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第12話

家に帰ると、玄関に見知らぬ靴があった


靴のサイズは俺と同じか少し大きいぐらい

つまり、男物ということだ


もしや雪奈の彼氏か!?


お兄ちゃん以外の男がいたなんて…!


焦りと不安を抱えたが、その靴の持ち主を彼氏と呼ぶにはあまりに年齢差がありすぎる上、倫理的な問題が発生することを後で知る


とりあえずリビングに向かうと、ソファーに座っていたのは男性、正しくは父親だった


「おお、おかえり 幸真」


父の突然の帰宅に動揺する俺


「えっ… あぁ、ただいま。帰って来てたんだ」


もっと『お疲れ様』とかマシな言葉をかけたかったが、ビックリしすぎてこんな言葉しか出なかった


「春先の多少忙しい時期だったが、なんとか無理言って休みを取ってもらったんだ。2人なら大丈夫だと安心してるとはいえ、我が子が心配でしょうがないからね」


そうだったのかと思っていると

横から雪奈が嬉しそうに会話に混ざってくる


「兄ちゃんおかえり! お母さんがいないのは残念だけど、今日は3人でご飯食べようね!」


仕事の都合で家にいないことが多いウチの父母なので、家族4人揃って食卓を囲むのはそう多くない


今回も母が不在となってしまった


だが父と雪奈、3人での食事もきっと楽しいに違いない


「ただいま、雪奈。そうだな 3人で食べよう」


「うん! 今日はハンバーグだからね!お父さんの好物!」


父さん、ハンバーグが好きだったのか?

初めて知ったんだが


「おぉ〜!これは楽しみだな」


するとキッチンからタイマーの鳴る音が聞こえてきた


「あっ火を止めなきゃ あとちょっとで出来るから2人とも待っててね〜」


そういって雪奈は嬉しそうにキッチンへと戻っていった


「……」


「、、、」


この上なく気まずい空気だな


俺と父の仲が悪いとかそういう訳ではない


単純に話す機会があまりにも少ないので、なにを話していいかわからないのだ


こういう時、普通の親子って何話すんだ?


「ははは、すまんな 俺がこんなダメ親父なばっかりに親子の距離感すら掴みにくい状況になってしまって」


「何を言っているんだ父さん 確かに他の家庭と比べれば父親らしい所は少ないかもしれないけど、俺と雪奈の生活があるのは父さんと母さんのおかげじゃないか」


父に変な気を使わせて申し訳ないと思う


日頃述べたかった感謝をここで述べることにした


「お前が優しい息子に育ってくれて本当に良かったよ」


俺が、か


いやきっと俺が1人息子なら絶対にグレてたに違いないだろう


よくある話ではないか

親子の距離が原因でグレる中高生

(必ずしもそれだけが原因とは言えないが)


「いや、俺だけの力じゃない 雪奈がいなかったら俺は…」


言葉に詰まってしまった


次に何を話せばいいのか分からない


雪奈を妹にしてくれてありがとう、とでも言えばいいのか?

なんか気持ち悪いだろそれ


「まぁなんだ… 元気そうでよかったぞ ところで学校はどうだ?」


「普通かな 特に困ったことは… ん、あるわ」


困ったことと言うのはちょっと違うが

アリサについて話そうかと思った


一方で父が心配そうな顔をしている


「どうしたんだ 大丈夫か?いじめられてるのか?」


「何、そんなんじゃないよ 今年から転校生がいるんだけど、そいつが面白い奴でさ」


「へえ 詳しく聞かせてくれ」


アリサについて語ろうとすると

キッチンから雪奈の声が届いた


「2人とも〜ご飯できたよ!!」


「んじゃ 続きは飯食いながら話そうかな」


「あぁ」


父と俺は食卓に向かった


--------------


久しぶりに家族3人で囲む食卓はいつもと違う雰囲気でどこか緊張してしまった


母がいないのが非常に惜しいが、予定が合わないんじゃしょうがない


「んふふっ お父さん、おいしい?」


「あぁ 雪奈のハンバーグは宇宙1だな」


「わーい! えへへっ」


俺が褒めたときは素直に喜ばないのになんだこの差は


今日の雪奈はいつもよりテンションが高く、父にべったりだった


「そうだそうだ、幸真 さっきの続きを」


父に言われてようやく思い出した


雪奈のハンバーグの味に酔いしれていたんだ


「なーに? なんの話?」


「幸真の学校に転校生がやってきたんだが、その子がとても愉快な子らしいんだ」


「あ、それ前話してた美少女さんのこと?」


「なにっ!? 幸真、結婚はまだ早いぞ!!」


お二人で話を勝手に進めないでください


まだアリサは友達です、とすら言ってないのになんで結婚とかそういう話になるのですか


「話が飛躍しすぎだよ 1から説明するわ 始業式の日に転校生が来たんだよ--------」


俺は今日まで過ごしたアリサとの日々を語った


「えぇ〜 漢字ドリルって アハハ おかしいね」


「うーむ 謎の多い子だな おそらく、喋れても読み書きが苦手なパターンかもしれん」


父の推察には俺も同意した


「ということは兄ちゃん、明日も部活見学するんだね」


「と思ってたんだけど、父さんがいるから早めに帰ろうかなと思うんだ」


別に大丈夫だ、などと言われるかなと思っていたら予想の斜め上を行く返事が来た


「私のことはいいから、アリサちゃんと青春してきなさい」


「私も兄ちゃんの恋を応援するよ これでもう嫁に来いなんて言わないでね」


いや待ってください

青春でも恋でもなんでもないんだけど


あと何があっても雪奈は俺の嫁だ

俺の嫁だ(大事なことなので2回言いました)


「なんか曲解されてるけど? でもわかったよ 明日も同じ時刻ぐらいに帰るわ」


俺は最後に残していたトマトも平らげた


「ご馳走様でした 少し部屋でくつろいでくる」


「はーい」


「わかった」


俺は食卓を後にして自室に入った


普段は、自室に戻って携帯の通知やSNSをチェックしたり、ソシャゲのログインをしてから宿題をするのだが、今日はなんと携帯に着信があった


「28件… 誰だこんなイタズラしたの」


知らない番号から28回も不在着信がかかっていた


折り返し電話をかけることもできるが、相手がわからないし正直怖い


というわけで着信のことはシカトすることにした


その日は、宿題を済ませた後、リビングで雪奈たちと団欒して風呂に入って寝た


--------------


「シクシク… シクシク…」


暗闇の中、遠くから泣き声が聞こえる


ここは以前来たことがある気がした


あの夢で見たんだったか…?


同じ夢を2回も見ることがあるんだな


そのまま俺の身体は意識の赴くままに泣き声の方へ向かっていく


行ってどうするんだ

行って何ができるんだ

行ってどうなるんだ


自分じゃない何かの思考が頭をよぎる


「うるさいな… どうにかするために行くんだろ 何かを成すために行くんだろ どうにかなるから行くんだよ!」


夢の中で俺はそう叫んだ



暗闇の奥で少女は泣いていた


ずっと1人で誰にも助けを乞うこともなく


もしかしたら


少女故に泣くのだろうか

泣く故に少女なのだろうか


いや、そんなことはどうでもいい


その涙は、声は、悲壮に満ちたものだ


出来ることなら、その苦しみを取り払いたい


目指すべき理想は


泣かぬ故少女

少女故泣かぬ、ということ


そして幸せであってほしいと強く願った


我儘であるだろうか


自己満足の偽善にすぎないのだろうか


「またくるよ… 何度でも」


俺は何故こう告げたのかは分からない


同じ夢がまた見れる確証もないのに


だが少女が助けを求めるなら何回でもここに来れる気がした


否、求めていなくとも

俺はそこに居たいと思うのだろう


何故かはわからない


俺故そう思うのか

そう思う故俺なのか


きっとこれもどうでもいいことなのだ


大切なのは、この救済の覚悟を決めたことなのだから

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