第4話
「ちょっと!ぼけっとしてないで、なんか言いなさいよ!」
目の前でアメリカからの留学生が日本語でなにやら叫んでいるのが見える
「……?」
「聞いてんの!?Can you hear me?[聞こえてんの?]」
この訳の分からない状況に理解が追いついていない俺は、困惑の渦に飲み込まれていた
「あぁ… えーっと その、なんで日本語が? 俺が聞いた話だと日本語はまだそこまで上手くないはずだよね?」
とりあえず、状況把握をしなくてはいけない
そこで俺は今1番の疑問をぶつけた
「そんなこと今関係ないわ」
アリサは俺の疑問を一刀両断するように首を振った
フワッと靡く金髪の美しさに囚われてしまいそうになる
「いや大有りなんだけど… というかさっきも聞いたけど、日本に来た理由はなんなんだ?」
「ハァ…」
どうやらアリサは自分に対する詮索にうんざりしたらしく、大きくため息を吐いた
そして、眉を寄せピースサインをこちらに向けながら
「いい?現時点で私はアンタのせいで2つの大問題を抱えてるの。1つはアンタが私のサポートだがなんだかになってしまったこと。2つ目は私が日本語ペラペラなのがバレちゃったことよ!」
こう話した。
ふむふむ。なるほど。納得いかん。
可愛いからって俺は屈しない
「1個目に関しては、そっちから先生に断れば良かったんじゃないのか? あと2つ目に関しては完全に自爆だろ!俺は関係ないぞ??」
そっちが勝手に日本語で話しかけてきたんだからな??
「私はこの学校の優等生なのよ?先生のご厚意を断れる訳ないでしょ?? 私は頼んでないんだから、アンタが引き受けさえしなければよかったのよ。そうじゃなければ、私も勢い余って日本語がポロリすることも無かったわ」
転学初日で優等生を名乗り出すとは、恐れ入りました
俺が知ってる優等生は、こんな言いがかりはしないはずなんだけどなあ
このアメリカ産の優等生は日本のそれとは違うようだ
あと、勢い余って異国語喋るってどういうことなの?
しかし俺が引き受けたのが悪いなら解決策は1つしかないだろう
「なら俺から断ってくるか? そうすりゃ済む話なんだろ?」
「それはダメよ」
「なんでだ?」
「私の日本語ペラペラ死活問題が解決してない」
あの、死活問題の管理能力大丈夫ですか?優等生さん
早速1人にバレちゃってますよ
この勢いなら明日は2人目にバレますね
「秘密にしとくから、安心しろよ」
「私はそんなに甘くないわ」
えー もうどうしろと言うんですかねえ…
先程からアリサは眉をひそめて鋭い目つきでこちらを睨み続けていたが、なにかを決めた様子で、表情が緩み俺にこのように告げてきた
「アンタは私のサポートをそのまま引き受けなさい。ただし、その役割が違うわ」
「役割?」
よくわからないので続きを伺う
「エセ通訳をしてちょうだい。私が英語しか話せませんよっていう体裁を立てるためのね」
エセ通訳とか世界で1番ムダな職業ランキング1位に輝きそうだな
「なるほどな。先生の依頼を引き受けたからにはそれをやるまでだが、いつかはお前も日本語を話せる事をみんなに明かさなきゃいけないんじゃないのか?」
そうしないと友達作りも難しくなってくる
俺に頼りっきりではアリサのためにもならない
「そうね。だから最初はカタコトでコミュニケーションをとることにするわ。それでだんだん慣らしていけばうまくいくでしょう」
いいアイディアかもしれない
今の状況ではこうするしかないだろう
「つまり俺の役割は、お前の日本語習得過程の虚偽再現のお手伝いという訳だな」
かなり意地悪な言い方をしてみた
怒るかと思ったが、思いのほか上機嫌で
「その言い方は気にくわないけど、今回は許してあげるわ」
上から目線は変わらないが、少し笑っていたので初めてみる表情に不覚にもドキッとした
俺、Mなのかな…
「そりゃどーも。んじゃ話も終わったし帰るわ」
よく考えると、絶世の美少女と教室で2人きりという、とんでもない状況であることに気づいた
この空間に、もう耐えられない!!
なるべく、焦りを悟られないように早く帰りたかった
「じゃあな」
「ええ、さようなら」
「おう」
カバンを持って急いで教室から出ようとした時、なにかを思い出したようにアリサは俺を呼び止めた
「あぁ、それから…」
「ん?なんだ?」
早く出してくれ
「もし、アンタのサポートがうまくいったら、1つだけなんでも言うことを聞いてあげるわ」
アリサは意味深な笑みを浮かべて俺に言った
それってやばくねーか?どんな願いごとでもいいならキスしてくれとか結婚してくれとかでもいいってことだよな?
頭の中で卑猥な妄想を繰り広げてしまった
「言っとくけど、常識の範囲内よ?アンタみたいな変態ケダモノの願いを聞くだけでもありがたいと思いなさい?」
「いや俺まだなにも言ってないけど…」
心の中を見透かしたのかこいつ…
けど今のは俺が悪いので仕方がない
「ふふっ まあいいわ また明日会いましょう」
そういって、いつのまにか帰る準備を終えたアリサは俺より先に教室から出て行った
あ。
鍵閉め俺じゃん
めんどくさいな
でももっと面倒なことが明日から始まるんだよな…
先が思いやられるぜ。