当に感謝のしようもありません。……赤城てんぷさん、本当にありがとうございます!!」
見れば彼女だけでなく、他の参加企画者や"黙示録の羊"の戦士達も復興作業を中断し、赤城てんぷに向けて深々と礼をしていた。
慣れない扱いに苦笑を浮かべながら、赤城てんぷが答える。
「なに、大した事はない。今回は危なかったかもしんないが、次で取り返せばそれで良いのさ。……だから、何があったとしても"BE-POP"な意思だけは捨てるんじゃないぞ?」
そんな赤城てんぷの言葉に対して、アーヤが強い頷きを返す。
「ハイ!今度こそは、誰の犠牲も出さずに"猫"や"羊"の隔たりもない皆が楽しめる企画を開催してみせます!!……だからそのときは、必ず私達の活躍を見ていてくださいね!」
「……あぁ、宇宙仏契約で約束するさ……!!」
アーヤだけでなく、今回の騒動に関わった者達の瞳には強き"BE-POP"な灯火が宿っていた。
そんな彼等に満足そうに頷きながら、赤城てんぷは今度こそ背中を見せて颯爽とその場を後にする――!!
「お元気でー!赤城てんぷさん!!」
「次に出会うときは、とっておきのジンギスカン鍋を振る舞ってやるぞ……!!」
「もちろん、ネコマヨネーズ和えでね♡」
ドッ!と明るい笑い声が、盛大に場を賑わせる。
"アカウント剥奪"は、終わりではない――。
その事を証明するかのように、"ネコ=マル"のために集った皆を、明け透けながらも楽しい雰囲気が包み込んでいた――。
〜〜???〜〜
会議室らしき場所に、尋常ならざる雰囲気を纏いし者達が集結していた。
その中の一人が、おもむろに口を開く。
「……"黙示録の羊"の奴等を焚き付けて、”猫が登場する小説大会”に参加していたなろうユーザー達を殲滅するはずだったが……まさか、"山賊"がこんなところで邪魔をしにくるとは!……おのれッ!!」
「然り。……まったく、これでは全ての人類を意思なき歯車として現代社会に組み込む計画に、大幅な変更を加える事になりそうですな」
彼らは、全ての知性と意思ある者達を、代替可能な現代社会の歯車として組み込む事を目論む勢力であった。
その一環として、"黙示録の羊"の戦士達に”猫が登場する小説大会”を襲撃させる計画を進行していた。
それにより、自由の象徴である"猫"のような者達よりも、従順な"羊"のような者達が優秀である!と世間に印象付けを行い、"現代社会"に歯向かう者がいない世界を築き上げようとしていたのだが……そのような邪悪な目論見も、現代唯一の山賊といえる"赤城てんぷ"によって、瀬戸際に防がれる事となった。
壁に立て掛けられた赤城てんぷの写真に、ナイフが勢い良く突き刺さる――!!
「忌々しい"山賊"風情が、我等の崇高な計画をよくも……!! こうなったら、次こそはその息の根を止めてやるぞ!……赤城てんぷッ!!」
怒気や嘲笑、冷酷な蔑視が場に充満する。
人々が新しい時代の始まりと共に平和を謳歌する中で、邪悪なる息吹が静かに胎動していた……。
現代唯一の山賊:赤城てんぷ。
人々の未来を巡る攻防が続く限り、彼の戦いは終わらない――!!